第4話 魔王、戦慄する


 あの一件から約一か月。


 とんでも無い奴を人質にしてしまった俺は、王女に変わる人物を探しては居たのだが。


「ぜんっぜん見つからねぇ………」


 まぁ、それもそうだよな、王女が適材過ぎるんだ。国王のように誘拐しても人間側の指揮系統は乱れず、かといって妾との子である第二王女を攫ったところで大した話題性を生まない。


 そして、王子もたしか妾との子で、あの国の第一継承権はあのやばい奴セイリンが持ってるんだよなぁ。


「はーあ。どうしたものか」


 いつも通り誰も居ない大広間の玉座にぐったりと体を預け、無機質な天井を見る。


 天井の切れ目がひとーつ。ふたーつ。みーっつ。よーっつ。どーっん。むーっつ。


 ……どーっん?


 音のなった方を見る。ちょうど大広間の入り口だ。


 そこにはこの魔王城を守る魔族の衛兵の姿。種族はオーク。


 豚を擬人化してごつくしたようなフォルムだ。特注の銀のプレートを着て、腰には帯剣していた。


 たしか名前は……デボルスとかだったような気がする。


「まっ、魔王ボルグロス・イェレゼンザート様っ!! 突然の謁見申し訳ありません! 突然ですが、僭越ながらこの私、デボルスめが状況を伝達させていただきます!」

「あぁ」

「はっ、ありがとうございます! 今現在、魔王城第一門を途轍もないスピードで何者かが破りましたっ! そして、今現在も進行を進めており、ものの数分でこの魔王城に侵入してくると思われますっ!!」


 魔族の領土には数少ない『死地』ではない土地を広範囲にわたって囲っているいくつもの壁がある。


 そして、1番外側の壁の門が第一門。


 その第一門は確か魔族の仲でも高位に位置する奴らに守らせていたはずだが。


「親衛隊はどうした。まさか油断して仕事をしていなかったとかではないよな?」

「もっ、もちろんでございます! 第一門を守っていた親衛隊は、も、漏れなくっ、ぜっ全滅いたしましたっ!!」

「……は? 何を言っている? 冗談はよせ」


 第一門から内側の土地は言うまでもなく大切なものだ。だから、俺が魔王に就任したとき、確かに数千もの魔族を配置した。

 

 それも戦闘向きの、だ。


「もっ、申し訳ありませんっ、ですが、壊滅状態に陥ったのは確かなのですっ!」


 デボルスは豚のような鼻を地面に押し付けんとばかりに姿勢を低くし、床と睨めっこしている。その髪の生えていない頭皮には汗がだらだらと流れ続けている。


 悪魔の力を使って真偽を確かめるほどでもない。


 だが、勇者にしてはさすがに早すぎる。勇者は人類がピンチに陥った時にしか現れないはずだ。


 代々の勇者がそうであったように。


 だが、王女があれだったんだ。もしかしたら俺の代はイレギュラーが多いのかもしれない。


「それなら俺が直接出向こう。おそらく勇者だ」

「はっ、私たちの力不足のせいでっ、申し訳——」


「その必要はないですわよーーーーーーっ!!!!!!!!!」


 大広間扉から繋がっている廊下。デボルスが通ってきた道であり、この大広間に繋がる唯一の道。


 その廊下に甲高く響く『女性』の声。


 今代の勇者は女か。ことごとくイレギュラーだ。


 俺はわざわざあちらから出向いてくれたことに感謝し、都合がいいので玉座に座りっぱなしで勇者を待つことにした。


 デボルスは腰に下げていた剣を抜き、声の元へかけて行って見えなくなった。


 だが、一瞬で「ぐぎっ」となんとも哀れな声を漏らし、重そうな体躯をバウンドさせて、大魔石の床に倒れこんんだ。


 意識は無いが、出血も無い。きっと気絶しているだけだろう。


 すこししてコツン、コツン、と廊下から硬い音が鳴る。そして、遂に勇者はその姿を現した。


「ようこそ勇者よ。よくぞここまで――って、おっ、おっ、えっ、おまっ、えぇっ!?!?!?」

「わったっくっしっでっすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 そこに立っていたのは、まぎれもない金髪縦ロールで綺麗な顔立ちの王女、セイリンだった。


 ただし、か細い体躯とほぼ同じくらいの大きさの大剣を豪快に肩に担いでいたが。

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