毛布と和解せよ

脳幹 まこと

第1話:毛布は寝るのに役に立つ


 私はおよそ10年間、毛布を彼女にして交際していました。

 始まりは思春期、終わりは22歳、四年制大学卒業までです。


 ここには、経緯や所感について、私が出せる範囲のことを全て残しました。

 下品な考え、奇妙な思考回路もありますし、理解出来ない側面もあるかと思います。実際、学生時代に数少ない友人に伝えた時は「ひくわ」とだけコメントされました。

 今回は「己の過剰な偏愛」というテーマがあり、絶好の機会だと思いましたため、以下に吐露していきます。



 小学生の私には友達がいませんでした。


 PCやスマホなんて便利なものはなく、実家は片田舎にありました。私の世界は家と学校だけに集約されていました。

 クラス中に蔓延する親しげな雰囲気にあてられて、寂しいというか、惨めったらしくて、夜寝る前は涙が溢れてきたものです。

 友達がいないことを両親に相談するわけにもいきませんでした。そんな子供は滅多にいません。そうですよね?


 そんな日々が辛くなって、ぬいぐるみや車のおもちゃを相手に遊ぶようになりました。アルバムを見た限り、幼稚園の頃はよくやっていたみたいです。先祖返りですね。

 一人遊びしてからは泣かなくて済むようになりましたが、代わりに乾いた笑いが出てきます。



 中学一年。

 みんな、正しく思春期に入って、異性の話が増えました。

 

 クラスは二分されました。異性を知るものと、異性を知らないもの。

 前者は兄弟姉妹や友達、恋人がいる場合、後者はそれ以外となります。


 後者は異性に幻想みたいなものを抱きます。無知であるほど、現実離れは強まっていきます。

 私は異性を神話生物か何かだと思っていました。高尚な存在には触れるどころか、見ることすら適わない。


 ああ、女の子がいたら……


 いつもの通り、一人遊びを終えて、私は寝る為に布団に入ろうとしました。

 その時にいつもは真っ平に敷かれている毛布が、丸まってラグビーボールみたいになっていて、それが人の身体に見えました。


 それが最初の出会いです。



 毛布のプロフィール。

 京都西川の生まれ。

 アクリル素材、中国製。

 淡い黄色と緑色のまだら模様。中学生の私をちょうど包んでいましたから、おそらく1.6メートルはあったと思われます。

 痩せ気味で、夏にも冬にもちょうどよく、すべすべしている面とゴワゴワしている面がありました。そのうちの前者はきめ細やかで人肌のように感じられました。

 私とは小学生の頃からの幼馴染ということになります。


 彼女の作り方ですが、

 ダイヤの形(♦)になるように適宜折ってから、左からクルクルと丸めます(この際、すべすべしている面を表にする)。すると、上辺と下辺が細く、真ん中がふくよかな「()」のような体形が出来上がります。

 次に四隅のうち、「頭」となる角を決めます。私の彼女の場合、都合が良いことに一つの角にだけメーカー名が記載されたタグがあったため、それを「頭」、対角線上の角を「足」としました。

 頭と足を間違えてしまったら失礼です。そうですよね?



 一緒にいる時間だけなら、親よりも長かったかもしれません。

 例えば、実家にいた頃に、両親と毎日6~7時間も一緒に同じ場所にいましたか? 接触し温もりを与えあっていましたか?


 電化製品と違い性能が目に見えて向上、ということもないでしょうから、頻繁に買い替えるものでもありません。

 枕なら高さが合わなくなったで買い替えるかもしれませんが、毛布は違います。

 布団は夏用冬用があるかもしれませんが、毛布はオールシーズンです。


 つまりよく使われ、一回あたりの接触時間も長く、寿命も長い……

 付喪神の統計を取ったら、間違いなく毛布が上位に入ることでしょう。


 

 私はそんな子と夜な夜な会話をしていました。

 最初こそはぎこちなかったですが、徐々に以前のように打ち解けるようになりました。一人遊びもしなくなりました。

 話す内容は友達のこと、将来のこと、勉強のことでした。友達のこととは、「私には友達がいて・・・・・、今日はこういう話を聞いたんだ」というものです。

 彼女は私を温めてくれました。


 学校にいくと、いつもの通り疎外感が押し寄せますが、以前よりかはマシに感じました。帰れば待ってくれるものがいたからでしょう。

 私が二度寝するのは、眠りたいからではなく、パートナーとなるべく一緒にいたいからでした。ごく自然なこと。そうですよね?

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