第11話 柊楓

X X X


静かなカフェ


 カフェについた俺たちは頼んだコーヒーを飲みつつ落ち着いた。


 この店は年老いたお婆さんが経営するところで、こじんまりしていながらも、なかなかいい雰囲気が楽しめる。


 特にパーティションごとに仕切られているので、他の客を気にすることもない。


 サイフォン式コーヒーのいい香りを吟味していると、優奈はコーヒーコップに口をつけて、俺の方をチラッと見ては、再びコーヒーを飲む。

 

 本当にかわいい。


 まるで、ドラマに登場する女主人公のようだ。


 肩まで届く亜麻色の髪も、アイランが引かれた大きな目。青色の瞳。


 やがて、彼女は色っぽく息をついて、目を潤ませながら口を開いた。


「本当に、本当にありがとう。2年前に私を救ってくれて……」

「う、うん……」

「私、あの日のこと一日も忘れたことないから」

「別にいい経験ではないから忘れていいと思うよ」

「ううん。私、あの時、司くんが来てくれてとっても嬉しかったから」

「……そうか」

「どうしたの?表情が暗いけど……」


 彼女は大きな目をパチパチさせながら俺を心配そうに見つめる。


 なので、俺はあの事件での俺の至らなかったところを言う。


「あの時にも言ったけど、もっと早く助けるべきだった……」

 

 俺は気が咎めて顔を俯かせた。


 処女を失ったりはしてないが、体を触られたり、胸を揉まれた。


 胸……


 優奈の胸。


「そんなことで苦しまないで」


 いつしか優奈は俺の隣にやってきては、俺の右手を両手で握り、そのまま彼女の爆のつくマシュマロのところに持っていく。


「優奈……これは一体!?」

「はあ……やっぱり司の手だと落ち着く」

「っ!」


 俺の手は既に軟肉に飲み込まれて、無駄な抵抗はクッションとなった胸によって衝撃が100%吸収されてしまう。


 さらに、優奈は俺にくっていてきてはまた声をかける。


「ねえ……一つ聞いていい?」

「なに?」

「あのスタンガンって、とても大切なものだと言ってたよね?なんでなの?」

「……」


 スタンガンか。


 そういえば、彼女を助けた後、俺は彼女にスタンガンを渡した。


 あのスタンガンは……


 俺は右手が優奈のおっぱいに挟まれた状態で語り始める。


「実は俺の両親って護身用品を販売する業者だったんだ」

「そ、そう?」

「ああ。んで、高校に入学した時ちょうど結婚記念日だったから、父さん母さんが二人で旅行に行ったんだ」

「……」

「あの時の俺は怖がりやで、父さん母さんがいないことを考えると不安になったんだ。それで、両親があのスタンガンを俺に渡して、『このスタンガンが俺たちに代わって司を守ってくれる』って言ってくれた。まあ、両親は旅先で事故に遭って死んだけど……」

「そんな大切なものを私にくれたの?」

「まあ、俺が持つより優奈が持った方が有効活用できると思ってな」

「……」


 優奈は顔をピンク色に染めて俺の左手も彼女の胸に持っていく。


 信じられない光景だ。


 こんなテレビに出てきそうな美少女の大きな胸が俺の両手を完全に飲み込んでいる。


 俺は心臓の高鳴りを抑えるのに必死だった。


「ゆ、優奈!?」

「ずっと有効活用してきたの……」

「本当か?」

「うん。私、司がくれたスタンガンで、気持ち悪い男たちを気絶させてきたの……」


 と、優奈は俺の手首を抑えていた自分の手を離して、テーブルに置いてある自分のブランドバックに手を突っ込んでスタンガンを取り出した。


「これ」

「本当に持ってたんだ」

「当たり前よ。司がくれたものなんだから」

「……」

 

 俺は悩んだ。


 手を離すべきか、それとも動かさずにいるべきか。


 彼女の大きい胸をまとめてくれるブラとマシュマロが織りなす乳圧はすごい。


「司」

「ああ」

このままでいいよ」

「っ!!!」


 俺は手を離した。


 一瞬、彼女の柔らかさを味わってしまった俺の脳がもう一度触りなさいと轟き叫んでいるが、俺は我慢した。


 すると、優奈が残念そうに息をついた。


 その姿が妖艶極まりなかったので、俺は口を開く。


「優奈は男を嫌っていたんじゃなかったか?」

「うん。嫌いよ。大嫌い」

「じゃ、俺も」

「司は私を守ってくれたの。だから嫌いじゃない。私は、守ってくれる人が好きだから」

「……」

「私、司くんと仲良くしたい」

「俺なんかと……」

「なんかじゃない。私を救ってくれた司くんと


 優奈は目を大きく開けて、俺を見つめながら言ってきた。

 

 彼女の美声がまるで催眠の効果を発揮しているようで、少し精神が朦朧としてきた。


「……友達なら、いいよ」

「ふふ、ありがとう」


 きっと俺みたいな守ってくれそうな男友達は彼女はいっぱい持っているだろう。


 だから変な勘違いはしてはいけない。


 だって、こんなに綺麗な女の子だぞ。


 俺は数あるボディーガードの中の一人にすぎない。


 そんなことを思っていると、


「司」

「うん……」

「私、怖い」

「何が?」

「夜道、一人で歩くの」

「……送るか?」

「うん。そうしてくれると嬉しい」


X X X


 俺は彼女と一緒に桐生家にやってきた。

 

 途中で道ゆく人たちにめっちゃ見られた。

 

 ここは厳重なセキュリティーが施されているタワーマンションだ。

 

 エレベーターに乗って、22階に降りてドアの前にたつ俺たち。


 優奈が暗証番号を入力すると、ドアが開いた。


「優奈、おかえり」


 中から声がした。

  

 やがてエプロン姿をした女性が現れ、こっちにやってきた。


 俺は


「っ!!!!」


 驚いた。


 開いだ口が塞がらないとはよく言ったものだ。


「柊……楓」


 間違いない。


 彼女は柊楓だ。

  

 彼女は俺を見て、自分の頬を手で優しく触りながら微笑んでは、


「あら……あなたが司ね?」


 と言って、恍惚とした表情で俺を見つめる。

 

「は、はい……」


 彼女の青い目は


 俺の目をあまりにも的確に捉えている。


 まるで逃げることを許さないとでも言いたげな視線だ。


 俺は固まってしまった。


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