第3話義妹と始まる少しの同居生活

休日と言えば面倒なことが起きる。

僕の人生に限りそうなる場合が多いということ。

幼い頃、買い物に向かった両親がいない間に飼っていた犬のお産が始まったのも休日のことだった。

大好きだった祖父母が亡くなったのも休日のこと。

休日とは、まさしく何かが起きるイベント日。

それが僕にとってプラスな出来事だろうとマイナスな出来事であろうと高確率で起きる。

そこで僕はしばらく連絡のない義妹のことを思い出す。

僕の両親は再婚で僕と妹は血の繋がりのない兄妹だ。

物語の中の義理の妹は兄を好いているパターンが多く存在するが、うちはどうやらその類ではないらしい。

らしいと断定的なことを言えないのは歯がゆい限りだが…。

だってそうだろ?

「お前僕のこと好き?」

なんて奇天烈な質問を繰り出したら、

「キモ」

と心を抉る最悪な言葉を投げかけられて試合終了だ。

だから、らしいと憶測で物を言うことを許して欲しい。

そんな兄を別段好いていない義理の妹のことを思い出していた。

そう。

そんな時に限って便りはあるというものだ。

マンションのチャイムが鳴るとモニターを確認して絶句する。

そこには件の義妹がいるわけで…。

「どうした?」

「この荷物見れば分かるでしょ?しばらく泊めて」

「なんで僕が…」

「荷物重たいんですけど?早く開けて」

軽く嘆息するとモニターを切ってオートロックを解錠した。

しばらくすると部屋のチャイムが鳴り玄関に向かう。

「ありがと。世話になりま〜す」

軽い調子で室内に入ってくる義妹は何事もなく荷物を玄関に置いてリビングに向かう。

「家出してから何も食べてないんだよね…」

須藤硯すどうすずり22歳。

僕が高校生の時に両親の再婚で出来た義理の妹。

多感な年頃の子供が居る二人が再婚に踏み出したのも今考えてみれば、お互いに対するその愛の深さが故だろう。

無償の愛を相手に向けていた。

だから二人は一緒になったのだ。

当時は僕の事情も考えて欲しいと思ったものだ。

だがこの義妹が騒がしく人懐こいので、そんな思考もいつの間にか何処かに飛んでいった。

「いつから家出してるんだ?二人には連絡したのか?」

一応、義理ではあるが兄なのでそんな心配するような言葉を口にすると硯はチッと軽く舌打ちする。

「家出したのは今日。パパ、ママには何も連絡してない」

ちなみにだが僕は父の連れ子で硯は継母の連れ子だ。

僕の本当の母親は中学生の頃に亡くなってしまった。

確かあの日も休日だった…。

閑話休題。

「じゃあ連絡するけど良いな?」

僕の言葉に硯は心底嫌そうな表情を浮かべる。

仕方がないので硯の対面のソファに腰掛けると膝を突き合わせて話を始めた。

「家出って何が原因だ?今までそんな事なかったろ?」

話を始めても硯はそっぽを向いて答えようとはしなかった。

「じゃあ母さんから聞くよ。どっちかと喧嘩したんだろ?」

それでも答えを返してくれない硯に嘆息するとスマホを手にして操作を始める。

その様子を目の端で捉えていたであろう硯は観念したように口を開く。

「ママと喧嘩した…」

「どうして?珍しいじゃん。家出するまでの喧嘩って何?」

深くまで事情を知ろうとするとまた硯は口を噤んだ。

「何だよ。歯切れ悪いな。いつもみたいに遠慮なく言ってみろよ」

膝を突き合わせて話をするのがいけないのかと思うとそのままキッチンに向かう。

冷蔵庫を開くとペットボトルのお茶を二本持って、ついでに出前のチラシを複数手にすると元いた場所に戻る。

テーブルの上にそれらを置くと片方のペットボトルだけ持ってベランダに向かう。

少しだけ時間を空けるのも話をするのには重要なファクターではある。

ベランダの椅子に腰掛けるとポケットからタバコを取り出した。

それに火をつけて室内の様子を確認するのだが硯はチラシに目を向けていて軽く嘆息する。

休日のよく晴れた昼下がり。

出前を先に注文したほうが良いかもしれない。

話し出すのにも出前が到着するのにも時間がかかるだろう。

食事をした後に何気なしにまた話を振ってみようと決めるとタバコの火を消して室内に戻っていった。

「ピザが良い!」

硯は元気よく口を開くとすでにスマホを片手に持っていた。

僕は頷いて応えると財布を確認して一万円札をテーブルの上に置いた。

注文を終えたと思われる硯はスマホをテーブルの上に置くと何気なしに口を開く。

「会社から近い直樹の家で一緒に住むって言ったらママに怒られた」

その言葉を耳にしてなんとなく母親の言いたいことが理解できた気になっていた僕は呆れたように口を開く。

「そりゃそうだろ。血の繋がりのない兄妹がふたりきりでひとつ屋根の下って…僕が親でも嫌がると思うな」

僕の憶測を耳にした硯は本気で意味の分からなさそうな表情を浮かべた。

「ん?変なこと言った?」

「その自覚がないのがヤバいんじゃない?」

硯の呆れたような一言を耳にして僕の表情は少し歪む。

「何処が…」

「ママが怒ったのは、いつまでもお兄ちゃんに甘えるなってことだったんだけど…。直樹の想像力って時々変な方向に行くよね…」

それを耳にした僕は表情が更に歪むとわざとらしく咳払いをして対面のソファに腰掛けた。

「私のことそんな目で見てたの?」

硯はからかうように口を開くので手で払うような仕草を取るとスマホを操作する。

母親にメッセージアプリで硯が無事に家に来たことを伝えておく。

「ごめんね?しばらくしたら迎えに行くから少しの間、面倒見てもらっても良い?」

それに了承の返事をするとそのまま昼食のピザが来るまでお互いの近況を話して過ごすのであった。

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