第3話


 最初は信じられなくて、場を盛り上げるための冗談かと思っていた。彼の嗜好を理解していくにつれ、彼の印象はかわいい男の子から変なやつに代わった。

 それが好きな男性になった瞬間は、よく覚えていない。

 とにかく榎本は普通と少し違っていて、私が恋をするには最悪の相手だった。


『宮川さん、性格はいいっすよね』


 仲良くなって来た頃に言われた言葉。

 一瞬聞き流してしまい、ワンテンポ遅れて私は彼に向って首を傾げる。


『あ、ははっ。なに言ってるの、榎本くん』

『あ、いや、宮川さん顔はイマイチじゃないですか、性格いいのにもったいないと思って。もう少し太ったらどうですか? あと三十キロくらい。そしたら美人になれますよ』


 彼の言葉が全く理解できなかった。

 万人が美人と言う私の顔をイマイチ?

 いやそれよりも、三十キロ?

 七十越えますけど? 太り過ぎってか、どーんと肥満ですけど?


『あ、四十キロでもいいですよ。そしたら百キロくらいですかね?』


 なんだこいつ、女性をなんだと思ってんの?

 そんな会話を何度か交わしたら嫌でもわかるだろう、私は榎本のタイプじゃない。

 可愛い顔に生まれた自分をうら……むことはない。怨むべきは榎本の嗜好。

 いや、結局のところそれも違う。

 世の中星の数ほど人がいるんだから、無限の嗜好があるのは当たり前、だからみんな丁度よく結婚出来るのだ。

 恨まなきゃいけないのは、榎本を好きになった自分。

 この恋心。

 そして次に怨むべきは、榎本と私がいつも一緒のシフトだということ。私は三年だから暇だとして、榎本はなぜこの時間なのだろう。

 一緒のシフトがいい、とか思ってくれてたら嬉しいな。

 いやいや、絶対にない。

 一緒にいまいからって店長に嘘までつくのなんてきっと、私だけ。

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