モテるのにも苦痛は感じる①

 眉毛、目、鼻、口の全てのパーツが整っているこの美人。学校で見る姿とは全くの別人である女、星澤紗夜。


 このお顔のおかげで中学時代はすべての男子にモテていた。どんなに冷たくあしらってもドMの男がそれを趣味に取り入れたり、孤高って感じがしていいよな、とかメンタルがおかしな男のせいでこの顔を隠すことになってしまった。


「改めて思い返してみるとやっぱり男って単純ね」


 顔がいいから許す、顔がいいから好き、顔がいいから……そんなことを言いながら私の周りにいた男はすべてを許してくれた。それは生徒に限った話ではなく、先生もすべてを許してくれる。宿題を忘れても「ごめんなさい」と呟きながらシュンとすれば慌てて私の機嫌を直そうと許してくれる。それどころか宿題を出さなくても出した判定になってしまう。もしかしたらあの教師が特別に変なだけだったかもしれないけど、私はそれが苦痛だった。

 普通の女の子として扱われない、特別な人だと思われる、それがどれだけ苦痛だったのか誰も知る由もない。

 だって……私ほどモテる人なんていないもん。こんな容姿端麗な私と同等、もしくはそれ以上の人なんて見たことないもん。

 こんな経験があるのは私ぐらいよ?例えば他の誰かが私と同じ経験をしたと言ったとしてもそれは嘘ね。私と同じ領域に立つ人物なんていないから。


 ベッドで仰向けながら顔に腕を置いて自分の凄さに浸る。


 今の私は普通の女の子……とは言い難いけど前と比べれば全然マシな方。だけど、何故か少し寂しいと感じてしまう。


 すると私の部屋の扉がノックされる。

 ベッドから体を起こして「はいはーい」と言いながら扉を開ける。


「あれ、姉ちゃんもう風呂入ったの?」

「ん?まぁね」

「そーなんだ。あ、ご飯できてるから」

「ありがとー」


 そんな他愛もない会話をしながら匠海と一緒にリビングへと向かう。


 机に並べられていたのは私の大好物のハヤシライスが二人分。今日は匠海が──いや毎日匠海が料理を作ってくれる。両親共に夜遅くまで働いてるので家のことはすべて私と匠海が片付けている。

 残念ながら私は料理が作れないので夕食は匠海が、その代わり私は洗い物や洗濯物などをしている。


「やったーハヤシライスだー!」


 ウキウキに席につく私に微笑を浮かべながら匠海も席につく。


「そんなに嬉しいの?」

「そりゃもちろん!ではいただきまーす!」

「どうぞー」


 手を合わせた後、スプーンでハヤシライスをすくって口に頬張る。


 先程まで感じていた寂しいという感情はもう頭の中にはない。私のことを特別扱いをせずにいてくれる人、そして私の満足を満たすハヤシライス。今だけは先程まで感じていた寂しいという感情はない。

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