第19話 レヴィン、理解を深める


 レヴィンがプレゼントを贈った後もフィルへのプレゼント攻勢は止まらない。探求者登録ができる十二歳まで後一年。どれもこれもフィルの冒険欲求を刺激する贈り物ばかりであった。これでは、これからも毎日のように探求者タグを見せてくれとせがまれる日々になりそうだとレヴィンは思った。ちなみにリリスは小遣いを貯めて買った御守りをプレゼントしていた。その後も色々な話に華が咲いたが、娯楽の少ないこの世界、子供たちは暇を持て余しつつあった。


「そうだ。フィル、腕相撲をやらないか?」

「腕相撲?」

「いいか? こうやってな……」


 レヴィンはフィルにやり方を教える。アシリアとリリスも興味深げに耳を傾けている。何故、腕相撲を提案したかと言えば、答えは簡単だ。フィルのレベルは恐らく1だ。戦闘経験などないはずなので間違いないだろう。現在のレヴィンは暗黒導士でレベル10。レベルアップ時の成長の度合いは職業によって大きく異なることはヘルプ君で確認済みだ。例えば、暗黒導士は魔力に大きく補正がかかるが、騎士ナイトは力に大きく補正がかかる。補正のかかり具合は職業によって大きく異なることを実際に確認するための提案であった。


「じゃあ、行くよ! よーい! はいッ!」


 アシリアが合図するとレヴィンとフィルはお互いの拳に力を込める。レヴィンがフィルの腕を倒そうと全力を込めるが、両者の手は少しずつ動いている程度だ。一応、レヴィンが押しているもののレベル差を考えれば、暗黒導士の力の補正値は余程低いのかも知れない。力のパラメータで言えば、少し勝っている程度ではないかとレヴィンは思った。


「うおおおお! 何とか勝ったーーー!!」


 結果はレヴィンの辛勝であった。この程度の力でよく豚人オークに肉弾戦を挑んだものだ。やはり、何のパラメータを上げていくかは、これからよくよく考えていかねばならないと痛感させられたレヴィンであった。つまりどの職業でレベルアップをしていくかと言うことだ。


 その後、子供たちの間で限界腕相撲が行われた。限界腕相撲とはその名の通り、限界が来るまで腕相撲をし続けると言うものだ。前世ではレヴィンもよくやったものである。やったのは限界バトルロイヤルであったが。そして夜も更けていき、リリスとフィルは疲れたのか寝てしまった。レヴィンは、アシリアと改まって話す機会もあまりないので、色々と情報を聞き出すことにした。せっかくのチャンスである。異世界人と現地人の違いを明確にしておくことも必要だろう。


「なぁ、アシリア。ちょっと聞きたいんだけど」

「なぁに? 改まって」


「レベルアップや職業レベルが上がった時って分かるもんなのか?」

「え? 分かるよ~ってレヴィンも分かってるでしょ?」


「いや、他の人はどうなのかなーと思ってさ。どんな感じで分かるんだ?」

「レベルが上がった時は戦神ライオト様の啓示があるし、職業レベルの場合は職業神ウォルス様の啓示があるんだよ~」


「脳内に語りかけられる感じだよな?」

「何か、祝福するよッて声が聞こえるんだよッ!」


「そっか、そうだよな。それじゃあ、職業点が入った時って分かんの?」

「分からないよ~。だから現時点で習得できる魔法とそれに必要な職業点しか分からないんだよ~」


 レヴィンは職業の情報を参照すれば、その職業で習得できる能力や魔法名と、それに必要な職業点、そして現在の職業点が一目で分かる。魔法などの使用によって職業点が獲得できたかどうかはアシリアと同様、告知されないため分からない。


「だから、いちいち教科書を確認したり、覚えたりしなきゃなんだよ~。大変だよね~」

「うーん。やっぱりゲーム的なシステムってのは便利なものなんだな」

「うん? げーむ?」


 その後もレヴィンはアシリアから様々な情報を聞き出していった。この世界では、どの職業がどんな能力や技、魔法などを習得できるのか完全に把握されていないようだ。先人が習得した能力と、それに必要な職業点が判明しているものだけが書物や教科書などに記載されているようである。そのため、せっかくのレア職業であっても自分がどんな能力や技、魔法などを習得できるのか理解できず、宝の持ち腐れ状態になってしまっているのだ。


 もちろん、あくまでこれはアシリアの言葉を基にしたレヴィンによる推測に過ぎない。それにレヴィンが簡単にできている職業の解放条件の把握も、この世界の人間には難しいようだ。例えば、大魔導士に職業変更クラスチェンジするためには、暗黒導士レベル5、光魔導士レベル5、時空導士レベル5の条件を満たす必要があることがレヴィンには分かっている。

 しかし、この世界の人間は条件を満たした場合に、大魔導士に職業変更が可能になると分かるのである。これは非常に効率が悪い。


 レヴィンは仲間を強くするためには、ヘルプ君の知識と異世界人としての考え方をどんどん教えていく必要があると痛感した。レヴィンは、ゲーム的なシステムが意外と便利なものであると、このゲームにも似た世界に来て初めて実感した。異世界人であるお陰で効率良く強くなれるのだ。この世界の人間には最強に至る道のりは険し過ぎる。誰か報酬でもっと完成度の高いゲーム的なシステムを創ってくれないかなとレヴィンはわずかであったがそうも思った。しかし同時に自称神じしょうかみの顔が浮かんできたため、レヴィンは頭をブンブンと振ってその考えを打ち消した。それはもちろん、ヤツらに高い完成度を求めるのは無駄だと思ったからである。それにあっさりと最強になれるような他力本願な力に頼るつもりなどない。


 ここでアシリアが大きなあくびを一つ。見ればグレンとアントニーもいびきをかいて寝ている。レヴィンはそれを見てここまでかと判断し、アシリアに寝るように促した。


 そしてレヴィン自身もアシリアから聞いたことを反芻しながら眠りに落ちていった。

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