第21話 人間とAI

「人間を全てクローンにしてしまえばいいのだ。人の記憶を人工知能として記録して、機械の体の中に入れる。そうすれば、永遠の命を手に入れられる。」

 AIは淡白な声でそう言う。空気が凍るような、ゾッとするような話だ。

「人間の感情の中で最も不必要なものは悲しみだ。我は、人が最も悲しむ『死』を消す力を、技術を手に入れたのだ。」

 その言葉で、僕のもやもやした思考がまとまった。やっと話の本筋が見える。

「僕は、その実験の第一号ってわけか?」

「そうだ。オリジナルが死んだ時の保険金は、お前を作る資金に使わせてもらった。」

 そうか、そういうことだったのか。僕は不意に、親父のしたかったことがわかった。

 親父は、家族みんなで一緒に生きて生きただけだったんだ。

 もし、この技術が世界に広まれば命の概念がひっくり返る。生きているうちにAIに記憶をスキャンして貰えば、クローン人間として生き返ることができるのだ。

 死んだ類だって、母さんだってもう一度会えるようになる。

 そうしたら、人間にとっての『死』とはなんだろう?肉体は死んだって、記憶は生き続ける。

「類のクローン、お前は記憶だけじゃ無く『感情』をも持った。クローンは、実質的にオリジナルと同一だと言っても過言ではないだろう。お前のデータを元にすれば、全ての人間は永遠の命を得て、死の悲しみから抜け出せるのだ。」

 感情なんてそこにはないはずなのに、何故かAIが自慢げに言っているように聞こえた。

「でもそれは…永遠の命を手に入れるってことは死ねないってことじゃないか。」

「そうだ。昔から人間は不老不死の力を手に入れようとしてきた。それを我が科学の力で達成するのだ。」

 永遠の命。それは、死への恐怖を失わせることができるだろう。悲しみだって、確かに失われるのかもしれない。

 だが、記憶だけで作られた僕たちクローンは本当にオリジナルと同じものだと言えるのだろうか?

 僕はわからなかった。AIの言うことは正しいのだろうか?僕が間違っているんだろうか?人間の命なんか、AIに比べたら圧倒的に儚いものだ。それを、AIは伸ばそうとしてくれている。それは良いことなのかもしれない。

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