第1話 再会

「葬式?」

 葬式とは、あれか?死んだ人との最期の別れをするところの…?

「類、絶対にそこにいてね?私が迎えにいくから…!」

 心愛は慌ただしくそう言うや否や通話を切ってしまった。ツーツーと、電話の中から通話終了の音が響く。

「…はあ。」

 僕は思わずため息をついてそばにあったソファーにもたれかかった。さて、一体何が起こっているんだ?


 心愛は、いわゆる僕の元カノというやつだ。

 幼馴染だった僕らはいつだって一緒だった。小学校や中学校の行き帰りは勿論、家族ぐるみで旅行にだって行ったこともあったものだ。

 この家にある家電なんかは、理科が得意だった心愛が夏休みの自由研究で作ったものだしな。心愛は異常に理科が得意な女の子だった。

 そんななんでも知り合っている僕たちが恋に落ちるのはごく自然なことだった。それは毎晩太陽の光が落ちるように…。

 今更なんだというのだ。高校を卒業して以来、そして僕たちが別れて以来ずっと連絡なんてなかったというのに。…心愛が僕を振ったのに。


「類ー!いるー⁉︎」

 ピンポーンと間の抜けた音と共に、それとは対照的な心愛の切迫した声が家に響く。ハッとして時計を見ると、もうあれから30分も経っていた。そんなに考え事をしていたのか、と驚かされると同時に緊張が体を襲う。なんせ、振られて以来二年振りに会うのだ。

「類ー⁉︎出てきてー!」

 小学校の頃みたいに彼女が僕を呼んでいた。

「類?いないの…?」

 その寂しそうな声も、あの頃みたいで。

「類ー?、いない…?そりゃ、そう、だ、よ、ね…。」

 僕が迷っているうちに心愛の声が次第に弱っていき、声は途切れ途切れになっていく。

 …昔の僕はどうした?こんな時に好きな女を泣かせるなんて僕はしないはずだ。

「心愛!」

 だから、気がつくとドアを開けていた。目の前には心愛がいた。ほんの少し茶色がかった、胸元まで伸びているロングヘア。目元は赤くなっていて、アイシャドウが少し落ちていた。…いつの間に化粧なんてするようになったんだな。それでも、あの頃と変わらない姿のままで。ドッと想いが溢れてしまうような感覚に襲われた。ああ、思い出さないようにしていたのに。僕はずっとずっと君が…!

「類、好きだよ。」

「…へ?」

 昔みたいな、そんな間抜けな声を僕はは出してしまった。そりゃそうだろう。二年振りに会った元カノに突然抱きしめられたのだから。

「類…!夢じゃ、ないんだ…!」

 心愛は幸せそうにそう呟く。その時、負けじと僕も心愛を抱きしめていた。小さな体に確かな意思を感じる。僕が死んだとかそんな変な理由をつけていたとしても、僕に会いにきてくれたことがたまらなく嬉しくて。ただ、しばらくそうし続けていた。

「類、ちょっと硬くなった?」

「…ああ、筋肉でもついたのかな。」

 心愛は僕の目を見て、えへへーっと笑う。しかし思い出したかのように急に険しい顔になる。

「ね、類に話があるの。家入ってもいい?」

「ああ、いいけど…。」

 まあ、両思いの男女が久しぶりに会ったんだから積もる話もあるというものだ。段差があるのでエスコートするように彼女の左手を取ると、何か硬いものに触れた気がした。

 何の気なしに心愛の左手を見ると、指輪がはめられていた。

 僕の知らない指輪が、薬指に静かに光っていた。

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