第2話 最強のふたり

<まえがきはじめ>


(1月9日23時30分追記)1話の構成を変えて旧1話と旧2話の内容を統合しています。もしこの2話を読んで唐突感・違和感があったらおそらく前話後半の内容が抜けているので一度前話に戻っていただければ幸いです。


<まえがきおわり>




「……ということがあったんだけどさ、どう思う?」


 家に帰って、俺は塩原さんの入部のやり取りを菜穂に話してみた。


 俺たちの家は隣同士で、今日も夕飯は一緒に食べる。

 場所は菜穂の家だけど、夕食を作るのは当番制だ。ちなみに今日は両家の家族はいろんな事情で夕飯の時間には帰ってこない。まあ、うちの親なんて、家に寄る方が稀なのだけれど。


 菜穂の家は3階建てのそれなりに立派な、普通の一軒家だ。


 そのリビングで俺たちはテーブルを挟んで向かい合っている。


 菜穂は部屋着のラフなTシャツとデニムのパンツという姿で、制服とは違って、これはこれで似合っていて可愛い。ちなみにずぼらな俺は制服姿のまま。


 菜穂は、俺の作ったカレーライス(ちなみに南インド風)を「美味しい、美味しい」と言いながら食べていたが、スプーンを止める。

 そして、菜穂は呆れたように首を横に振った。


「塩原さんのことを、わたしに聞くの?」


「聞いちゃダメだった?」


「そういうわけじゃないけど……普通、告白して振られた相手に相談する?」


「まあ、たしかに。でも、菜穂は同じ映画研究部の部員で、幼馴染だからね。菜穂の意見が一番信頼できるし」


「ふ、ふうん。まあ、その、一応答えてあげるけど……。それって、やっぱり塩原さんが公一のことを好きで、一緒にいたいから入部届を出したってことじゃないの?」


「そうかなあ。あの『聖女様』の塩原さんが俺を好きになったりするかな」


「公一ってけっこうモテるでしょ? 勉強もスポーツもできて万能で、見た目も良いし」


「菜穂に褒められると嬉しいな」


「ほ、褒めてない! それに性格は自信家すぎて難があるし……」


「こないだは俺のこと、優しいって言ってくれていたよね?」


「優しいところも公一のダメなところなの!」


 菜穂は言うと、少し顔を赤くした。

 まあ、考えてみれば、女子の友人はそれなりにいるし、ある意味ではモテているのかもしれない。

 怪我をして野球部を辞める前は、けっこう可愛い女の子に告白されたこともあったっけ。


 菜穂はちょっと寂しそうにうつむく。


「聖女様と釣り合わないと思うなんて、自信家の公一らしくないよ。二人が付き合ったら美男美女だし……お似合いだと思うけどな」


「その可能性はないよ」


「どうして?」


「だって、俺は菜穂のことが好きだからね。あっ、マンゴーラッシーのおかわりいる?」


「……っ! へ、平気な顔で恥ずかしいことを言わないでよ!」


「俺が菜穂を好きなのは恥ずかしいことじゃないよ」


「こ、公一のそういうところが嫌い!」


 菜穂はそう言いながらも、俺に自家製のマンゴーラッシーのおかわりを頼んだ。自信作なので、菜穂が気に入ってくれると嬉しい。


 結局、菜穂は俺を嫌いなのかどうか、よくわからない。反応が可愛いのでついからかってしまう。

 いや、菜穂を好きなのは冗談ではなく、本当なのだけれど。


 他人の本当の気持ちなんて、わからない。もしかしたら、菜穂は俺のことを本当に嫌いで、迷惑に思っているのかもしれない。 

 

 それでも、菜穂は俺に優しいし、つい甘えてしまう。菜穂はいつも俺と一緒にいてくれるし、文句を言いながらも、けっこう楽しそうにしてくれる。


 中学三年生の夏。俺は怪我をして野球をできなくなって、失意のどん底に沈んで、荒れていた。多くの人が俺から離れていった。


 変わらず、俺のそばにいて、俺を支えてくれたのは、菜穂だけだった。

 菜穂はマンゴーラッシーを美味しそうに飲んでいる。そんな菜穂を眺めていると、菜穂が小首を可愛らしくかしげた。


「わたしをじっと見て、どうしたの?」


「いや、菜穂が可愛いなあって思って」


「だ、だから、可愛いとか軽率に言うのは禁止!」


「軽率ではなくて、本気で言っているんだよ?」


「もっとダメだから」


 俺がくすりと笑うと、菜穂は真っ赤な顔でジト目で俺を睨む。


「だいたい、わたし、そんなに可愛い方じゃない。クラスに15人女子がいたら、5番目とか6番目ぐらいの見た目でしょ? 聖女様の塩原さんと比べたら、平凡な見た目だと思う」


「いや、菜穂は一番可愛いよ」


「ま、真顔で冗談を言わないでよ……もうっ」


 俺は冗談のつもりではないのだけれど。

 まあ、ともかく、今日は夕飯も食べ終わったので、これで解散にしておこうかな、とも思う。


 俺は振られて嫌いと言われたわけで、菜穂にあまり付きまとうわけにもいかない。


 ところで、料理をしなかったほうが、片付けは担当というルールなので、今回の皿洗いは菜穂の役割だ。食洗機があるから大した手間ではない。

 家事分担。とても大事。お互いが健全に一緒に暮らしていくためには、ワンオペはよろしくない。


 でないと、うちの両親みたいに離婚してしまいかねない。まあ、俺と菜穂は結婚しているわけではないんだけれど。いや、でも、結婚したいな……。


 ということで、俺は立ち上がって自分の家へと帰ろうとした。ところが、菜穂が指先で俺の制服の袖をつまんだ。


 はて?と俺が首をかしげると、菜穂は顔をますます赤くした。


「今日、映画が見れなかった」


「まあ、俺が菜穂に告白したら、菜穂は帰っちゃったもんね」


 本当だったら、映画研究部の部室で、古い洋画を一本見るはずだった。それが映画研究部の活動内容なので。

 ただ俺が菜穂に告白したせいで、菜穂は怒って……あるいは恥ずかしがって帰ってしまった。


「そうよ。だから、今から見るの」


「今から、か……」


 俺は腕時計を見る。それなりに良い時計だが、あくまで父親の金のおかげで身に着けているだけだ。

 今は19時30分。これから2時間映画を見ると、21時半とそれなりに遅い時間になる。


 菜穂は上目遣いに俺を見つめた。


「ダメ?」


「いや、もちろん菜穂のお誘いとあらば、断る理由はまったくないね」


「ありがと」


 菜穂は柔らかく微笑んだ。俺はそのまま食べ終わった皿を片付けて、台所へと運び出す。菜穂が慌てた。


「片付けはわたしの当番だから、公一は座っててよ」


「二人でやったほうが早く終わるし、映画も早く見られるから。菜穂との時間を大事にしたいからね」


「い、いちいち、恥ずかしいセリフを入れないで……。でも、ありがとう、公一」


 菜穂は「もうっ」と言いながらくすくすと笑った。


「菜穂は何の映画が見たい?」


 二人で見るのは、たいていは洋画だ。これはもともとは菜穂の好みだが、今や俺たちの共通の趣味だ。見るのは、1950年代の古い映画とか、あるいはインド映画とかマニアックなものもある。

 

 最近の菜穂は名作のリストを潰すのにハマっているらしい。菜穂も俺もまだ16年も生きていないから、映画通を名乗れるほどの多くの数の映画を見れてはいない。

 ただ、最近は多くの映画がサブスクで無料で見られるから、高校生の財布にも優しい。


 菜穂はちょっと考え込んだ。


「うーん。そうだ。フランス映画でね、とっても面白いって有名なヒット作があるの。見ると感動するんだって」


「へえ、タイトルは?」


「『最強のふたり』」

 

 菜穂は歌うようにタイトルを言い、とても美しい笑みを浮かべた。




<あとがき>


菜穂が可愛い! と思っていただけましたら


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