第38話 レヴィン、威張る
「良かった……。間に合ったようですね」
光の球を生み出して周囲を明るく照らしにかかる女性。
それは【
レヴィンはようやく気が付いた。この辺りは鬱蒼とした森の中。その中のわずかに開けた場所のようだ。スネイトの光の鎖を破壊したその女性にレヴィンは警戒の姿勢を見せた。いくらレヴィンが光魔導士だからとは言え、ビクともしなかった鎖をあっさりと断ち斬って見せたのだ。体は白い鎧のようなもので覆われている。フルプレートをまとっている感じで、その形状はどこかロボっぽい。
「あんたは何者だ?」
「私はこの世界の
「俺の味方だって認識でいいのかい?」
「はい。レヴィンさん。私はこの世界に不当に侵入したバグを取り除く役目を持つ者です」
その時、ガンッ!と大きな破壊音がする。レヴィンがそちらへ目を向けると、透明なディスプレイがスネイトのパンチによって破壊されていた。
「クソが。何なのだこの高負荷は」
苛立ちのこもった声でそう言うと、スネイトは横目でサリオンを睨みつける。
「ソリスの
「あなたの方こそ、他神の狗でしょう? このような行為は禁止されているはずですよ?」
「ホザくな。何故、我らだけが異世界人を使用できないのだ。不公平ではないか」
「そう思うなら、プロジェクトのトップに異議を申し立てなさい。他の世界からリソースを奪って良い理由にはならないわ」
「邪魔者は消す。これが鉄則だ」
「あらそう? やってみなさいよ」
サリオンが挑発の言葉を吐いた瞬間、スネイトの姿が掻き消える。スネイトはかなりの速度でサリオンに殴りかかっていた。もちろんサリオンも黙ってやられるはずもなく、二人の壮絶な戦いが始まった。サリオンの左フックがスネイトの顎先をかすめ、少しよろめいたところにサリオンの右ストレートが飛ぶ。しかし光を放つその右拳はスネイトにガッシリと掴まれていた。サリオンは舌打ちをして、前方に向かう力を殺すことなく左肘でスネイトを打つ。その一撃をスネイトは右腕で防ぎつつ、前蹴りを繰り出すとそれがサリオンの腹にめり込んだ。
「かはッ」
サリオンの口から短い吐息のようなものが漏れる。少し浮き上がった彼女の体を拘束すべくスネイトがまたもや光の鎖を出現させた。流石にそれに捕まる訳にはいかないと思ったのか、サリオンは両者の中心に光の球を生み出した。それは一気に膨張すると、二人を飲み込んで爆発する。目が眩まんばかりの光と爆風に、レヴィンは右腕で顔を覆う。光と爆風が過ぎ去った後には、平然と対峙するサリオンとスネイトの姿があった。双方共にダメージを負っている気配はない。サリオンが光のオーラをまとった右手を振りかざすと、大地が抉れて大きな溝を作り出した。それを飛びあがって難なく避けたスネイトは、凄まじい落下速度でサリオンに向かって突っ込む。その彗星のような一撃を辛うじてかわしたサリオンであったが、その強烈なまでの衝撃にその顔は引きつっていた。かわす前までサリオンがいた場所は大地が大きく凹み、クレーターのようになっている。しかしサリオンも攻撃の手を緩めない。天空へ舞い上がると、両手を上げて力を溜め始める。そこに光弾が出現した。大仏程もあろうかと言う巨大な光だ。レヴィンが良く目を凝らすと、スネイトは紐のようなもので縛められているようだ。動きの取れないスネイトに、大仏弾が迫ったかと思うと弾けて轟音を撒き散らす。大地が叫びを上げるが如く地響きが鳴り、周囲は大地ごと抉られて森が喪失してしまった。
「これが神々の戦いってヤツか……。燃えるぜ」
やがて土煙が晴れると、そこにはスネイトが平然と佇んでいた。見たところ、ダメージを負った様子はない。サリオンもそれを確認したのか、スネイトに向けて一気に急降下すると、その拳に光のオーラをまとう。そして再び始まる殴り合い。レヴィンはそれを見て歓喜していた。この場所に来る前はスネイトの動きなど全く見えなかった。しかし何故か現在繰り広げられているバトルの様子はレヴィンの目でも追えたし、十分反応できそうな動きであった。サリオンが天空へと舞い、スネイトから距離を取るとその右手から幾つもの光弾が打ち出される。それは地上に残されていたスネイトに直撃して周囲に轟音と爆風をもたらした。それでもサリオンは攻撃の手を緩めることはない。そこへ光の弾幕の中から飛び出してくる者がいた。もちろん、スネイトである。彼はサリオンを放置してレヴィンを捕まえ、トンズラこく算段をつけたのだろう。それに気づいたサリオンは光弾を放つのを止め、叫びながらレヴィンの方へと滑空する。
「なッ!? レヴィンさんッ! 逃げてくださいッ!」
レヴィンの口角が吊り上がる。逃げる素振りを見せないレヴィンを見てスネイトの笑みも深くなる。そして両者は交錯した。次の瞬間、顔面に力のこもった一撃がめり込んだ。
「え?」
サリオンから呆けた声が漏れる。
右拳を顔面にめり込ませ吹っ飛んだのは――スネイト。
レヴィン渾身の一撃であった。
スネイトはゆっくり起き上がると、何が起こったのか分からないと言った表情を見せている。サリオンも空に浮かんだまま、茫然としていた。
「サリオン」
突如掛けられた声にサリオンは狼狽しながらも何とか返事をする。
「は、はい!」
「こいつの存在は世界のバグと言う認識で良いんだよな?」
「え? あッはい……。そうですね」
サリオンに確認を取りながら、レヴィンは自称神の言葉を思い出していた。
『要はバグですね。それを取り除いてくれた場合にも要望にお応えできるかと思います』
「そう言う訳で、こいつは俺が倒す!」
「どう言う訳か分かりません!」
サリオンの隙のない鋭いツッコミがレヴィンに突き刺さる。
「あんたらの神も言ってたぞ? バグを何とかしても願いを叶えると……」
「本気ですか? 他神の世界で力が抑えられているとは言え、相手は神の使いですよ?」
サリオンはレヴィンの正気を疑っているようだ。
「さては負けそうになったら私に頼る気ですねッ!? 私が来たからと言って事態を楽観視されては困ります!」
「そんなダセーことするかよッ! 俺とあいつ……どちらが強いか勝負ッ!」
レヴィンの
「無茶ですッ! どうやって勝つつもりですかッ!」
「それでも俺は勝つッ! 知っているか?
レヴィンはそう言ってのけると、異世界に来て一番の笑顔を見せた。
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