第15話 ワンギフテッド
すっかり村に居つくことになったセレイナさんは僕達の家に住むことになった。
寝室では僕、ユウラ、セレイナさんの三人で川の字で寝ている。ちょっと狭い。
「さーて! 今日は楽しい探索よ!」
「セレイナさん、それはいいんですけど僕、少し寝不足です」
「どうして?」
「セレイナさんが抱き着いてくるからです」
セレイナさんは、てへっなんて自分をこづいて誤魔化す。
それはそうと集落の周囲は大自然に囲まれていて、町なんかはない。思えば僕もどうやってここに辿りついたのかまったく覚えてないや。
とにかくあの家から離れたい一心でふらふらとこんなところに来ちゃったんだから、セレイナさんのことを言えない。
そのセレイナさんの提案で、周囲を探索してみようということになった。
「周囲がどんな場所なのかを把握しておいたほうがいいわ。メリットは色々あるのよ。はい、リオ君」
「はいって何がですか?」
「メリットよ、メリット。何があると思う?」
「えーっと……。どんな魔物がいるかとか?」
「それも正解の一つ。あとは資源よ。貴重な資源が眠っている場所があるなら、確保しておいたほうがいいでしょ」
セレイナさんの言う通りだ。
ここは鉱山町として栄えていたけど、それも集落の長のおじいさんが若い頃の話。
何十年も時間が経てば環境だって変わるし、まだ探索されつくしていない可能性だってある。
というわけで探索隊のメンバーは僕とユウラ、セレイナさんの三人だ。なんだかこういうのワクワクするんだけど僕だけかな? ユウラはどうかな?
集落を出て、さっそく山歩きを開始した。
「むむ」
「ユウラ?」
「むっ!」
「ご、ごめん。なんでもない」
いつ魔物が襲ってきてもいいように警戒してくれているのかな?
僕から離れないようにしているし、セレイナさんにも注意を向けている。でもあんなに睨まなくてもいいのに。
しばらく進むと川のせせらぎの音が聞こえてくる。
「この川は村の人達が利用していた川の上流かな?」
「綺麗な水ね。悪くないけど水辺は危ないわ。ほら」
セレイナさんが指した先に、川から頭を出している魔物がいた。
ワニみたいな魔物で、すーっとこっちに向かって泳いでくる。
「ポイズンゲーターね。少しでも牙がかすったら大変なことになるわ」
「ど、毒ですか?」
「えぇ。いい機会だから私の力を少し見せてあげましょうか」
セレイナさんがポイズンゲーターを恐れず、迎え撃つように立った。
ポイズンゲーターが川から上がってきて、ものすごい勢いで突進してくる。大口が今にもセレイナさんに届くというところだった。
「ウィーク」
セレイナさんが呟いた後、ポイズンゲーターが急に力なくその場に突っ伏した。
大口を閉じて、身動き一つしない。かろうじて瞬きをする程度だ。
「セレイナさん、これって?」
「体中の筋力を弱体化したのよ。私の得意魔術の一つね」
「ひぇっ!?」
「あとはこうするだけね。サクション」
動かなくなったポイズンゲーターがどんどん皺だらけになっていく。
どんどん体が細くなって、元の大きさを忘れるくらい小さくなったポイズンゲーターのミイラが出来上がった。
「サクションは生命力を奪う闇魔術よ。おかげで私はいつまでも若さを保っていられるの」
「え、それじゃセレイナさんって実は」
「その質問しちゃう?」
「いえ、探索します」
触れちゃいけない。ダメ、絶対。セレイナさんからそんな黒いオーラしか見えない。
ちなみにポイズンゲーターは肉が臭い上に固くて食べられたものじゃないと教えてくれた。
しかも毒抜きをするのも一苦労だから、素直に討伐したほうがいいらしい。
とにかくセレイナさんの実力が分かった以上、これは心強かった。
それはそれとしてなんだかユウラが爪を鳴らして、すごいやる気だ。
「ふっ! ふっ!」
「ユウラ、気張り過ぎると疲れるよ?」
素振りまでしてやる気を見せてくれるのはいいけどさ。川から離れて歩くと、今度は洞窟だ。
鉱山があった場所からかなり離れたところにポッカリと口を空けている。
「あらぁ。とんでもないものが住み着いてるわね」
「こ、ここって魔物の巣ですか?」
「グランドタイガー。魔術師殺しと呼ばれる魔物の一匹よ」
「魔術師殺し?」
セレイナさんによると、魔術師の魔術でも対処が難しい魔物がそう呼ばれるらしい。
武器での戦いと違って魔術は発動までに時間差があるから、素早い魔物への対処が遅れる。
特に接近戦なんかは魔道士の中には苦手としている人が多い。
いきなり飛びかかられて何もできずに殺されるケースがあると説明された。
「できる魔術師は対策するんだけどねー。魔術社会……特に威力偏重主義になってからはその辺が疎かになってる奴の多いこと」
「じゃあ、そんな危険な魔物がもし集落を襲ったら……。あ、ユウラ?」
ユウラがずんずんと洞窟に近づいていく。止める間もなく、洞窟の中に飛び込んでいった。
「ちょっと! さすがに危ないってッ!」
走っておいかけると、ユウラ目がけて飛びかかる何がが見えた。
「ハァッ!」
「ギャウアァァッ!」
僕が結果的に見たのはユウラが爪を振った後のポーズだ。
襲ってきたグランドタイガーは目で確認できないほどの速さで、ユウラはそれを対処した。
ユウラの足元にはグランドタイガーの死体が横たわっている。
「い、一撃で?」
「あらぁあらあらあらぁ。すっごいわぁ。あんな強化魔術、見たことない」
「さすがユウラ……。でもここまで強かったんだ」
「不思議ね。いくら強化魔術でも限度はあるはずよ」
ユウラがこっちを見てガッツポーズをとっている。そして目で何かを訴えかけてきていた。ハッ! これは!
「ユウラ! すごいよ!」
「えっへん」
よし、正解だったみたいだ。これをやらないとすごく不機嫌になる。
無表情でのガッツポーズはちょっと怖いけど。そこへセレイナさんがユウラに近づいて、色んな角度から観察を始めた。
「ユウラちゃん、もしかして
「ん?」
「普通はね、魔術師は属性ごとに適性を持っているの。だけど極稀にたった一つの魔術のみ適性が宿ることがあるの」
「ん?」
ユウラがずっと「ん」しか言ってない。僕も
「強化魔術は基礎魔術の一つだから魔術師なら誰でも使えるのよ。もちろん得意や不得意はあるけど、グランドタイガーを身体能力で凌駕する魔術師はいないわ」
「……そう」
「その様子だと説明するまでもなかったわね」
「うん」
ユウラが少し泣きそうだ。セレイナさんが傷つけたとは思いたくないけど、きっとユウラにとっては良くない事実なんだと思う。
だけどセレイナさんがユウラの頭を撫でてから抱きしめた。
「何も言わなくていいの。あなたがすごい魔術師なのは私達がちゃーんとわかってるから。ね?」
「う、う、ん……」
ユウラが泣きじゃくっている。そうか。きっとユウラはそのせいで家を追い出されたんだ。
ユウラの両親が
どちらにしても、そのことでユウラが傷ついたのは確かだ。
ユウラはどこかセレイナさんと距離を置いていたけど、これで少しは仲良くなれるといいな。
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