人生ワンオペ侍

坊主方央

第1話

中橋となつぽんは話していた。一見、他愛もない話に見えるが、全くそんなことはない


「もうまぢぃ病んだ…アタシもう死ぬ…」

「死なねぇよな」


中橋はメンヘラである。地雷系の雰囲気を纏い、黒髪をツインテールにしている。


対して、なつぽんはギャルである。不良の雰囲気を纏い、茶髪を巻き髪にしている。


「今回はやばいから。もう本当に」


中橋はメンヘラらしく死にたいと呟いた。それを聞いた、なつぽんはキレた。


「そう言ってな?前回は深爪になったってだけで死ぬって言ってたよなお前」


そう言うと、彼女は目をうるうるにしながら短い爪を見せてきた。


爪周辺の皮膚はカサカサしており、血色は悪い。洗い物のしすぎだろうか。


「中橋テメェな?」


キツい言い方だが、なつぽんは彼女のことは嫌いではない。


「なつぽん、そんな事言わないでぇ…!もう手首を…くぅ!」


彼女は手首に手を当てて、それを引くようにして、何回も連続してやっている。


「あーあー手首切んの?切っても状況は変わんないけど」


中橋の行動に冷めた目で見ているが、彼女の手首に傷跡がないことを確認して、ホッとした。


「いやヴァイオリン」

「なんで?てかそのメロディ…」


口ずさんでいるのは、かの有名な曲だった。


「博士太郎じゃん灼熱大陸の!なんで鼻歌なわけ?意味わからん」


そう、彼女が言うと中橋は真剣な顔になった。


「やっぱり弾くのが一番いいわ」

「メンヘラに教養とか要らんから」


彼女はおもむろにカバンから激安スマホを取り出して、自撮りをし始めた。


「あー写真取ってトゥイッターに載せて承認欲求満たすんでしょ?」

「みんな私をチヤホヤしてくれるから…!」


写真を取り終えると、彼女はスマホをタップし始めた。それをなつぽんは覗き込んだ。


「ったく、ほんとお前って馬鹿だよねぇ…って!何これ」


彼女はとても驚いた。


「何って…コックパッドだけど?」

「なんでコックパッドに呟いてんのって聞いてんの!病みをレシピにすんなよ」


何故か、彼女はコックパッドに病みをツイートしていた。


レシピ名は「もゥまぢ無理サラダ〜マニーを添えて」だった。作り方にどっしりと病みの怪文書を書いていた。


「つか何をそんな見てんの?」

「博士太郎」


淡々と言われた。


「博士太郎!?」

「あ、なんか博士太郎を作った人いるみたい」

「人体錬成すんの!?代償えぐいだろ…」


なつぽんは一から人間を錬成するのを想像したらなぜだか気持ち悪くなってきた。


「あーエナジードリンク飲みたーい」

「また体に悪いもん飲むんか?そんなやつよりもほしぃバックス行けばいいじゃん」


彼女はご飯をあまり食べない。大体をお菓子やジュースで済ませているため、なつぽんがお弁当のおかずをあげている。


「トランス脂肪酸含まれてるからヤダ」

「だからメンヘラに教養要らねぇつうの!」


中橋は大きな古い手鏡をカバンから取り出した。


「あ、またメイク落ちてる」

「アイシャドウ塗れば?」


中橋の目の周りはピンクであり、なつぽんはブラウンでガッツリメイクしている。


「うち今ブラウン系しか持ってないからさぁ。ピンクは諦めてくんね?」

「これアイシャドウじゃなくて鬱血だよ」


ケロッとしている中橋になつぽんはびっくりして、怒鳴ってしまった。


「はぁ!?馬鹿じゃないの!?なんか青混ざってんなと思ってたけど!アイシャドウぐらい買えよ!」


何が原因か分からないが、大方ろくでもない理由だと分かる。


「ってことはその涙袋は…」

「腫れてる〜」


なつぽんはため息をついた。


「そんな悠長に言うことじゃなくない?ちゃんと安静にしときなよ」

「あ、口紅貸して」

「あーそれならピンクあるかも」


彼女が渡した口紅に、中橋は怪訝の目で観察している。そんな様子を変だと思ったなつぽんはしばらく黙っていた。


「これ知ってる口紅じゃない…何これ…」


なぜだか、酷く怯えている様子で、彼女はなつぽんにその口紅を返した。


「ティント。リップはオレンジっぽいのしかないから」

「普通は果物の絞る汁でしょ?」


ずっと眉をひそめている彼女に、なつぽんは嘲笑ってしまった。コイツは馬鹿だなと。


「原始時代はそうかもな?今さぁ令和だから」


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