第8話

「えーー」金曜日の仕事は驚きから始まった。

めずらしく花もさやかも四時過ぎには出勤して三人で開店準備をしていたので早々に終わり、夕方には三人でコーヒーを飲みながらカウンターでくつろいでいた。そこですっかり忘れていた先週の緑男の話を花はさやかに聞いてみた所だった。


「だから心配ないっていったでしょ」絹は笑顔で言った。


「知らなかったな。そんなバンドがあって、しかもさやかちゃんがガチ推ししてるなんて」

「学生の頃、夏休みにノルウェーに2週間くらい旅行に行っててね、その時にユースホステルに泊まってたんだけど、地元の旅行客と仲良くなってライブに誘われたんだよね。後から聞いたら、その人たちはそのGBってバンドの追っかけだったらしくて」


「そのGBのイメージカラーが緑で、ファンはみんなパステルグリーンのファッションで観に行くのよ。私は原色グリーンのジャケットしかなかったから結構浮いてたんだわ」

照れくさそうにはなすさやかに花は質問を続けた。


「どんなバンドなの」

「ロックではあるんだけど、日本のとは違ったな。ゆったり目のパンク、かな?」

へー。想像がつかない表現にうまい返しができない花。


「そのバンドが来日して日本で初ツアーするって聞いて当時のファンとSNSで繋がって、久々に再会して観光案内がてら観に行ってたんだ」当然グリーンの服でねと言ったさやかは少し恥ずかしそうなそぶりも見せたが、それまで知らなかった新たな一面を見れて花は嬉しそうにほほ笑んだ。


「その時の写真ないの?見たい」

さやかはスマホを取り出し、巨大なオブジェのような東京国際フォーラムの前で写真に納まる緑の軍団を見せた。後ろにいる人たちも全体的に緑色なので一瞬見失ったが、中央でさやかはミントグリーンのキャップとパーカーとスニーカー、パンツだけブルージーンズを履いてピースしていた。


「なんでジーンズ?っていうか、みんな女子なんだね」花が言うと

「めったにグリーンのパンツって着ないじゃない、だから買わなかったの」

「それでも十分目立つ集団だけどね」花は笑った。

そのライブの前にお店に寄ったのよねと絹が言うとさやかは

「丁度絹さんいる時間かなと思って。あの時の絹さん、目を見開いてたよね」

「だって普段のさやかちゃんと別人すぎて」花につられ絹も笑った。


バンドの写真を見たいとせがむ花に、さやかが公式SNSのトップページを見せると

「予想外、女性バンドなんだ。かわいいね」

でしょ、そういって学生のように花の横でスマホの画像を次々と見せているさやか。その様子は女子特有の距離感で肩を寄せ合い楽しそうだった。

絹も見せてといって近づき、三人で開店前のひと時を楽しく過ごした。

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