第40話 終局

 辺りは静寂に支配されていた。そんな空気を撃ち破ったのはスネイトの舌打ちであった。


それを聞いたサリオンは我に返ると、怒りのあまり激昂する。


「貴様ぁぁぁ! よくもやってくれたなぁぁぁぁぁ!」

「それはこっちのセリフだ。折角の異世界人が消滅してしまった」

「阿呆か貴様ぁぁぁ! 自分がやったんだろぉぉぉ!」

「そもそもお前が邪魔しに来なければ、こんなことにはならなかった」

「そもそもって……。貴様がこっちに侵入しなければ良かったんだろうがぁぁ!」

「やれやれ、話にならんな」

「それはこっちのセリフだぁぁぁ!」


 ハァハァと肩で息をするサリオン。

 どうやら怒りとツッコミの連発でドッと疲れが押し寄せてきたようだ。

 その時――辺り一面がクレーターと化した爆心地で次元の断裂が発生する。

 それを間近で目撃したサリオンが頭を抱えて呟き出した。


「このマジキチ侵入者に大事な異世界人を殺されたと思ったら、次は次元断裂ぅ!? どこまで問題が頻発すれば気が済むのよ……」


「お前も大変だな」


「って何、自分は関係ないみたいなこと言ってんだよ! 全部、貴様のせいなんだよ! 自覚しろよ! そこんとこぉ!」


 ノリノリでツッコミを入れるサリオンの目に信じられないものが飛び込んでくる。

出現した断裂から手が覗いたのだ。そして顔がひょっこりはんのように現れた。

もちろんレヴィンその人である。


「ふー。何とかなったわ……。危ねぇ危ねぇ……」


 そうのんびりした口調でボヤきながらレヴィンが断裂から這い出てくる。


「え……? レヴィンさん?」

「おお、サリオンか。いやー流石にちょっと焦ったわ」


 スネイトもそれを見て茫然としている。開いた口がふさがらないようだ。


「【時空防護シェルター】の魔法がなかったら危なかったわ。って言ってもコレが本来の使い方なんだろうけどさ」


 レヴィンがそう言い終えると次元の断裂が閉じられる。


 これは時空魔法の【時空防護シェルター】の効果によるものであってバグではないのだ。


「おし! 回復もできたし、いっちょ続きといきましょうかね」


 レヴィンはまるで散歩に行くかのような気軽な口調でそう言うと、未だ茫然とするスネイトとの間合いを一気に詰める。反応が遅れたスネイトの鳩尾にレヴィンの右拳が決まったかと思うと、前屈みになったスネイトの左顎を左拳でぶん殴る。レヴィンは呑気にもこいつらも脳震盪とか起こすのかな?と考えつつ、右の手刀で首筋を豪打する。スネイトが倒れ込もうとしたところを脳天に鉄槌を。更にそれに膝蹴りを合わせて頭を上げさせたところで裏拳、金的を喰らわせた上で魔法を放った。


 あまりに素早い攻撃と展開にスネイト付いていけない。もちろんサリオンもだ。



【茨縛鎖(カスプバインド)】



 対象者を茨で縛める付与魔法である。全身を絡め取られ、息も絶え絶えなスネイト。


「に……んげ……がぁ……」


 さながら十字架に磔にされた聖者のようである。


「これで倒れられない」


 最早、勝負は決した。

 レヴィンの魔力を込めた連撃と殴打の音だけが薄暗い森の中に木霊する。攻撃を延々と喰らい続けるスネイト。永遠にも感じられる刻を経て、スネイトは遂に落ちたのであった。


「おし! 俺の勝ち!」


 十四歳の無邪気な笑顔でサリオンに勝利宣言をするレヴィン。

 目の前で同格とも言える存在をフルボッコにしたレヴィンの笑みが、サリオンには魔神デヴィルの微笑みに見えた。

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