第7話 続・王都の夜

 剣の交わる音が聞こえた現場に到着したヒーロは、屋根の上からその様子を伺ってみた。


 その眼下に広がる光景は、路地裏の一角に少数の一団が、あからさまに怪しい黒装束の集団に、まんまと追い詰められた、という風にヒーロには見えた。


 追い詰められてる方は三人で、全員フード付きのマントで身を覆っている。


 そのうちの二人が一人を守るように剣を抜き、黒装束の一団に抵抗していた。


 黒装束の一団は、十五人ほどだ。


 囲むように、じりじりと三人を追い詰めている。


 ヒーロにしてみれば、人助けに持って来いの展開に見えた。


 あとは、手加減する事を意識して戦えればいい。


 ヒーロは手作りの被っている仮面を一度触って存在を確認すると、両者の間に飛び降りた。


「な! なんだ貴様は!?」


 黒装束の側から声が上がる。


「味方か!?」


 追い詰められた三人は、敵が驚いている事からある程度察して期待の声が上がる。


「助けにきました!」


 人助けは二度目なのでまだ、気の利いた事が言えないヒーロであった。


 追い詰められていた三人組の中で、剣を抜いて応戦していた二人のうち、片方のフードから覗くその顔はかなり凛々しく綺麗な女性だった。


 その女性が、


「助太刀、感謝するわ」


 と、助っ人を喜ぶでもなく冷静に応じた。


 まだ、人数的に明らかに不利だったから、当然の反応である。


 しかし、そこに、守られていたフードを目深に被った男性(近くで目にして男性とわかった)が、


「よし、お主に任せた! エリン、カイル、逃げるぞ!」


 と、敵と思われる黒装束の刺客、十五人もの相手をヒーロに丸投げして男性は逃げ出した。


 それにはさすがに沈着冷静な人物と思われたエリンと呼ばれた女性も明らかに動揺していたが、護る対象が偉い人物なのか、渋々従って後を追う。


 カイルと呼ばれた男性は、当然とばかりにそれに従って逃げていく。


 え? 普通、一緒に戦ったりして友情とか恩義とか芽生える場面じゃないの!?


 思わぬ展開にヒーロは動揺した。


「貴様! あの男がどのような奴かわかっていて身代わりになったのか!? こいつをさっさと片付けて、奴らを追うぞ!」


 黒装束の一団はヒーロに斬りかかった。


 黒装束の一団は決して弱くはなかった、いや、多分精鋭と呼べるような集団のはずだ。


 連携もさることながら、その一振り一振りがとても洗練されていて鋭く、日々の鍛錬によって磨かれた太刀筋であったからである。


 これにはその辺の腕利きでも命を狙われたら、あっという間にお陀仏だっただろう。


 が、しかし。


 相手が悪かった……。


 悪すぎた。


 人類の敵である魔王を圧倒的な力で倒した夜のヒーロに、一団は触れる事さえ出来ず、一人また一人と、気絶させられていく。


「こいつ……! 桁違いに強いぞ! 仮面は変だけど!」


「くそっ! 変な仮面のくせに!」


「お粗末な仮面なのに、強いとは……!」


 黒装束の一団は、散々ヒーロの仮面を中傷した。


 初めて作った割には上出来だと思っていたのに!


 この日の為に一生懸命作った仮面をディスられて、内心でヒーロは大きなダメージを受けていた。


 その後も、黒装束の一団はあの手この手でヒーロに襲いかかったが、躱される度に一人また一人と倒されていき、残りが五人にまで減らされていく。


「なんて事だ……! 折角、必死に仲間がかき集めた情報から絶好のチャンスが舞い降りてきたというのに……。こんな悪ふざけとしか思えない仮面の男に邪魔され、全滅しかけているとは……」


「もう、この国はお終いだ……。こんなダサい仮面の奴にこの国の明るい未来を阻止されるとは……」


「あの悪の権化のような第一王子に助太刀する様なクズがいるとは!」


 ヒーロはとことん悪く言われた。


 かなり貶されたと言っていいだろう。


 傷つくヒーロであったが、その中傷の中に、不穏な言葉を聞いて反応した。


「え? あの逃げた人……、もしかしてこの国の王子だったんですか……?」


 ヒーロが知るこのルワン王国の第一王子は国王である父親に似て、いや、それ以上に最悪な評判の人物だった。


 怠惰で、冷酷、傲慢で虚栄心が強く、人望があった勇者一行の死を喜んでいた人物の一人だ。


 ヒーロが王宮にいた時も、この王子の悪い噂は沢山聞いていた。


 そう言えば、あの顔、見た事がある気がする。


「ああ、そうだ! 奴がお忍びで夜遊びに出たこのタイミングで暗殺出来ていれば、聡明な事で知られている第二王子が王太子になって、この国の未来も明るかったのに! それを貴様が台無しにしたんだよ!」


 ガーン!


 ヒーロは大事な人助けがとんでもない失敗になった事にやっと気づいたのであった。


「……なんだかすみません……。展開的にテンプレな人助けだと思ってたので……」


 ヒーロはすっかり、凹んでしまった。


「テンプレが何か知らんが、お前のせいで散々だよ! 仲間をどうしてくれるんだ!」


「あ、それは、すぐに回復します!」


 ヒーロは慌てて答えると、気絶してる黒装束の一団を『領域治癒』魔法で治療する。


 ヒーロに倒された黒装束の者達は、あっという間に回復して意識を取り戻した。


「本当にすみませんでした! もう、邪魔しないので後はみなさんで頑張って下さい!」


 居たたまれなくなったヒーロはそう言うと、その場から大ジャンプして屋根に着地すると、飛ぶように走ってその場から逃げ去るのであった。

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