第12話

「――不破、動きが遅い! 躊躇うな!」

「ひゃ、ひゃい!」


 天国の親父。

 俺は今、木剣を用いた乱戦に巻き込まれています。鎧を身に纏って。


「鎧……。重っ。――まともに動けねぇ……っ!」


 鎧を着けると身体が重い、とにかく重い。

 社会人とは違う意味で縛られ、自由がない。

 いや、なんだかんだ俺もね、剣術とか格闘技とかやってたし、剣道もかじっていたわけですよ。

 だから少しは良い勝負ができるかな、とか思ったんだけど……。


「天啓レベル1など、所詮はこんなもんか……何が救世主だ」


 ほら、現実は剣術教官ががっかりして吐き捨てるレベルなんですよ。

 だってさ、天啓レベルとかいうので能力値みたいの上がっている人達は当然、筋力やら反射神経も上がっている訳で。

 そんな中、少し本気で鍛えた程度の日本人が重装備して戦ったらもう、ね。

 こっちは重い鎧のせいで動くだけでしんどいのに、居合い術や体捌きなんてしている余裕無いわけなんですよ。


「――らぁっ!」

「いたっ……重っ!」


 鍔迫り合いになれば、捌くどころか鍛えた身体と甲冑の重みを利用して押しつぶそうとしてくるんですわ。こんな実戦向きな戦いから知らないから!

 スポーツなら反則かやり直しだけど、これは実戦なので問題なし。

 しかも、乱戦の中でそんな無防備状態になってる敵を見逃すやつなんて居ないわけで……。


「いてててッ! 鎧の隙間から剣が、剣がァアアア……ッ!」


 あっという間に鎧の隙間に剣を滅多刺しされて、死亡だよ。


「不破ッ死亡だ! どちらかの組が壊滅判定となるまで、教練場を走りながら他者の動きを見ていろ!」


 こんな事の繰り返しだ。

 技では負けていないとは思う。お世辞にも生徒達の剣裁きは上手いとは言えない。


「こんな力任せな動きに……くそっ」


 でもね、どんな優れた技を持つ蟻でも象には勝てないんだよ。

 それぐらい基礎能力が違う。


「返事はどうした!?」

「はい、すいません! 弊社の更なる利益達成の為、全力を尽くします!」


 そんな訳で、身体バキバキになりながらも基礎訓練を続けている訳だ。

 ちなみに、天啓レベルの平均はエリートの練兵学園の1年生でも15ぐらい。

 前線で生き残る正規兵だと40ぐらいが平均らしい。


「100を上限に、高ければ高いほど神に近い能力を得られるとか……」


 天啓レベルとか、チートじゃん……。俺は普通の人間です。

 バッドステータスまがいの〈ギフテック〉3つじゃなくてさ、天啓レベルをくれよ。


「あいつ、本当に弱いな……」

「だな、殆ど案山子みたいに動かないし。……少し動いても、遅すぎる」

「祈祷隊のプリースト達、救世主召喚もう1回やり直してくれないかなぁ……」

「今まで何回も正規のプリーストが祈って救世主は降りて来なかったんだし、キツいだろ」


 ほら、同じく走らされてる奴からすら悪口が聞こえてくるんだよ。

 君らも戦死扱いだから走らされてるんだろうけどさ。俺と君らじゃ同じ戦死という同じ結果でも、そこに至るプロセスが違うのは解ってるんだけどさ!

 職場を退職する理由の殆どが人間関係なんだよ?

 俺だって、成績上位3位というノルマを達成出来なきゃ最前線送り。

 逃げたら地獄行きとかいうこんなブラック職場、辞めたいよ。


「ちっくしょおッ!」


 俺は持てる全速力で、しかし周りから見れば亀のように遅い速度で走り続けた――。

 疲労は感じるものの、動けないほどではない。24時間働き――動き続けられる気がした。

 まぁ、そこは〈ギフテック〉の『過労耐性』ってやつのおかげなのだろうか。

 これに関してはバッドステータスじゃないな。時給制の職場なら稼げる良い物だ。

 重い鎧を纏い、お爺さん亀のような速度で雄叫びをあげる俺を客観的に見たら――そのアンバランスさにきっと死にたくなるだろう。

 まあ、もう死んでるから今はオマケ人生のようなものなんですけどね!


「それまで! 本日の戦闘訓練はここまでだ! 学術・戦術教練会場へ向かえ!――不破ッ! 貴様はそれだけ元気なら問題なかろう! 授業後は居残り訓練をしろ! 根性を出せ!」

「俺だけ居残りですか!?」

「返事はどうした!」

「はい! ノルマ達成を実現します!」


 サービス残業が確定しました。


 そもそも、この世界では報酬ってどうなってるんだろうか――……。

 いざという時は学徒動員されるから普段から生徒手当とか出るらしいけどさ。

 学生だって学業が本分ならさ、成果報酬とか昇給があってもよくない?

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