25.初めての体験

 家に着くと、コートを脱がされてまたベッドに転がされる。

 テッペイはコンビニ袋の中から避妊具を取り出して、中から個別包装されてあるコンドームを三つ手に取った。

 一体何回するつもりなのかと問い質したいが、怖くて聞けない。

 テッペイはそのコンドームをベッドのヘッドボードに置いて、ニヤリと笑っている。


「ったく、ようやくヤれんのかよ」


 またも上半身裸になり、嬉しそうな顔を向けてくるテッペイ。ルリカの手は微かに震え、それを気取られぬようにテッペイを少し睨む。

 この男はそんなことを気にするわけもなかったが。


「エッチすんの、久々だなー。誰も相手してくれないんだぜ。こんなイケメンなのによー!」

「あんたの場合、性格に難があるからでしょ……」


 テッペイの胸筋や腹筋をチラッと見ては目を逸らせた。どこを見ていいのか、正直もうよくわからない。


「んーじゃあ、ルリカはいつ以来なんだよ?」


 その質問に、ルリカはさらに顔を背ける。

 処女じゃない演技をして、バレないものだろうか。そもそも、そんな演技ができるかどうかも怪しい。なにせ、未経験なのだから。


「私は、その──」

「五年ぶりくらいとか?」

「う、生まれてぶりくらいかな……」

「は?」


 おそらく、テッペイにとっては予想外の答えだっただろう。チラと様子を伺うと、テッペイはイケメンを歪ませている。


「生まれてぶり……初めて、ってことかよ?」


 言い当てられてしまい、顔がカーッと熱くなる。もう誤魔化せないと思ったルリカは、仕方なくこくんとうなずいた。


「処女?」

「も、もう! そうだって言ってるでしょ! 悪い?!」


 開き直って逆切れすると、テッペイはいままで見たこともないくらいに顔を輝かせている。


「マジか! ラッキー!! 一回、処女とヤってみたかったんだよな!」


 喜ぶテッペイとは対照に、不安になるルリカ。

 テッペイに初めてだと伝えられたのはよかったし、嫌がられなかったのも嬉しい。けれどもやっぱり、怖いものは怖い。


「お、お願い、テッペイ……無茶、しないでね。私、初めてなんだから……」

「心配すんな! 俺は処女を相手に、毎晩妄想で特訓を積んだ!」

「なんの特訓よ?!」

「まぁ任せとけって。俺の妄想じゃ、一晩でルリカも淫乱になる予定だからよ」

「どんな妄想……んっ」


 唇を塞がれたルリカは、もうどうにでもなれと目を瞑った。

 そしてそのまま、テッペイに身を委ねた。





 ***





 カーテンから朝の光が入ってくる。

 これが噂の朝チュンか……そんなことを思いながら、ルリカは目を開けた。


 テッペイはすでにベッドから降りて、着替えを済ませている。


「あ、起こしたか?」

「うー……今何時……」

「六時ちょい過ぎ」

「ええ、まだそんな時間?」


 ルリカも起きようとしたが、中々思うように体が動かない。

 ヘッドボードに置いてあった袋は、すでに三つとも使用済みである。


「大丈夫か、ルリカ」

「あんたね……初心者相手に、三回もしてんじゃないわよ……っ」

「でも気持ちよかっただろ? お前だって三回目にはイきまくって喘ぎまく……」

「きゃーーーー、もういいから!!」


 自分じゃないような恥ずかしい声を思い出してしまい、叫びたい気分だ。

 本当に、たった一日で開発されてしまった気がする。

 初めてだったというのに、痛みがなかったことには感謝せざるを得ないが。


「かわいかったぜ、昨日のルリカ。もう慣れただろうし、今日は四回ヤろうなー」

「なに言ってんの、バカなの?!」


 本気なのか冗談なのか、まったくわからない発言に、ルリカの顔は引きつるばかりだ。


「んじゃ、ちょっと走ってくる。ルリカはまだ寝てろよ」

「昨日、あれだけしといて元気だね……いってらっしゃい」


 いつものランニングに行くテッペイを見送ると、まだ温もりの感じるベッドで、ルリカは目を瞑った。

 二十七歳にして、とうとう処女を卒業してしまった。

 わき起こる高揚感。好きな人と結ばれた、幸せ。

 生理の時のようにお腹は鈍痛を訴えているが、それもまた喜びの痛みな気さえする。

 テッペイとの距離がぐっと近くなった……そう思ってもいいだろうかと少し自惚れてみる。


「テッペイ……どうしよ、大好き」


 ずっと心の中にあった種が、確固たるものへと変わってしまった瞬間だった。

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