第36話

「カーラ……。お前、プリースト達と貴族様を見習えよ。こんなにも俗っぽいなんちゃら乙女、俺は恥ずかしいよ」

「うう……。と、とにかく! 鉱山奪還して救って国交回復も、貴重な鉱石で儲けるのも、全部やればいいんだよ!――意見は多い方が良いじゃあないか!? よし、じゃあ他の人に取られないようにこれで申請してくるからね!」


 カーラは依頼書の束を持って、さっさと教官室へと走って行った。


「逃げたな」

「教官は……大丈夫なんでしょうか。何でしょう、以前はあんな人では無かったような……」

「そうね、もっと偉大で聖母様のような人だったイメージが……ッ。頭痛いっ」

「私も、なんだか頭がズキズキするわね……ッ」


 学生達も、正気に戻りつつあるようです。

 早く刷り込みから解放されるといいね。

 まぁ、偽りの記憶だったり――名刺や履歴書に『偉い立場や実績』が書いてあっても、実際に己が目で見てともに仕事をしてけば、化けの皮がはがれる事なんて多々ある。

 全て、カーラ自身の行いだ。身の丈に合わない張りぼての記憶を刷り込んだせいだ。


「その点、暁は揺るがないね」

「そうね! 最初から自分の事ばっかりだったわ!」

「そうですね。少しカーラさんに毒されて、言葉使いが悪くなっている気がしますが……」

「――……・え」


 ヤバい、言われてみれば俺も、口が悪くなってるかも。

 自分の事ばっかりってのも、自覚がある。

 生き残るのに必死で、ニーナやマリエの惨状に気付いてなかったし。

 ヤバい。環境が人を変えるって言うが、生前の俺は『真面目』だけが取り柄だった。

 ……ちょっとだけ、自分を見つめ直して改めよう。


 そうして俺は寮に戻ると鍛錬と夜の外回り営業に繰り出した――。

 そんなこんなで数週間が経過し、いよいよ冒険実務訓練への出発日となった。

 学園側から必要物資として与えられた武具や食糧品等の数々、そして男女混合パーティーのため、1つずつテントも支給された。

 俺は『天啓レベル低くても頑張るから!』とみんなより多めの荷物を奪うように背負った。

 クズ化しつつある自分を改めていかねば。


「――さあ、いっくよぉ!」


 馬車はカーラの言葉で動き出した。

 廃坑近くの村までは整備状況は悪いながらも街道が通っており、馬車で行けるらしい。

 ハンネが御者として馬車を操れるとは驚きだった。

 隣に座るマリエと仲が良さそうで何よりだ。

 ニーナは……自分の家で所有する馬に1人で乗っている。……可哀想に。

 立派な槍以外、何1つとして荷物を持っていないカーラは気楽そうだ。


「なんかキャンプにでも行くみたいで楽しそうだよな、お前」

「当たり前でしょ、だって初心者向け依頼の中でも超楽なのを厳選したんだよ! 楽勝楽勝!」

「またフラグになりそうな事を……」

「まぁさすがに、今回の内容なら過度な心配はいらないでしょ。ウチも大丈夫だと思うよ」

「そうですよ、暁さん。適度な緊張感は必要ですが、まだ現地まで数日あります。今からその調子では疲れてしまいますよ」

「そっか。――それもそうだよな」


 確かに適度な緊張感は必要だが、過度な緊張は必要な時に力を発揮出来なくなる。

 俺は力を抜き、王都を離れていく街道を進んだ――。

 そして、星々の輝きが美しく見える、空が澄んだ夜の――初日の夜の事でした。

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