【幕間】いるけどいないもの

 時折所長の口から「魔法使い」という単語が出る。不思議なものが多い研究所内だが、それほどまでに幻想に傾ききった言葉は珍しい。肩書か何かだろうかと問いかけたら「本物の魔法使いだ」といつもの無表情で返された。科学が発展したこの世界に魔法使いがいるとは。興味深く思い取材してみたいなと言えば少し考えた後無理だろうなと首を横に振られた。


それはそうだろう。

神秘というのは秘匿されるもの。


 私如きに言いふらしてものではないのだろう。軽はずみな事を言ったと謝罪すれば所長は微かに表情を変えて私から視線を逸らす。すぐに戻された視線には、何故か悲しみの色があった。悲しみの理由そのものはわからなかったが、次に所長の発した言葉で大体予想がついたのでそれ以上何も聞かず、話題を変えた。


「恐らく、お前の目には映らない」


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