第24話 レヴィン、鑑定を受ける

「今日の一、二限目は特別だ。鑑定があるからな。Aクラスが終わり次第、速やかに移動しろ」


 個人情報の取り扱いが気になったレヴィンは質問のため挙手する。

 それを見たクライドは面倒臭そうな顔をしながらも許可を出した。


「個人情報の扱いが気になるんですが。公開して共有されるとかじゃありませんよね?」


 レヴィンが『加護なし』と陰口を叩かれているのは、情報が漏れたからだ。

 明らかに嫌そうに質問するレヴィンに、クライドは苦笑いを浮かべつつ答える。


「教師の間では共有されるが、他の生徒に見せるってことはないから安心しろ」


 レヴィンは不服な顔で着席するが、一つの可能性に思い当たる。


「あッそうか……。別に情報が漏れた訳じゃなくて、普通に友人と鑑定結果を教え合っただけの可能性もあるな」


 そう思いながらも、レヴィンはすぐさまその考えを否定する。無気力で交友関係も薄い以前のダミーレヴィンに鑑定結果を教え合う友人がいたかは怪しいところである。それを考えると、あまりにもいたたまれない。現在の自分はともかく、過去のダミーレヴィンを信じる気にはなれないレヴィンであった。


 そうこうしているうちに八時五十分の鐘がなる。一旦休憩時間となったので、クライドは担任用のデスクの席に移動している。他の生徒も席を立つ者がチラホラと見られた。すかさずロイドがレヴィンに話しかけてくる。


「毎年の恒例行事だけど嫌だなぁ。僕は魔物と戦った経験なんて課外授業でだけだし、精霊魔法も少ししか覚えられないし……。なんでこんな弱くて地味な職業が与えられたんだろ……」

「気にすることないんじゃないかな……」


 レヴィンは頭の中でヘルプ君を呼び出すと精霊術士について調べてみた。


「精霊魔法って中学の三年間でも、そんなに覚えられないもんなの?」

「うん。精霊魔法については昔から調べられているみたいなんだけど、まだまだ未知の部分が多いらしいんだよ」 


 能力には【精霊魔法】、【精霊獣召喚】、【精霊獣契約】などがあるようだ。魔法についても確認したが、ロイドが言う程に種類が少ない訳ではない。レヴィンはその中でも【精霊獣契約】に注目した。ヘルプ君を参照する限り、かなりの可能性を秘めた能力のように思える。


「精霊術士は弱くて地味な職業なんかじゃないぞ? ロイドは頑張って職業点クラスポイントを溜めるのがいいと思う」

「そうかなぁ……。精霊魔法の研究はあまり進展していないって聞くけど」


「精霊術士は精霊魔法を使うだけじゃない。恐らく精霊獣との契約が一番の特長なんだ」

「精霊獣?」


 ロイドはピンと来ていないようで、ポカンとした表情をしている。精霊獣の存在は、それほど認知されていないのかも知れない。情報は秘匿されるものだ。苦労と努力で得た能力を公開する者はそれほどいないのだろう。しばらく会話していると直に九時になり鐘の音が聞こえてくる。Sクラスが移動を始め、続いてAクラスもそれに続いた。


「よし。廊下に並べ。移動するぞ!」


 皆、すぐに廊下に整列し空き教室に移動を始める。毎年の恒例行事であるため、特にはしゃぐ者もいない。レヴィンも自分の状態は既に分かっているので、特段浮かれてはいない。空き教室の前まで来ると一人ずつ中に入るように言われる。ほどなくして順番が回ってきたレヴィンが中に入ると、顔色も悪ければ人相も悪い初老の男が教壇の後ろに立っていた。男の隣には担任の姿も見える。こいつが鑑定士かとレヴィンが考えていると、その男から声を掛けられた。


「もっと前に来なさい」


 レヴィンは言われた通りに教壇に近づくと、鑑定士の顔をまじまじと見つめた。

 鑑定士への職業変更クラスチェンジの条件は、職業レベルが魔導具士レベル10、錬金術師レベル10、鍛冶師レベル10へ達することである。とてもじゃないがすぐに極められるものではない。


 鑑定士の職業を授かって生まれる赤子の割合がどの程度なのかレヴィンは知らないが、聞くところに寄れば、かなりレアであるらしい。レア職業を持っていれば食うに困らないが、一生囲い込まれるのだろう。レヴィンからすれば、そんな人生は御免こうむりたいところだ。そんなことを考えていると、レヴィンはふと疑問に思ったことを呟くように口に出してしまった。 


「鑑定士の能力って【調べる】と【見破る】だよな……。どっちを使うんだ?」


「あん?」

「見破る?」


 クライドと鑑定士の口から疑問の声が発せられる。


「レヴィン、お前、何言ってんだ?」


 クライドの声にレヴィンが我に返る。


「え? ああ、すみません。声に出てましたか」

「な、何だ? 何故……」

「ああ、気にしないでください」


 レヴィンの言葉に鑑定士の男は、少し訝し気な表情を見せるが、すぐに自分のするべき仕事を思い出したのか右手を前に突き出した。レヴィンの体を金色の光が包み込む。鑑定士が能力を使用したようだ。どちらの能力を行使したのか、レヴィンに分かるはずもない。


「何……? すまんがもう一度だ」


 鑑定士は何故か、もう一度能力を発動した。再びレヴィンは黄金色の光に包まれる。彼は手に持ったペンで紙にサラサラと鑑定内容を記載していく。隣でそれを覗きこんでいたクライドの目が大きく見開かれる。彼の口から溜め息が漏れているが、自分では気づいていないようだ。レヴィンは書き写されたステータスの紙を見せてもらう。どうやらレヴィンが自らのステータスに施した偽装は完璧のようだ。


「お前こんなに強かったか? この一年で何があった?」


 クライドの頭の中は疑問で埋め尽くされているようで、それが表情からも見てとれる。


「はい。この春休みから探求者ハンターとして活動を始めました」

「春休みから!?」


 クライドが驚きの声を上げる。彼の細目は未だかつてないほどに見開かれていた。

 やがて我に返ったクライドは納得がいかないような表情をしながらも、次の順番の生徒に向けて廊下に声を掛ける。何やら変な目で見つめてくるクライドと鑑定士の男を無視してレヴィンはすぐに退室すると教室に戻った。教室では案の定、鑑定結果についての話題になっていた。


「すげぇ! アーチボルトさん、レベル18なんだって!」

「いや、大したことはないよ。強さだけが全てじゃない。上に立つ者としてね」

「いやいや、謙遜しなくていいって。ホント強いんだな。アーチボルト!」

「おい、『さん』をつけろよこの野郎!」


 何やらアーチボルトを中心に騒ぎになっている。彼は自己紹介に寄れば、伯爵家の三男で職業は大魔導士だったはずである。レヴィンは彼から距離を置いて、彼らの様子を見ていた。しばらくして、レヴィンの次の順番だったロイドが席に戻ってくる。


「あいつのレベルは18らしいな」

「ええ……。すごいね。僕なんてレベル8なのに……」


「10程度の差なんて誤差だよ。良かったらロイドも俺のパーティに入る? 狩りをすれば、ロイドもすぐ追いつくって」

「そうかな? そうだといいんだけど……」


 ロイドはレヴィンにレベルのことは聞いてこない。配慮のできる素晴らしい友人である。レヴィンはウンウンと頷きながら彼と末永く仲良くしようと心に決めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る