中学時代の元彼女が「結局あなたが良い」と復縁を迫ってくるが、あの頃の二人には戻れない複雑な事情

ALC

第1話始まりは元恋人からの通知

中学生の頃、三年間付き合っていた彼女が居た。

今思い返せば一番長く付き合った恋人だった。

現在は成人して数年が経ち25歳となっている。

周りは結婚しだしたり子供が出来たりと家庭を持ち始めている。

そんな中、僕は未だに独身で恋人の一人も居ない。

出来ないわけではないとか、せめてもの強がりは言わせて欲しい。

一人は寂しいけれど楽ではある。

恋人がいる時の自分をそんなに好きになれない。

無力で我儘で自分本意な僕を思い知らされるからだ。

誰かを本気で愛せた記憶がない。

物語の中の登場人物のように身を挺して誰かを愛する。

そんなキレイな純愛をしたことがない。

いつも相手の善意で何かをしてもらうか、こちらの打算的な感情で何かをしてあげるかの二択でしかない。

無償の愛を相手に向けたことは一度もないのだ。

だから僕は恋人がいる時の自分がそんなに好きになれない。

なぜそのようなことを思い返しているかと言えば…。


現在、目の前には中学の頃の元恋人が居るからだ。

先日、突然スマホに通知が届き、久しぶりに二人で食事に行くことになったのだ。

「直は変わってないね」

須藤直樹。

それが僕の名前。

目の前の元恋人は朔野さくのさくら。

中学の頃のあだ名はさくさくだった。

安易なあだ名で親しみやすい彼女は学校中の生徒に好かれていた。

彼女は僕のことを変わらず直と呼ぶ。

困ったものにあの頃の感情が蘇りそうだった。

「あぁ…。さくらも変わらないね」

恋人だった彼女のことを僕は名前で呼んでいた。

他の人と同じようにあだ名で呼ぶことはなかった。

他人と差別化を図るために名前で呼んでいたのだろう。

なんとも幼稚な中学生らしい感情からくる行動と言えよう。

「仕事は?大変なの?」

25歳の僕らはあの頃とは違い、片手にアルコールを持って目の前の網の上で肉を焼いていく。

グビリとジョッキの中身を飲み込むとトングで肉を裏返していった。

「まぁ。普通じゃないかな」

焼き上がった肉を彼女の皿に置くと再び肉を焼いていく。

「ありがとう。優しい所も変わらないね」

そんな言葉をサラリと受け流すと何事もないように会話を続けた。

「それで。今日は何か用があったの?」

僕の言葉を耳にした彼女が小首をかしげて軽く肩を竦めた。

「そういうわけじゃないんだけどね…」

何度か頷いて応えると続きの言葉を待った。

「でも…」

彼女は言い難いことがあるようで少しだけ口を噤んだ後にパッと力を入れてその言葉を口にした。

「別れてから十年近くが経つけど…。色々考えた結果やっぱり直が良いなって思って…」

その復縁の言葉に僕は正直困ってしまう。

僕は恋人がいる時の自分を好きになれない。

復縁を迫られても僕はそれを了承する気にはなれない。

だから僕は苦笑の表情を浮かべるだけでそれ以上何も言えないのであった。


そのまま気まずい雰囲気の中、食事は続いていき最終的には会計を済ませて店の外に出る。

「私から誘ったのに奢ってくれてありがとね」

それに頷いて応えると僕らは帰路に着く。

「さっき言ったこと考えておいて」

それにも頷くと今度こそ僕らは別々の帰路に着くのであった。


これから恋愛に臆病になっている僕の身に起きる怒涛の色恋話が始まろうとしていた。

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