第三十話 悪い奴と遭遇

 谷のダンジョンを攻略した後だと、別のダンジョンは強くてニューゲームしてる気分になっていいな。

 俺は戦ってないんだけど。

 いや、だとしたら護衛される貴族気分か?

 

「うん、どっちでもいいな」

「なにがー?」

「なんでもないよー」


 首元から顔を出す可愛らしい妖精さんに笑顔で応える。いや、仮面着けてるから俺の表情見えなかったわ。

 いいからちみは服の中に入ってなさい。

 

 松明を持って歩く俺の横を、かなえが周りを警戒しながら歩いている。

 あわせてもらっちゃって、すみませんねぇ。

 俺が人と鉢合わせないようにダンジョンにいられる時間が短い。その上、仮面をつけてるから走れない。

 なんだか、鈍化の仮面をつけているのが申し訳なくなってくるな本当に。

 

 だからと言って、万が一が怖いから仮面は外せない。

 人に会ってしまった時のケアもしつつ、会わないためにダンジョンにも長居はしない。俺はリスクヘッジが出来る男なのだ。

 

 俺の歩く速度に合わせてだが、1層と2層は早々に越え、現在3層目である。

 レベルの上がった彼女は、とても好戦的になってしまった。

 モンスターが現れたら、彼女の方から突っ込んでいく。


「キキャー!」

「はっ!」

 

 この様子なら、次からは彼女一人でも来られるだろう。

 もしくは、他に人を見つけてな。

 4本腕の猿を軽々と切り伏せるかなえを見て思った。

 俺に来てほしがったのは、ダンジョンに一人で来るのが不安だったからだろうし。


 最初というのは誰でも不安なものである。

 メイド喫茶に初めて行くとき、1人だと難易度高いが、友達と一緒なら気軽に行けるの同じだ。

 俺はメイド喫茶行ったことないけど。


 うん、関係ないこと考えるな俺。


「っと、火が消えたぞ」

「えー、消えちゃったの?」


 棒の先端に巻いていた布が燃え尽きてしまったらしい。これってこんなに早く燃えちゃう物なの?

 そういや、洞窟の中で火を使うのはよくないって聞いたことあるけど、ダンジョンでは関係ないのだろうか。


「くらいよー」

「ちょっと待ってね、コビンちゃーん」

 

 言いながら、カバンから布とマッチを探している姿が見える。本当に見える。

 俺には松明があるのも、ないのも変わらないのだ。

 暗視ってすごいんだなぁ。

 見えない人がいると、すごく思えてくるから不思議である。


「あ、あれ〜?」

 

 見つからなくて焦っているみたいだ。

 うん、俺は問題ないからゆっくりとお探しなさい。

 しかし、痺れを切らしたのか、コビンが唸りはじめた。


「コビン?」

「うううーえいっ」


 そして、急に周囲が明るくなった。

 空中に現れた光る玉は、フワフワと浮いて俺たちを照らしている。


「うぇっ?」

「へっ?」

「これであかるいよ!」

 

 二人で間抜けな声を出してしまう。驚いていないのはコビンだけである。

 むしろ自慢げだ。

 

「えっ、コビンちゃんそんなことできたの!?」

「できるよぉー」


 服から顔だけだして、えっへんしてる。

 まじか。

 最初からコビンに頼めばよかったな。

 またしても、コビンの何でも出来るを侮っていた。本当に何でもできるわ、この子。


「これで明かりに困らないわね」

「ああ、お手柄だぞコビン」

「こびんえらい?」

「すっごくえらいよー!」

「えへへー」


 コビンの可愛さに癒される。

 はい、おっきい魔石あげましょーねー。


 しかし、楽しい時間というのは長く続かないらしい。


「コビン、人だ」


 それだけでコビンは理解してくれたらしく、服の中に潜っていった。

 楽しかった空気はなくなり、俺たちの間に緊張が走る。


 まさか、本当に人と鉢合わせることになるとはな。

 だが、この時のためにわざわざデバフ付きの仮面なんかつけてるんだ。

 問題はない、はず。

 

「おい、知らない人のふりするぞ」

「えっ」


 少し離れてそっぽを向く。

 頭の角がバレないことを祈りながら。

 これで最悪、俺がモンスターだとバレてもかなえに迷惑はかからない。


 現れたのは、数人の男。

 その中にあかねが居ないことにホッとしつつ、過ぎ去るのを待っていた。

 しかし――。


「おいおい、誰かと思ったら、叶ちゃんじゃねーか」

「!」


 意外にも、男たちがかなえに絡み始めた。

 かなえの知り合いか?


 壁を向いたまま、男たちを横目でチラ見する。

 ほとんど誰かわからなかったが、集団の後ろにいる男の顔を見て思い出した。

 あいつは見た事がある。

 この前、かなえを学校まで送っていたときにどんな男なのか教えてもらった。

 

 例の、悪い奴だ。


「よお」

「藤崎……!」


 かなえが言うには、悪い奴らのリーダー的存在で学校の中で2番目に強いとか。

 オールバックヘアーのインテリヤクザみたいな見た目の男だ。


「こんな場所まで1人で散歩か? まったく、危機感が足りてないな」

「ギャハハハハハッ」


 藤崎とやらの言葉に周りの男たちが笑い出す。

 嫌な雰囲気だ。


「ダンジョンの中で怪しい男に襲われても誰も助けてくれないぞ?」

「悪いけど、私には頼もしいボディガードがついてるの」


 ん!?

 かなえさんや?

 知らないフリをするという話では?


 かなえさんの言葉で俺の存在に気づいたらしく、男たちの視線が集まっているのを背中に感じる。

 

「あん? そこの奴はお前の連れか?」


 俺のこと話してるな。

 流石に壁と睨めっこしてる人がいてもスルーしてくれないか。


「おい、お前……っ!」

「なんだ?」


 渋々振り返ると、俺に声を掛けた男が面食らったような顔をしていた。

 俺、今仮面付けてるしな。

 そりゃ驚くか。

 

「ちっ、ダサい仮面つけて脅かしやがって」


 幸い、角にはツッコまれなかった。

 この仮面がダサいのは俺も思ってる。


「こんな弱そうな男がボディーガードなのか?」

「ええ、そうよ」


 あ、完全に知り合いのムーブで行くのね。


「冗談キツイぞ。おいお前、その仮面取ってみろよ!」

「どうせすんごいブサイクなんだろ?」

「だから仮面なんか付けてんのか!」

「ギャハハハッ」

「早く仮面取れよっ。頭にも変なもん付けやがって」

「おいお前ら、それぐらいにしておけ」


 藤崎とやらが前に出て、男たちを制する。


「さて、仮面くんよ。状況はわかるだろ? 殺されたくなかったら、どっか行きな」

 

 うん、うざいなこいつら。

 

 俺が人間じゃないとは思っていないらしいし、すこしぐらい、いいよな?

 男たちに向けて、静かに威圧を発動する。

 一瞬だけだが、強力なやつを。


「っ!!?」

「かはっ」

 

 男たちが一斉に顔を青ざめさせて尻もちをついた。

 中には気絶した男もいる。

 

「急に座り込んでどうしたんだ?」

「ひぃっ!!」


 中腰になって男たちに視線を合わせる。


「俺が怖いのか? そんなわけないよな? 顔色が悪いぞ? 疲れてるのなら、今日の攻略はやめておけばどうだ?」


 更にもう一人、気絶した。


「どっかに行け、だったか? かなえ、お言葉に甘えて、今日のところは帰ろうか」

「え、ええ。そうね」


 あー、気持ちー。

 

 座り込んだ男たちの横を通り過ぎて、ダンジョンの出口へ向かって歩く。

 しかし、かなえを除いたらあんなのばっかりと遭遇するな、俺って。

 運がないのか?


「おい、お前ら、あいつ殺すぞ」

「え、ですが」

「いいから殺るぞ!」


 背後から聞こえて来る声。

 あー、藤崎とやらを怒らせてしまったらしい。

 変に煽ったのが良くなかった。

 久しぶりにたくさんの人と話して楽しくなってな。


 しかし、君ら殺人計画はバレないようにした方がいいよ。

 本人がいる場所で言うかね。


「かなえ、何もするなよ」

「えっ」


 一度、こいつらには釘を刺しておきたいと思っていたのだ。

 ゆっくりと振り返って、男たちを見る。

 随分と殺気立ってますな、みなさん。


「死ねやあああああああ!!」


 藤崎とその取り巻きどもが武器を振り上げて駆け出して来る。

 いつもなら全部真剣白刃取りでもするところだが、あいにく今はスピードが出せないからな。

 身体で受ける他ない。


 ガギーン!!

 

「な、なに!?」

「どうなってやがる!」


 しかし、俺には問題ないのだ。

 身体に当たった複数の刃は、すべて皮膚を傷付けることなく止まっている。

 スキルの頑強のお陰で大抵の攻撃は、効かないからな。流石にドラゴンくらいになってくると効くんだけど。


 これで本当に2番目に強いのかね。


「たしか、藤崎だったか」

「がっ……」


 頭を鷲掴みにして、持ち上げた。

 そのまま、抑えていた威圧を解放する。


「次だ。次、お前が女に手を出そうとしたら、俺がお前を殺す」

「ひっ」


 気絶したか。


 けど、これであかね、ついでにかなえに手を出さなくなるといいんだが。

 威圧って便利だなー、マジで。

 藤崎は適当に放り投げておいた。


「よし、行こうか」


 そのまま、ドン引きした様子のかなえを連れてダンジョンを出る。


「あなた、急に性格変わるわね」

「……」


 まあ、確かに楽しくなってはいたけどね。

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