第43話

「――ねぇ、ボク達4人は合流できたみたいだよ! 土煙で姿は見えないけど、声が目の前!」

「暁さん、間違いありません、おかげさまで合流に成功しました! あとは暁さんだけです!」

「早く来なさい! 私達の元まで来れば、安全よ!」


 頼もしい2人の声が聞こえる。


「暁、まだぁ!? 土煙が酷すぎて全く見えないんですけど!?――時間も護れないとか、社会人失格なんじゃないですか!?」


 腹立たしい声も聞こえる。


「人間失格な発現を繰り返すお前に言われたくねぇ! 今、絶賛向かってるわ!」

「ぶっぶぅ、ボクは人間じゃありませーん!」

「……前々から言ってましたけど、教官は人間じゃないんですか?」

「そう、私も気になってたのよね」

「あ、ヤバ……。洗脳の力で都合の悪い言葉は聞こえないはずなのに……」


 残念ながら、その洗脳の力は薄れてきてるからな。

 カーラの行動による上書き保存でな。


「――威力は弱く、風の方向だけコントロールして……よし、視界がさっきより晴れた」


 風魔法で視界を少しでも良くして、マリエが切り開いた道を追っていた時――遠巻きながら、土煙の中に影が3つ見えた。

 修道服を着た2人と――その背後に、棍棒を持つ小型の影だ。胸の膨らみがある。


「――危ない、メスだ!」


 マリエ達の後ろに、気配を消して忍び寄ったのは――メスゴブリンだろう。

 既に小型の棍棒を振り上げている。

 2人の影は全く気付いている様子もない、ヤバい!


「え、メス?」


 キョトンとしているマリエとハンネの様子に――俺は助けねば更に速度を上げ駆け寄る。


「間に合えぇえええッ!」


 マリエの結界は自動で――物理攻撃も魔法攻撃も無効にしてくれる。

 唯し、その自動発動条件は――男が範囲内に入った時だ。


「くそっ、どうしてモンスターにメスがいるかもって思い至らなかったんだ……っ」


 思えば、モンスターだって繁殖をしているんだ。

 マリエの心の壁を通り抜けられるモンスター、雌だっているかもしれない。

 マリエが異常な能力を覚えた経緯からすると、モンスターよりも男の方が危険だった。


「――盛りが付いた男なんて、ゴブリン以下だよなぁあああアババババ……ッ!」

「ピギャアアアアアッ……」

「――え、暁さんの声と――手応え!?」


 折れた聖剣で棍棒を受け止めるべく、マリエの後ろに回り込んだ時――『男への心の壁』により自動的に生じるという結界が発動した。

 俺に対して発動した結界に巻き込む形で――吹き飛ばされる時、棍棒を持つゴブリンにも電流を分けてやった。


「手土産だ……っ。お手々繋いで一緒に逝こうぜ」


 一緒にお手々繋いで飛ばされる相手がゴブリンって……。

 せめて、可愛い女の子が良かった……。


「暁さん……!?――もしかして、私を庇って……っ!?」

「うそ……ゴブリンの群れに連れ去られていくわ!」


 そう、『不運体質』の本領発揮というか――俺の吹き飛ばされた先には――大量の雌ゴブリン。


「むがむがっ」


 雌ゴブリンは俺をロープで縛り猿ぐつわと薬品を染みこませた布を噛ませると――炭鉱の奥へと荷物のように運んでいった――。


「ちょっ何!? 暁、どうしたの!?」

「暁、返事をして、何処行ったの!? 土煙で何も見えないわ!」

「大変です! 暁さんが、連れ去られて行くのが一瞬だけ見えました!」


 いまだ雄ゴブリンと激しい戦いを繰り広げる仲間達をそのままに。

 俺はわざわざ枝分かれした道を通り、鉱山の奥へ連れ去られていく。

 ああ、この布には睡眠導入効果がある薬品が染みこませてあるのか……?


 疲れた心身が、吸い込まれるように意識を――。


「――くっはっはっは! これは面白い、実に面白い被検体だ!」

「……ん?」


 妙な声が聞こえて目が覚めたとき――俺は衣服ごと緑色のプールに浸かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る