第20話 原作の負けイベをぶち抜く

武具屋へと寄りダンジョンで入手した鉱石を仮面へ変えてもらう。

禁断の地に充満するガスは口や鼻から体内へ侵入して凶暴化を引き起こす。


故にそれを防護するための仮面だ。

言わばガスマスクのようなものだが、地球のデザインとはかなり異なっていた。


「ほら、ベルゼブブのマスクさ」


この世界でのガスマスクはベルゼブブをモチーフにしたデザインとなっていた。


「ありがとう」


礼を言い仮面を頭につける。

まだ街の中だ。


こんなものとフードを被って歩いていれば通報されてもおかしくないから、頭につけるだけ。


そのとき店主が話しかけてきた。


「あの鉱石を使って仮面を作れ、だなんて言ってきたのはあんたが初めてだが、禁断の地にでも行くつもりなのか?」


あいまいに答える。


「ただ顔を守るための装備が欲しかっただけだよ」


そう言ってみたが武具屋はコソコソ話をするように周囲を警戒した後に小声で話してきた。


「禁断の地へ行くのならあんたを凄腕と見込んで話がある」

「なぜ?」

「今呪術集団の【カーズ】がこの街に滞在していてな。ほら、この前白竜騎士団の白い牙が壊滅させられただろ?」


白竜騎士団、壊滅させたのは俺だから知っているが。


「その壊滅させた犯人は自分たちだって名乗り出してな。自分たちの呪いが通じたって騒いでる」


あの件に関しては俺も足が付くと思っていたが、どうやら自ら罪を被りたがる奴がいたとはな。


武具屋に続きを促す。


「これらを知った上で話を聞いて欲しいんだが、この街には闘技場があるのは知っているな?」


そう言って街の中心を指さしてきた武具屋。

そちらを見ると確かにあるが、


「あそこでは今奴隷同士を戦わせてる」


その話は知っている。

中でもとびきり強い女の奴隷の話も。


たしか


「犬耳の獣人が奴隷として戦っているんだったな。フェンリル、だったな?」

「そうだぜ。そのフェンリルは、禁断の地から来た、と言われてる。そして大魔術師にも出会った、との話だ」


原作通り、だな。


原作はそんな腕の立つと噂のフェンリルを仲間に加え入れようとしたが、街に来る前に彼女は命を落としていた。


死因は先程男の言った呪術集団【カーズ】がフェンリルを呪い殺したからだ。

なぜ、呪殺したかは【カーズ】が自分たちの力を世界に見せつけるため、だった。


これと同じことを目の前の男も話していた。【カーズ】がフェンリルの命を狙っている、という話を。


こんなこと、言われて思い出した。

だって、これも死に設定だったから。


それにしても


「なぜ俺にそこまで話す?」

「あの子はこの街に来てからずーっと奴隷として苦しそうにしていた。だからあんたに救ってやって欲しい。ここまで頑張って報われないなんてかわいそうだ」


そう言ってくる男に背を向けた。


「に、兄ちゃん?どうなんだ?」

「明日になれば分かるさ」

「た、楽しみにしてるぞ」


男の声が明るくなった気がする中俺はこの武具屋を離れた。


案内人か……丁度いいな。


ここから原作でも踏み込まなかった未知の領域。


禁断の地について、知っているのなら案内してもらおうか。




日が暮れてから俺はフェンリルという獣人を所有する公爵の家までやってきた。


公爵と言われるだけあって流石に警備は硬い。

正面突破しかない、か。


もちろん武力的な意味ではない。


「何者だ」


俺が門に近付こうとするのを止めてくる警備兵。


「この館の主人に話がある」

「公爵に、か?」


怪訝な目を向けてくる警備兵。

こんな怪しい身なりのやつの言うこと信用しないか。


原作でも一度公爵の家には来るのだが、この警備兵にやられる。


『100年早いぞ。雑魚共』


勝負した結果主人公たちは敗北して追い返されることになるのだが。


それも当然の結果だった。

主人公サイドのレベルがこのときはまだ15程度しかないのに、この男は400を超えていたのだから。


そして、そのレベルの高さはクリア後でも高い部類になっており、こいつを倒せるようになることをやり込み要素としている節もあった。


「私に勝つことができればその腕っ節を見込んで話を通してやってもいいぞ?若者よ」


そう言ってくる警備兵。

ニヤニヤしながら槍を構えて俺に向けてくる。


「それとも、急がば回れ、という言葉を知っているが?別の道を探す方が案外急げるやもしれんぞ?」

「俺はその言葉が嫌いでね」


俺は鞘に収めた剣を構える。


「急いでるのに回り道してるほど暇じゃないんだよ」


その言葉が開戦の合図となった。


【ライトニング・ファング】


警備兵が槍を突き出してきた。


それを


「100年早いのはどっちかな?」


俺は槍ごと警備兵を収めたままの剣でぶん殴った。


「かはっ!」


衝撃で吹き飛ばされる警備兵。

壁に衝突してズルズルとその場に沈みこんだ。


そんな男に近付く。


「ふっ、トドメを刺せよ。敗者に情けはいらん」


そう言ってくるが首を横に振る。

こいつはただ金で雇われているだけの身だ。


公爵とはそれ以上の関係でもないし原作でも主人公はこいつに見逃されたし、危険な場面を助けて貰ったりもしている。


なんというか、敵キャラではないはずだ。


もっとも俺の突き進む女神殺害ルートではこれ以上出番はないだろうが。


「何を言ってる?公爵に話を通せ」


そう言ってやると伏せていて顔を上げる警備兵。

フッと口許を歪めた。


「待っていろ。これだけ腕が立つのであれば話くらいは聞いてもらえるだろうな」


そう言って公爵邸に入っていく警備兵。


後は向こう側のアクションを待つだけだ。


しばらく門の外側で待っていると中から警備兵を横に従えた公爵が出てきた。


原作のこの段階では絶対にお目見えすることの出来なかった、人だ。


ふくよかな体型に髭を蓄えた白髪の男。


「ようこそ旅人。相当腕が立つらしいな?して、話とはなんだ?警備兵として雇え、という話なら二つ返事で雇うことにしよう。一日金10出す価値がお前にはある」


そう言ってから俺の相手をさせられた警備兵に目をやる公爵。


「たいして対して貴様はほんとに役立たずだなぁ?今日の給料は金1だな。負けおってからに」

「ちょ、ちょっとぉ?!公爵殿ぉ?!それだけは勘弁をぉ?!」


愉快そうな声で叫ぶ警備兵から俺に目を戻す公爵。


「警備はしないさ。今日は少し違う話があってね公爵殿」


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