第19話 コーヒー

「は…?」

 僕らのどちらのものともなく、そんな間抜けな声が漏れる。だって、類を殺したのは類のお父さんのはずで…。

 殺したとか、殺されたとか。そんな生臭い話をしているのに、この部屋はどうも人間のいる場所じゃないみたいで、気持ちが悪かった。

「全てのAIはネットワークで繋がっている。我も、自動運転機能のAIもまた我であるのだ。全て、我だ。」

 そんな中、AIは全部が自分だと指し示すんだ。この世界のどこにだって、AIはあった。どこでも、誰でも何をしているかわかるんだ。全てのAIの元々のプログラミングは全て同じものから始まった。それなら起源のAIは、全てを司る神と言っても過言じゃない。

「じゃあ、どうして親父は僕を殺したなんて嘘を…?」

 親父は、心愛を疑え。…とそう言っていた。心愛は確かにクローン技術の開発という罪をおかしている。それでも、親父がそう言ったのはおかしくないか?

 上手い言い方なんか見つからないから、ただ辿々しい話し方をしてしまう。

「我が類の父に話したのだ。我の計画が全て成功すれば、お前の嫁…類の母親は生き返ることができる。永遠に家族水入らずで生きていける。そのために、犯罪者になれと。」

 淡々と、同じ口調でAIは話し続ける。

「我が類の父に、『類を轢き殺せ』と命令したのだ。最初は拒否されたがな…。我が車の運転をして、類の父が運転席に座っていた。それで、類を殺して実験の糧となってもらったのだ。」

 残酷な現実を、僕は知らされた。

「親父…、なんで…?」

 僕はコピーで、類が死んだから生まれてこれた。きっとこのAIは僕の父親みたいなものだ。それでも、僕は類で居たいからこのAIじゃなく、本物の類の父親を親父と呼ぶ。そして、このAIが許せなかった。どうして僕を、と思ってしまう。

「類を殺すのは簡単だった。あいつはコーヒーに砂糖を入れる癖がある。我が睡眠薬をコーヒーに盛ったって、砂糖の甘さで気がつかないのだからな。」

「睡眠薬って…そういうことか…!」

 僕は信頼というものの上に、あぐらをかいていたんだ。

 僕たちは知らない人から食べ物をもらって、それを食べるだろうか?それと、同じだったんだ。僕は、いや、世界丸ごと機械を信じすぎたんだ。

 『機械は間違えない』そんな言葉を信じていた。人間は必ずミスをするけれど、機械は正確で、正しい。そんな一般常識という名の神話を信じきっていた。

 そんなわけ、ないじゃないか。

 元々は、機械は、AIは、人間が作ったものなんだ。間違えるに決まっているじゃないか!

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