『死神と少女』(3)

人の命は、こうも簡単に消えるものなの?

何の前触れもなく、突然こんな形で。

何でこんな事になったの?

いや。嫌———。

あたしには、夢があるのよ?実現させたい夢が。

それに第一、まだ『アイツ』の正体を突き止めていない。

人が死ぬかもしれない間際だというのに、笑っていたアイツ。

よく考えれば、あたしがこんな事になったのはアイツのせいじゃない?

もしかしたら本当に『死神』なのかもしれない、アイツ———。


「責任転嫁かよ?いい性格してやがる」


その声に、亜矢は意識を取り戻した。

亜矢は床に倒れていたらしい。

ゆっくりと上半身を起き上がらせると、その声の主の足が見える。


「え…………?ここ、どこ??」


亜矢は辺りを見回した。

自分が倒れていたこの場所は何もない、真白な空間。

ただ、目の前に『アイツ』の存在だけが見える。


「さあ、どこだろうな?」


少年は亜矢の反応を楽しむかのように、微笑を浮かべながら言う。


「あたし、車にひかれて…それで…………」


混乱する頭を必死に整理しようとする亜矢。


(そうよ、これはきっと夢なんだわ)


そう心で結論づけたが、その心を読んだかのように少年は言う。


「いや、あんたは確かに死んだ。今、あんたは魂のみの状態でオレ様と向き合っているんだぜ」


「あんたねえ…!!」


亜矢は立ち上がり、手を腰にあてて堂々たる態度で立ち向かう。


「死神さん…だっけ?本名かどうか知らないけど。何であんたがあたしの夢に出て来るわけ?あんた一体何者!?」


どうせこれが夢なら、何も戸惑う事はない。何でも言ってやろうと亜矢は思った。

だが、少年の方も少しも怯まない。見下すようにして亜矢を見る。


「オレ様の名は『グリア』。死神グリアだ。オレの名を覚えていてくれて嬉しいぜ?」

「全然嬉しくないわ、何せさっき死にかけたばかりですから」

「『死にかけた』じゃねえ、あんたは死んだって言ってるんだよ」


グリアがスっと腕を水平に伸ばした。

すると、その手に巨大な鎌が出現した。

普通の鎌よりも刃の部分が大きく柄が長い。異様な形をしている。

グリアはそれを握り、素早く振ると——


「っ!?」


次の瞬間、亜矢の喉元に刃の先が突き付けられていた。

初めてその強気な表情に恐怖の色を見せ始めた亜矢に、グリアは少し満足したように笑った。


「早速だがあんたの魂、狩らせてもらうぜ」

「………………」


一歩も動かず、ただ無言で呆然とグリアを見つめる。

グリアにすればその亜矢の姿は、意外な反応であったらしい。

鎌を握る手にこもる力を少しだけ緩めた。


「………何か言えよ、面白くねえ」


一点を見つめていた亜矢の瞳が、潤みはじめる。


「……あたし、本当に死んだの…………?」


さっきまでの態度からは考えられない、小さくて弱々しい声。

恐怖ではない、何か悲しみを含んだ表情。


「おっと、オレ様が殺した訳じゃないぜ?あんたは元々、この時間に死ぬはずだった。その魂を狙っていたのがオレだっただけの話で……」


気付かないうちに多弁になっている自分自身に対して、グリアは不思議に思った。


(何をオレは動揺している!?)


「あたしは、まだ死にたくはないわ」


弱々しい口調ながらも、亜矢は自分の喉元の刃に手をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る