第22話 まざこん


 その姿を初めて見たのは、まだクラスがお互い別々だった、高校一年生の時。

 移動教室のために廊下を歩いていて、向こうから一人で歩いてくる夜野ちゃんの姿を見て、わたしは思わずその場で固まってしまった。


 隣を歩いていた友人が急に立ち止まったわたしを訝しげな目で見ているのがわかっても、身体は動かなかった。そのまま彼女がわたしの横を通りすぎてしまっても、振り向くこともできない。その様子はまるで思いがけず天敵にでも出会ってしまった小動物のような、蛇に睨まれた蛙のような……いや別に睨まれたわけではないし敵ってわけでもないんだけど。


「……」


 姉に言われるまでもなく、夜野ちゃんが母親に似ていることはわかっている。ただでさえもうほとんどその顔も見ない母親のその若い頃の姿なんてよく知らないけど、それでも似ていることは間違いない。

 目の下の涙袋の感じとか。

 すっと通った鼻の感じとか。

 色素の薄い唇の感じとか。

 全体的にちょっと冷めた感じの雰囲気とか。

 いちいち思い出してしまうのだ。


 でも一応彼女の名誉のために言っておくと、見た目は似ていてもその中身はずいぶん違う。

 わたしの母親なら、わたしのためにエプロンを着て料理をしてくれたりはしないし、わたしのために荷物を持ってくれたりもしないし、わたしの前であんな風に泣いたりしない。

 

 違うけど、同じ――だからわたしは困ってしまう。


 彼女はただの同級生で、わたしの母とはなんの関係もない存在なんだよ、といくら自分に言い聞かせても、似ているものは似ているんだ。思い出してしまうじゃないか。 


「……」


 でもこの事は夜野ちゃんには言えない。

 そりゃそうだ。

 直感だ、なんて言って、実のところただのだなんてことがもしバレてしまったら、きっと幻滅されてしまうだろうから。






 

 


 

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