毎月300字小説企画参加作品(2023年~)

虚影庵

おやすみなさい(第14回 お題「忘れる」)

 とんでもない数の被害者から金品を巻き上げているにもかかわらず、誰からも被害報告されていないと噂の実業家がいる。

 噂の真偽を確かめるため、潜入捜査官が件の人物に接触を試みた。長い時間がかかったが、ついに当人の自宅で二人きりで会えることになった。

 当人の手料理を振る舞われ、舌鼓を打つ。デザートと共に出されたコーヒーを口に含む。瞬間、視界がぐらりと傾いだ。

 「なにを…」

 「お疲れさま。あなたが私を探っていることは承知していた。だから一服盛らせてもらったよ――レテ川の水を。

 おやすみ。目を開けた時にはすべて忘れているよ」

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