雨と星屑

 雨に濡れた森の中は雨音と遠くを走る車の音が聞こえるだけで生き物の気配は遠い。今日のフロウライト・シティは一日雨の予報。本当なら家の中で薬を作ったり魔法道具の手入れをしていたい。あわよくばあったかい布団で寝たい。でもそれを我慢してでも森に来なければいけない理由があった。

「溟ーそっちどう?」

「結構落ちてた。珀はー?」

「沢山。もうそろそろ一瓶分満杯になる」

「もっとびん持ってくればよかったねー」

 少し遠くにいる溟へ声をかけつつ傘とは反対の手に持っている壜へ目を移す。カネット壜の中は黄色やら靑色やら色んな色をした星屑で満たされている。今日わざわざ雨の降る憂鬱な森へ足を運んだのは、この星屑を採集する為だった。星屑は水蒸気と共に空に上がった魔力が結晶化し、雨と一緒に地上へ降り注いだものだ。何時でも降る訳じゃない。天気予報で星屑の文字が出ても空振りで終わる時だってある。今日みたいに壜いっぱいに採集できるのは滅多にない。

 星屑の用途は様々。僕が作る魔法薬の元になったり、お菓子やコーヒーに砂糖代わりとして入れてみたり、そのまま食べたり。溟は良く小さな壜に詰めて通販で売っている。入荷情報を流すと飛ぶように売れて面白いらしい。繁盛しているようでなにより。そんな事を考えていたら溟が此方に歩み寄って来た。雨で彩度の下がった森に溟の差す黄色い傘が眩しい。

「壜いっぱいになっちゃった」

「こっちもだよ。もう少し採りたいね」

「もうポケットに詰める」

「それだ」

 二人で地面にしゃがみ込んで星屑をポケットへ詰めていく。僕も溟もポケットにめいっぱい星屑を詰め込んで、幸せな重みを感じつつ帰路についた。

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