藁人形に五寸釘⑧

「ここですか?」

 薫のバイクの後ろに載せて貰って15分とかからないうちに悠季は目的地についていた。

「ああ」

 駐車場にバイクを止めながら薫が答える。


 目的地の神社は人通りの少なそうな裏道にポツンと存在していた。この付近だけ家がなく、鬱蒼と生い茂った木々が神社を取り囲んでいて、余計に物悲しさを醸し出している。

貴ノ戸神社きのとじんじゃ

 悠季は鳥居の前に佇む石柱に書かれた文字を読み上げる。


「なかなか雰囲気があるね」

「そうですね」

 確かに少し寂れたようなこの神社は”丑の刻参り”が行われていてもおかしくはない。そんな風に思わされる。


「さて、このまま見ていてもあれだし、ひとまず行くとしようか」

「はい」

 薫の後を追うように悠季も鳥居をくぐる。遠目で見ていた時は気付かなかったが、近くに来ると、この神社があまり手入れがされていないことがすぐにわかった。


 本殿までの道を舗装しているコンクリートはひび割れており、砂利が敷き詰められた境内はところどころ雑草が生えている。木製の手水屋は塗装が剥げ、木の色がむき出しになっているし、本殿の瓦も割れたり、欠けていて神様を祭っているにしては余りにお粗末な状態だった。


「随分と荒れてませんか?」

「私もここまで荒れているとは予想外だったよ」

 薫はやや眉をひそめながら境内を見回している。

「まあ、立地的にも時代的に信仰心がなくなっていることも加味すれば仕方がないことかも知れないね」


「それで、ここで何を調べればいいんですか?」

「ああ、ここの神主とアポをとってあるから、本殿の裏手にある林に行きたいんだよ。最も、待ち合わせの時間は過ぎているのだけどね。っとどうやらきたようだね」

 薫が駐車場の方に顔を向けたので悠季もつられてそちらを向くと、この神社には場違いな高級そうな黒塗りの車が停車したところだった。


「いやぁ、お待たせしてしまって申し訳ありません。薫さん」

 やってきたのは30代後半ぐらいの男性だった。やや小太りの体系で背は悠季よりも若干高い。ブランド物のスーツを着込んでいるが、残念ながら余り似合ってはいない。

「道が細いうえに駅前の方で渋滞に引っかかってね」

 男はそう言うと、後ろに控えている運転手らしき男を軽く睨んだ。運転手らしき男は「申し訳ありません」と頭を下げているから立場的には小太りの男の方が偉いのだろう。


「いえ、時間もないですしすぐに向かいたいのですかよろしいですか」

「そうですね、私もそれなりには忙しいもので、ただその前にそちらの方にご挨拶だけさせて貰ってよろしいですか?」


 小太りの男は悠季の方に視線を向けた。値踏みするような瞳に若干体がすくむ。

「瀬野悠季と言います。えっと……」

 悠季は一瞬薫の方に視線を向けて、「薫さんのところでバイトさせてもらってます」と続けた。

「私の助手だ」

 すぐさま薫は悠季の肩を抱きながら付け加える。

「おや、そうだったんですね。てっきり薫さんの良い人かと」

 へらへらと小太りの男は続ける。

「申し遅れました、私、佐倉健一さくらけんいちと申します」

「佐倉さんですか?」

 思わず聞き返した悠季に佐倉はにやりと笑みを浮かべる。

「ええ、親戚なんですよ、薫さんは私の姪に当たりますね」

 悠季は思わず、薫の方を向いた。薫は事実だと小さく頷く。

「といっても、私は分家で薫さんは本家ですけどね。ああ、そう、それでこっちはみさきくん、今は私の運転手をしてもらっているよ」

 岬は仏頂面で何も言わずすっと頭を下げた。20代後半ぐらいだろう。運転手だけでなく、ボディーガード的なことも兼任しているのではないかと思わせる様な体格をしている。顔立ちも整っていて、愛想が良ければアイドルとかでもやっていけそうな感じだ。


「自己紹介も済んだことですし、行きましょうか。完全に日が暮れると辺りが見えにくくなりますしね。こちらですよ」

 

 佐倉は先陣を切って本殿の裏手へと歩き出す。それに岬が続く。悠季も続こうとしたところで、薫がそっと近くにやってきていた。

「あいつにはあんまり気を許さないように」

「えっ、はい」


 恐らく佐倉、いや健一のことを指しているのだろう。確かに会ったばかりだけどいい人の感じはしない。親戚同士だから会う機会も多いだろうし、それを踏まえてのアドバイスだろうと悠季は結論付け、首を縦に振った。最も、耳元で話しかけられ耳が赤くなっていることに気づかれて、にやにやと笑われてしまっているのでシリアスな感じにはならなかったが。

 


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