異人種間紛争

第15話 叶える覚悟

『ジ・ネクスト』による宣戦布告とも取れる声明から季節がまた1つ区切りをつけた。


世界はエマの思惑とは全く異なる方向へと舵を切っていた。あの声明以降一段と増える『キメラ』が被害にあう事件と『キメラ』による暴動とテロ行為。静かな動向で見守っていた国も徐々にではあるが介入する機会が増えてきた。


エマは変わらずミューヘン大学の教授として連邦警察の対『キメラ』専門のオブザーバーとして自分の願う世界を実現する為に行動していた。もっとも状況が状況な為に前者はもはや肩書である。


「しかし、驚きですダンスフォード教授。教授の予測は大抵当たる。お陰で急増する『キメラ』関連の事件も件数の割に被害は想定よりもだいぶ少ない」


途切れる事の無い事件の合間に対策会議が開かれエマも出席する。


「そうですね。長年の研究で『ジ·ネクスト』の行動予測はしやすくなってますので」 


「というと?」


「彼等は自分達に害のある人間しか基本襲いません。なので『キメラ』に対して否定的な人物をリストアップし、彼等の行動スケジュールを把握。『ジ·ネクスト』の予測される規模からして大規模な行動は出来ないので対象者が1人になる時間に警備を増員すれば今現在は対処可能です。それに彼等は自分達の存在や主張をこちらが誠意を持って答え認めれば、余程の事がない限り対話で解決出来る事も最近ではわかってきています。」


「度々、事件の報告書に上がるが、正直信じられない。過激な活動をすると思ったら、対話に応じたり、かと思えばシェイド氏の件のように不自然な行動を起こしたりもする」


「不自然ですか?」


「彼は『チャツウェルウイルス』ワクチンの開発の第一人者だった男だぞ?殺すにしても宣言する必要は無いし、仮に『キメラ』用ウイルスを作っていたとしても、活かしてなんらかの方法で手駒として拘束しワクチン開発させた方が彼等の為にもなったんじゃないのか?」


「あの声明にあった。『フル・ブラット』との関係………やはりそこが関係あるのでしょうか?」


「純血主義を唱える宗教団体『フル・ブラット』。あれはあれでなかなかの過激派組織だ。あの声明の言いようだと『キメラ』は昔から『フル・ブラット』の標的となっていたみたいだが、そもそもあの声明主は何をまだ隠している?『キメラ』の誕生と『フル・ブラット』がどう関わってくると言うんだ?」


「『チャツウェルウイルス』が『キメラウイルス』って言うのと関係があるのですかね?」


「どうお考えですか?ダンスフォード教授」


「…………。」


「ダンスフォード教授?」


「すみません。考え事してました。」


「考え事?」


「あの声明主は何故。ハッキリと真相を言わなかったのか?真相を知るのに選択肢を我々に与えたのか………という点です。」


「確かに。彼処で全てを話しきっても良かったはずですな」


「【その真実を知った時。皆さんの日常は壊れてしまうからだ】でしたっけ?。勿体振らずに言っておけばいいものを。どんな事でも知ればその時の自分とは違う自分になるのだから」


(…………真相を知る覚悟の無い人達に『キメラ』の誕生経緯は重荷…………。そういうことなの?)


「まぁ、何はともあれダンスフォード教授。また情報提供お願いします。貴女の知る情報が多くの人々を救う。」


「そうですね。進捗があればすぐに」


「では今会議はこれで終了とする。次回の日程は追って連絡する。」


解散する会議のメンバー。エマは連邦警察署内のとある部屋に向かった。


エレベーターに身分証をかざす。B2から5Fのボタンの下に新たにB3が点灯する。そのボタンをエマはなにくわね顔で押すした。


そう。それは限られた人間しか知らない存在しない階層、そしてエマが向かう先の存在を知る人間に限るとほんの一握りである。


目的地の扉を開ける。エマを確認し敬礼する6人。


「お疲れ様です。司令」


筋肉質で屈強な男性がエマに話しかける。


「私は民間人です。司令はお辞めください。『ウォーロック』隊長。」


「確かに貴女は民間人です。だが我々にとっては『ドイツ連邦警察対キメラ対策室』通称『ゼルドナー』の作戦指揮官………この組織のトップです。慣れてください」


「…………対応が必要な所はありますか?」


溜息混じりにエマは状況の確認をする。


「はい。こちらを御覧ください。」


『ウォーロック』と呼ばれた屈強な男はエマにある資料を手渡す。


「『フランクリン·ピウス』………バチカン市国にも顔が聞くと噂の有名なカトリック教徒ね。狙われているの?」


「はい。ここ一週間『キメラ』の疑いのある人物が続々と彼の所在地であるブレシアに移動して来ています。」


「イタリアでの反『キメラ』運動の先導者とも言われているものね。」


「カトリック教会より警護要請も来ています」


「…………彼等も危機を察知してるね」


「どのような経緯でこの組織の実態を知ったかはわかりませんが。どうされますか?」


「隊長。イタリアへの出国手配を」


「了解。」


エマは己の願いを叶える為。力を持つ決断をしていた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る