試行・熊・ベアー

 挑むはAランクダンジョン『剛破死獣の園』。


「壊れんならアタシの獲物だなァ……」

「在るならボクの敵じゃないね」

「無くとも吾輩の手の平の上である」

 前衛、リオンちゃん。『ライオン』の索敵と瞬間攻撃力で、まぁほぼなんとかしてくれるだろう。威勢もよく、チーム全体を鼓舞する側面も。

 中衛、ボク。経験を活かし、前後の二人にダンジョン内での立ち回りの指示。リオンちゃんやベルさんの対応を見て、『デザイア』での後出しジャンケン。

 後衛、ベルさん。『ベルゼブブ』による後方確認と、前二人がどうしても間に合わない・回避できない場合無理矢理引っ張る役。警戒・伝達・対応と、目端の利く彼女にこそ任せたい。


 記念すべきファーストエンカウントはステルスヒグマだった。戦闘力はそこそこだけど、魔力感知に引っかからない厄介さんである。

「これは食えんの?」

「あんまりオススメはされてないね」

「じゃ、倒すぜ」

 雷槍がステルスヒグマの胸を貫く。構成核を破壊されたので、再結晶化の後消滅していった。


 全部で十階層からなるこのダンジョンは、ランダムに出現する階段を探す必要がある。

 厄介なのは、すでに見終わったところにも平然と出現するという鬼畜仕様だ。こちらが階段を観測すれば固定されるとはいえ、あんまりだろう。

 脱出条件も階段。下に降りるか、ダンジョンから出るかを選べる。

 攻略条件は十階層にあるという扉。


「リセ、このクマは?」

「シキモノグマだね。食べても美味しくないよ」

「で、あるか」

 『ベルゼブブ』を密集させての圧殺。

 前戦ったときアレやられなくてよかった……!

「敷物に擬態してっからシキモノグマってェのか?」

「らしいよ」

「へェ……」

「ははは! 本当に敷物になっては世話ないな!」


 和気藹々と進んでいって、無事階段を発見。第二階層へ。

「ツタだらけであるな」

「階層ごとに環境が違うんだよ。まぁ、魔物はクマばっかりだけど」

 ボクたちを察知したらしいハナグマが立ち上がったので、胸に拳を叩き込む。

「この辺の草の実は食べれるし美味しいから、テキトーにつまみながら行こう」

 落ちにくい赤い汁で口元が汚れやすいのがネックだが。

「美味いな」

「であるな」

 べちゃべちゃである。


「ここ、前に通ってないか?」

「えー、……かも」

「悪ィ」

「リオンちゃんは悪くないよ。……そっち、あの草の壁、ゆっくり『ライオン』で撃ってみて」

「ん? おォ」

「ギッ」

 短い断末魔を上げたのはカクシグマ。またしてもクマ。

「道ができた……?」

「壁に化けて通せんぼするタイプのクマだね。ゴハの実を食べて食べ頃になった冒険者が大好物で、そのために同じところをグルグルするよう突っ立ってるんだよ」

「クマしかおらんのか」

「クマしかいないって聞いたよ」

「もォいいよ、クマは」


 ……。

 …………。


「これ、ホントにAランクなのかよ」

「あー、ね」

 第六に向かう階段まで来てしまった……。

「リオンちゃんとベルさんがめちゃくちゃ強いからね。普通だとクマさん一匹でちょっとした騒ぎだから」

「この下に行くとどうなるのだ?」

「道に迷いやすくなるし、クマさんも増えるよ。らしい」

「どォなんだ。リセから見て、アタシらでオタカラに辿り着けそォか?」

 うーん……。


「今回、割と階段見つかるの早かったしなぁ……。でも本番はマクスウェルのとこの道具もあるし……うん。イケるイケる」

 ボク自身、めちゃくちゃサクサク進んでびっくりしている。三人揃って索敵も戦闘もできるとこんなに楽なのか……。

「ここから先は本番のお楽しみってことで、帰ろうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る