第6話会話 勇者爆誕の話

「そもそも、勇者さんってどういう経緯でなるんですか?」

「よく知られているのは、神の啓示を受けるともれなく勇者化するというものです」

「勇者さんの場合はどんな感じだったんです?」

「いつも通りの日々を送っていたある日、夢の中に神様が現れて」

「それっぽいですね」

「でも翌日が早かったんで、お帰り願ったんです」

「神様も驚いたでしょうね」

「また来ると言ってあっさり帰りました」

「帰るんですね」

「その翌日やってきて、今日は大丈夫かと訊いてきまして」

「腰の低い神様ですね」

「今日がダメならどうするのか訊いたら、毎日来ると言ってきまして」

「粘り強いセールスマンみたいですね」

「それはそれで面倒なので、話を聞いたんです。そしたら、勇者になれと」

「それっぽいですね」

「お断りしました」

「お断れるんですね」

「いえ、さすがにダメだったみたいで、『ダメです』と明言されて朝起きたら勇者になっていました」

「前日までの丁寧さが嘘のようですね」

「しょせんは神と人間なんですよ」

「急に悟らないでください」

「ちょっと訊きたいことがあったので、その日の夢に神様を呼び出しまして」

「神様を呼び出し」

「『どした?』と言われたので訊いたんです」

「軽いですね、神様。何を訊いたんですか?」

「クーリングオフできますかって」

「クーリングオフ」

「できませんでした。くやしい」

「心中三割ほどお察しします」

「その後も何度か夢に出てきて、福利厚生の話をされました」

「福利厚生」

「話を聞くだけじゃアレなので、私もいくつか質問したんです」

「ほう。たとえば?」

「勇者ってどうやって決めるんですか、とか」

「気になりますね。答えは?」

「くじ引きだそうです」

「くじ引き」

「ダーツの時もあるみたいです」

「そんな白羽の矢みたいに……」

「目をつむってジャンプし、踏んだ人にした時もあるとか」

「子どもの遊びですか」

「どれにしようかな~で指が当たった人もあるみたいです」

「天の神様の言う通りですね。ちなみに、勇者さんはどのような方法だったんですか?」

「見た目が好みだったらしいです」

「独断と偏見の極みですね。でも、神様の好みなんて光栄じゃないですか?」

「本気で言ってます?」

「まさか」

「ですよね」

「そういえば、お給料って出るんですか?」

「手取りで十万円です」

「初任給ですか?」

「昇給ないんです」

「うわ……」

「心の底からの『うわ……』ですね。好きですよ、その顔」

「突然の性癖暴露」

「給料といっても、勇者の使命が終わったら全額振り込まれるシステムらしいです」

「いまは無給ということですか?」

「世の中クソです」

「口が悪いですね。ちなみに、さっきの福利厚生はどんな感じです?」

「休日なし、有給は一応、保険加入なし、退職は認められないし、実質仕事は強制ですよ」

「すがすがしいほどのブラックですね。有給の申請はどのくらい通るんですか?」

「通った試しがないのでもう申請するのをやめました」

「魔王も真っ青のブラック具合ですね」

「褒められましたよ、神様。おめでとうございます改善しろこんちくしょー」

「心の声が……」

「これなら魔王さんの方がよっぽどマシです」

「真っ黒黒神様と比べられるのはなんですが、うちに就職しますか?」

「いえ結構で――。あ、目がマジだ、この魔王」

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