第7話 倒れる少女

「わ~~~! この娘ですね! 冒険者の少女って! うわ~~~! すっごーい! かわい~~!! ほんとに皮鎧着てるう~! アニメ顔~~!!」



 応援に来た駅前交番の女性警察官、緒方巡査は着くなり年相応の女の子の口調で興奮したように叫び始めた。


「あ、あの……緒方巡査?」


「あっ! 失礼しました! えっと、やっぱりこの娘は異世界からの転移者ですか?」


 な、、なんだと……!?


 オレが粘り強い職務質問の末、ようやくたどり着いた仮説に一瞬でたどり着くだと!

 

 オレが怪訝な表情をしていると、緒方巡査が


「あ、武藤巡査長はニュース見ました? いま世界中で起きている出来事について知ってます?」


 知らない。オレはテレビはあまり見ないのだ。警察官としてそれはどうなんだとよく言われるのだが、だってテレビのあのしらじらしい作られた虚構が嫌いなのだ。見ているだけでイライラしてくる。


 それはともかく、緒方巡査から聞いた話によると、今日の早朝から、日本のみならず世界中で、突然に地下迷宮が発生するという事態が発生しているらしい。

 そのせいで、県警本部やら大規模警察署は対応と確認に追われ、てんやわんやだそうだ。


「あと、うちの管内でも不可思議な事案が発生しています。」


 丸舘署管内で発生した事案。昨夜、仕事帰りのサラリーマンが、軽トラに乗って自宅に帰る途中で軽トラごと消息を絶ったのだとか。

 

 刑事課長が忙しそうにしていたのはこれらの件か。

 

 なお、幸いいまのところ丸舘署管内で迷宮が発生したという通報はないらしい。


「ネットの掲示板では、地下迷宮は『異世界からの侵略か?』とか『魔王の大量発生か?』とか『宇宙人からの警鐘では?』なんて言ってますけど、いまだ魔物やら怪物やら妖怪やらによる人類への侵略も、UFOも確認されてません。ですが、『異世界』というキーワードを当てはめると、地下迷宮も、神隠しのような当署管内での失踪事件もそれなりに符牒が合うと思いませんか?」


「で、そんなときにこの冒険者少女か」


「はい! ぜったいこれは、異世界が絡んでいると思うんです! ラノベやアニメではよくある展開です!」


 

 ああ、この人緒方巡査はラノベとか読んでいるのか。たしかに、眼鏡かけて陰キャっぽいところもゲフンゲフン。


 まあ、異世界云々は推測にすぎない。とりあえず、彼女を駐在所に任同任意同行しよう。


「すみません、いつまでもここではなんですので、向こうの建物の方に場所を移してもうちょっと詳しいお話をお聞かせ願いたいのですが、よろしいでしょうか?」


「あ……はい。わたしが……異世界に……。セヴル兄、ランス姉……」


 この少女が異世界転移してきたというのは本当なのだろうか。いかにも転移してきたことに衝撃を受けているような彼女を促し、軽トラから降ろす。

 緒方巡査が逃走防止も兼ね脇に付き添い、駐在所の入口に差し掛かった時だった。


「う"あ"う"っ!」

 

 突然、冒険者少女がくぐもった苦し気な声を上げて倒れ込んだのだ。

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