第8話 言い方…


 期末試験も無事終わり、赤点も回避した俺達は、冬のウインターカップに向け、体育館で汗を流す日々が始まった。


 でも、弱小校の一年生。そんな俺達に出番という出番もなく、冬休みが始まってすぐに体が空くことになった



「今年もクリスマスパーティやる?」

「またいつものメンバー?」

「でも、今年は莉子にお願いされてるんだ」

「そうなの?」

「うん。「高校生になったんだから、二人きりで」ってさ」


 これまでは毎年、小学校の頃から仲の良かった面子で集まり、その中の誰かのうちでパーティを開くというのが、俺たちの中では恒例になっていた。


 でも、さすがに高校生になり学校も別れ、しかも奏汰と莉子ちゃんみたいに付き合ってる相手がいたりすれば、二人きりで、というのは普通だろう


「いいよ。俺に気を使わなくても」

「本当に?」

「ああ。今年はのんびり、うちで咲希と一緒にケーキでも食べることにするから」

「そう?でも、年内には一度みんなで集まろうよ」

「分かった。楽しみにしてる」

「うん!」


 奏汰は莉子ちゃんのことを大事にしてるし、そういうのも羨ましかったりもするけど、俺は特にそれ以上のことは何も思わなかった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 次の日、ピロン♪というLineのメッセージ音で目を覚ます


 差出人は…瑠香さんだった



 あれ以来、たまにメッセージのやり取りなんかはしてたけど、でもそれだけで、俺の方からメッセージを送るようなこともなかった


(なんだろう…)


 そう思って開いてみると、『クリスマスの予定って、もう何かで埋まってる?』



 これは……これは………!



 そしてすぐさま次のメッセージが


『もし空いてるようなら、一緒に過ごせないかな…やっぱり、無理…だよね…』


 ナニコレカワイインデスケド…






 その二日後のクリスマスイブの日。俺は瑠香さんと約束したレストランに来ていた



 なぜか咲希と一緒に…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 少し話を遡ると、あのメッセージの後すぐに「行きます」という返事は出来なかった



「なあ、咲希」

「なに?」

「あのさ、クリスマスなんだけど…」

「うん。今年はうちにいて、私と過ごすんだっけ?別にそういうのいらないのに」

「あ!やっぱそうだよな」

「…え?」

「いや、お前も俺なんかと一緒にうちでいても、嬉しくもなんともないよな」

「嬉しいだなんて…そんなこと…」


 え?なんでちょっと恥ずかしそうなんだよ


「だから、俺、出かけてくるよ」

「は?なんで?」

「え…」


 気を利かせたつもりだったのに、急に普段のツンツンしてる咲希に戻って詰めてくる


「ねえ、なんで?」

「だって、俺と二人きりとか嫌だろ?」

「いつ私が嫌だって言ったのよ」

「言ってないかもだけど、でも…」

「私は兄さんと一緒にいるわ」


 なんだ?どうした?


「でも、お前だってクリスマスくらい、受験のこと忘れて友達と遊びたい、とかあるんじゃないのか?」

「ないわ」


 即答…


「兄さんは、私を置いてどこに行くわけ?」


 え…言い方…


「今年は奏汰くん達のパーティがなくて、久しぶりにうちにいるんじゃなかった?」

「そうだったんだけど…」

「けど、なに?」

「ちょっと、誘われちゃって…」

「誰に?」

「えっと、友達に…」

「だから誰に?奏汰くん以外に友達いた?」

「ちょっと!酷くない?」

「酷いのは兄さんよ…」

「え?」

「…なんでもない。で?誰?」

「いや、だから…」

「…もしかして……女?」

「ぅえ!?」

「え!?本当に!?」

「ち、違っ…」

「ちょっと!詳しく説明してよ!」


 妹に胸ぐらを掴まれ、ぐわんぐわんと揺らされる俺…

 いつも素っ気なくて俺に全く興味なんてなさそうだったのに、この食いつきはなんだ…


「なんで咲希に説明がいるんだよ」

「妹だからよ」

「ちょっと!意味わかんないよ!」

「勢いだけで誤魔化せると思ったら大間違いよ。ほら、教えてよ」

「だから、なんで妹に説明がいるんだよ!お前は俺の彼女じゃないだろ!」

「兄さんに彼女なんていらないわよ!」

「は?なんだよ、それ!」


「はいはい、どうしたの?兄妹喧嘩?」

「あ、お母さん、兄さんが…」

「遥斗がどうしたのよ」

「私を置いて行っちゃうの…」

「咲希!だから言い方!」

「…遥斗?どういうこと?」

「え!?なに?この流れはなに?」

「…クリスマス、約束してたのに…」

「え!?約束した?したっけ?」

「遥斗…説明しなさい」




 咲希…お前…ずるいぞ……





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ふーん。ここにいるんだ」

「…おい、お前…言い方だよ…」

「分かってる。ちゃんとうまくやるわ」


 そういう訳で、咲希も一緒に付いて来た…


 まあいいか。

 逆に、瑠香さんみたいな女の人とクリスマス過ごすとか、緊張するに決まってる



 瑠香さんには「妹が一緒でもいいですか?」と返事したんだけど、「うちもいるから大丈夫だよ」とのこと




 って、つまりそれって…そういうことですよね…?





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