弟妹の独り言②

  ◇ ◇



「そういえば勇ー?」

「ん?」


 病院からの帰り道、並んで歩いていると突然千咲から話しかけられる。


「今日映画行ったんだけどさ、そこで勇と似てる人と会ったんだよねー」


 そう言いながらピンと俺に指をさしてくる千咲。


 デート後に急いで来たもんだから見た目は陰キャのまま。この姿で映画館にいた似てる人といえば……名前はあまり出したくない人物のあいつぐらいだよな……。


 あいつではないことを願い、無表情を意識しながら千咲に質問をする。


「どんな人だったんだ?」

「もうそのまんま勇って感じだよー」

「それじゃわからん……服装とかさ」


「んー」と俺に向けていた指を自分の顎にくっつけて少し考え込む。

 数秒考えた後、またもや指をこちらに向けて口を開く。


「ほんとに勇って感じなんだよね。服装も同じだしリュックも靴も同じだったんだよ〜」


 千咲の言葉を聞いて俺は眉間を押さえながら溜息を吐いてしまう。


 やっぱりあいつだったか……まぁ見た目に関しては今回だけだ。次からはもう少し勉強してから望もう。絶対に同じにならず、そして目立たない服装をもっと漫画や小説で──


 内心で決意する俺の気持ちを遮り、千咲は「それに」と話を続けてくる。


「それに性格も似てる気がしたんだよね〜」

「まて、俺とあいつの性格を同じにするな?全く似てないぞ」


 俺が否定すると、千咲は心を読まれたと思ったのか目をかっぴらく。


「私の心読んだの!?」

「読んでねーよ。あとそんな目開くな気持ち悪い」

「気持ち悪いってひどい!」

「はいはい。それでそいつ赤紫色の髪だったろ」


 軽く話を流した俺の背中に一発拳を入れて「そうそう」となにもなかったように話を進めてくる千咲。

 俺も特に気にせずに千咲の話を聞く。


「もしかして勇のお友達だったのー?」

「友達以上だよ」


 するとなにかに気づいたのか、またもや目をかっぴらく。


「もしかしてあの人が彼女!?」

「そうだよ」


 千咲の目のことやあいつのことに呆れ混じりの溜息を吐く俺をよそに千咲がブツブツと独り言つ。


 そういやあいつにかなりまずいことしたな。初デートにも関わらず映画を一本見て解散してしまった。保険の彼女とは言え、一応俺を好んでくれているんだからちゃんと謝らないとな。そしてまた別の日にデートに誘ってやるか。



   ♤ ♤



「勇の彼女がまさかあの人だったなんて……でもあの人なら全然ありかも。勇は気づいてないかもしれないけど、あの人は勇と同じで隠してるだけで実際はすっごく可愛い。勇のメイクを手伝っているワタシだから気づけたけど、まさか勇と同種のあの子が保険の彼女だったなんて……面白いじゃない!勇には悪いけど見守らせてもらうね」


 クックックッとバレないように笑っているとこっちを見ている勇に話しかけられる。


「そういやなんの映画見てたんだ?」


 前髪のせいでどこに目線を向けているのかわからないけど、勘で目線を合わせて答える。


「窓のカラス締めって映画だよー」

「まじ?俺もそれ見てたんだよ」

「まじですか!?少し語りましょうよ!」

「ちょうど俺も語りたいと思ってたんだよな」


 かなりのオタクであるワタシ達は帰宅中、ずっと語り合っていた。

 その中でも一番印象に残っているのは勇が泣いたことかな?

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