第6話 彼女への気持ちの再認識

 千住正志くんの存在だ。


「おい!日向はいるか!!」


 やっぱり来た。


「おいおい、なんでこんなところにいるんだよ」


「本当に、なんで……」


「あいつって、たしか探索者シーカー組だろう?」


 千住正志、探索者シーカー育成高等学校、アタッカー学科の生徒。


 学生唯一、例外を除いてレベル3の有望な若手探索者シーカーの一人だ。


 身長2メートル以上、極限まで絞られた肉体、右腕に刻まれた龍の紋様。


 そのいかついオーラから皆に恐れられこのように呼ばれている、【豪鬼】と。


「ちっ、いねぇか」


 いないのを確認すると、千住君は教室から去っていった。


「どうして、こんな目に……」


 昨日の菜々花の発言を実は気にしていた俺は、静かに千住君の情報を集めていた


 すると。


 千住君がお昼放課に教室にくるっていう情報を聞きつけた俺は、咄嗟に掃除道具入れの中へと身を潜めた。


 我ながら、情報収集だけは卓越していると思う。


 俺は、再び千住君が来ることを予想し、校舎の屋上へと移動することにした。


 一つの校舎だけでも、20階あり、屋上まで階段でいく必要がある。


 この学校の不便な所はエレベーターがなく、階段で移動するしかないところだ。


 まぁ、探索者シーカーの育成設備にかなりのお金をかけているから、どうしてもそこらへんがおろそかになってしまうのかもしれない。


「はぁはぁはぁはぁ……ついた」


 屋上につくまで約6分ほど。


「やっと、ご飯が食べれる」 


 広々とした屋上、こんないい場所があるのに、なんでみんな来ないのだろうか。


 その理由は至って単純、来るのがめんどくさいから。 


「まぁ、だから安心して屋上でご飯が食べられるんだけどな」


 俺は、一人でお弁当箱を開き、外の運動場で訓練している探索者シーカーを眺めながら、お昼ご飯を食べる。


「がんばってるなぁ~」


 日々訓練に励む探索者シーカーの生徒。


 うらやましいなと思いながら、飯をかみしめる。


 探索者シーカーは命にかかわる一種の仕事、特にダンジョン内では危険が常に蔓延はびこっている。


 常に待ち伏せる未知、それは、時に命を奪う。


 故に、必要なのが、知識だ。


 ダンジョン内において、知っておいて損する知識は一つもない。


 その知識を得るのに、学校はとても楽に手に入れることができる。


 基本的にダンジョン内の植物やモンスターなどの情報には、規制がかかっており、すべてを閲覧することができない。


 だが、学校ではその規制が解除されているため、簡単に閲覧できる。


 知識は生き残る上で重要な力、とわかってはいるものの、この学校は探索者シーカーの学科に所属していないと閲覧できないのだ。


「ご馳走さまでした」


 探索者シーカーが訓練している様子を眺めていたら、気づけば、お昼ご飯を食べ終えていた。


 外で頑張っている探索者シーカーの生徒たち。


 汗水たらして、体を鍛え、知識をつけ、夢に向って前へ進んでいる。


 今まで、こんな感情を抱いたことなんてないのに、今はとても羨ましいと思ってしまう。


 もし、俺にスキルがあれば、もしあの場所にいれば、彼女を追いかける権利ぐらい得られたのだろか。


「はぁ~世界は理不尽だな」


 いくら憧れの気持ちがあったとしても、手の届かないとわかってしまえば、それは絶望へと変わる。


 世の中の理不尽を痛感し、それでも前に進むしかない。


 探索者シーカーとしての目標。


 俺にはそれがなかった。


 けど、探索者シーカーとして初めて彼女に出会った。


 助けてくれたその姿はとても大きく、美しかった。


 その時、抱いた気持ちが憧れだと知ったとき、俺は、きっと、こう思ったんだと思う。



『彼女みたいに強くなりたい』



 それがきっと俺の探索者シーカーとしての目標だ。


 その目標が絶対に届かないとわかっていたとしても、俺は、追いかけ続けたい。


 俺は、今日もダンジョンに潜る。


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