十一 魔法卓球とペカペカとピッチピチ

 ななさん二号が女神様の傍に行って、女神様がななさん二号を手に取る。




「二十一点の二セット先取か、相手が戦闘不能になるかの、どっちかで勝敗を決めるけど、それで良いわねぇん?」




 ななさんが言ってから、グリップの部分を町中一の方にグイっと、さぁん。握るのよぉん。と言わんばかりの勢いで向けて来た。




「イカサマの事は、女神様のあんな顔が見られたからもう良いけど、ちょっと待て。戦闘不能ってなんだよ? それに、台と球がない」




「ぶぶぶぶぶぶぶ。あんたん、魔法卓球を知らないのぉん?」




 ななさんがとても嬉しそうに、且つ、とても得意になって言う。




「魔法卓球?」




 町中一は、ささっと、ななさんから視線を外すと、女神様の方を見た。




「女神様はこいつの言っている事が分かりますか?」




「あ、え、あ、は、はい。分かっていますが、説明となると」




「それって、分かってはいないという事では?」




「そんな事はありません。魔法卓球っていうのは」




 女神様が、そこまで言って、言葉に詰まり、沈黙してしまう。




「おい。ななさん。もったいぶってないで説明しろ」




 泣きそうな顔になった女神様を見て、町中一はそう言わずにはいられなくなった。




「あんたんのその女神ちゃんびいきがムカつくから、体で覚えてもらうわぁん。女神ちゃんの方からサーブしてぇん」




「お前、卑怯だぞ」




「大丈夫よぉん。あんたんが理解するまではあたくしが一人で戦うからぁん」




「始めて良いんですか?」




「良いわぁん。さあ、女神ちゃんかかって来なさいぃん」




「では、行きますよ」




 女神様がラケットを持っていない方の手を開いて、自身の胸の前の辺りで、掌を上に向けると、掌の上に白く光る球体が出現した。




「ちょっと待った!!」




 町中一は、もう今までの人生の中でも、これほどに大きな声を出した事があっただろうか? いや、ない! という位の勢いで声を上げた。




「ど、どうしたんですか?」




「何よぉん?」




「服だ。服装。このままじゃ、動き辛い」




「あらぁん。あんたん、やる気を出してぇん。良いわぁん。女神ちゃん。この男が望む服を出してあげてぇん」




「はい。町中一さん。どんな服がよろしいですか?」




 町中一が、前向きになった事が嬉しいのか、女神様がとても素敵な笑顔をみせる。




「俺の事は、さておき。女神様の服装です。女神様、その格好では動き辛いですよね?」




 女神様が自分の体に目を向ける。




「えっと、そう、ですね。このままだと、動くと、中身が出てしまうかもです」




「それは、それで大歓迎なんですが、まあ、今回は、それは良いのです。女神様。俺が、女神様用のとっておきの服を提案したいのですが、それを言ったら、それを出して着てくれますか?」




「え? それは、どんな物かにもよるというか」




「女神様。そんな。俺を信用できないんですか? 俺が、女神様が不利になるような服装を提案するとでも?」




「そんな、そんな事は思ってはいません。ただ、ちょっと、エッチなのは、駄目かなぁっと」




「エッチなの? 俺は全然そんな事なんて考えてなかったのに。女神様はどんなのを想像しているんですか?」




「それは、それは、ええっと」




 女神様が至極困った様子で押し黙る。




「もう。いつまで、イチャコラやってるのよぉん。早くしなさいよぉん」




「いや、でも、女神様がなあ」




「分かりました。どんな服か言ってみて下さい」




「体操服ですよ。上着が白で、下が赤と青とかのあれです」




「あー。はい。あれですね。学校とかで使われる?」




「はい。それです。所謂ブルマーとかっていう奴です」




「はいはい。それなら全然平気です」




 女神様の着ている服がペカペカと光ってから、丸首の体操服と青色のブルマーに変わった。




「良いですね。実に良い」




 町中一は、女神様の全身を頭の先から足の先までをグイングインと顔を動かして、舐めるように見た。




「ああ。でも」




 町中一は、不意に大きな、酷く、困っていて、苦しんでいるような声を上げた。




「どうしたんですか?」




「サイズが。それはちょっと大きくないですか? 俺は経験者だから分かるんです。卓球は、それはそれは激しく体を動かすスポーツ。もっと、こう、ピチピチじゃないと。服が腕や足などに引っ掛かって怪我をしてしまうかも知れません」




「そう、なんですか?」




「そうです」




「あんたん」




「なんだ? 俺は噓を言っているか?」




 町中一はななさんをギロリンっと睨んだ。




「もう、良いわぁん。話が進まなそうだしぃん。女神ちゃん。この男の言う通りよぉん。ピッチピチの方が動きやすいわぁん」




「おお。俺は今初めて、お前がいて良かったと心から思ったぞ」




「嬉しくないわぁん」




 ななさんが、ちょっと嬉しそうにそう言った。




「では」




 女神様が着ている体操服とブルマーがペカペカと光って、ピッチピチになった。




「うん。うん」




 町中一は、思わずちょっとだけ前屈みになりつつ、大きく何度も頷いた。




「まだよぉん。胸の所に名前がないわぁん。女神ちゃん。胸の所に布を当ててそこに名前を書くのよぉん」




「胸に、ですか?」




「そう」




「こんな感じですか?」




 女神様の着ている体操服の胸の所に布が当てられ、そこに、デッドオアアライブ女神という名前がキュキュキュっと書かれる。




「うむ。ななさん。最高です」




 その時、初めて、ななさんと町中一の心が通い合ったという。

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