第2話 ちゅまを喜ばせるために!

「……妻? え? 解放は?」


 私がオロオロしていると、王様は立ち上がった。


「奴隷からは解放する。だから、間違っていないだろう」


「……」


 屁理屈だー! この人、真面目な顔で屁理屈を言っているー!


「……そういうのを、屁理屈と言うのでは?」


「…………」


 うわー! 思わず言っちゃったー!


「王に向かって何だそれは!」


「はひぃー! すいませーん!」


「うむ! そうだな! 屁理屈だった! すまない!」


「へ……?」


 否定、されなかった?


「王! 認めるんですかい!」


「では! 屁理屈以外に何という! そもそもお前たちは俺より言葉を知らぬだろう! 黙っていろ!」


「へーい」


「……」


 話のわかる人でよかったー!


「だが聖女サンよ!」


「はいぃ!」


「何だその見窄みすぼらしい格好は!」


「ふえぇー! 小汚い格好ですいませーん!」


「いや! お前を責めているのではない! お前にそんな格好をさせた奴に腹を立てているのだ! そんな格好をさせたのは家族であろう!?」


「はいぃっ、そうですぅ!」


「それでも家族か!?」


「それでも家族なんですー。すいませーん!」


「お前は謝る必要はない! 悪いのはお前の家族だ! そんな格好をさせるなど! 何を考えている! 人間の風上にも置けないな!」


「でも、仕方ないんですー。黒は不吉とされ、黒髪で黒い瞳の子を産んだ家は、呪われるといわれているんですー」


「髪が黒い、瞳が黒い、それだけでか!?」


「はいぃ……」


「ならば! 俺も呪われているということだな! 不吉お揃いだな!」


「え? あ、はい」


 オークの王様を見上げた。確かに私とお揃いで力強い瞳と、整髪剤でまとめられているような髪は、漆黒と呼べるくらい黒い。


「王が不吉だと!? オークをバカにしているな!」


「殺すぞ!」


「はひいぃ! すいませーん! 謝りますから殺さないでくださーい!」


「お前らは殺す殺す言いすぎだ! それに俺の妻を殺すと言うのか! 殺すぞ!」


 もう妻になっているしー。それに……。


「王様も「殺すぞ」って、言ってました……」


「…………」


 え? 静まり返ったよ? 私また何かやっちゃった?


「王に口答えする気かー!」


「ひえぇー! すいませーん!」


「うむ! そうだな!」


「へ……?」


「確かに俺も言っていた! よし! 今日から「殺す」は禁止だ!」


「ふえ?」


「今をもって! 「殺す」と言った奴は! その度に修練を増やす! あ、だから俺も増やされるわけだな! わはは!」


 王様は楽しそうに笑ってるけれど、意味わからないよー!


「何故ですかい王! 殺すと言って何が悪いんですかい!」


「はい、お前一つ追加ー」


 背の低いオークさんを指す王様。


「どいつもこいつも俺らを見下すから! 殺すって言いたくなるんじゃないですかい!」


「はい、お前も追加ー」


 傷だらけのオークさんを指す王様。


「何で! そんな奴の言うことを聞くんですかい!」


「ついさっき! 俺のルールはこいつになったからだ!」


「……えぇー!?」


 私がオークのルールになっちゃったのー!?


「俺の妻が全て! オークの中心! 我が妻を困らせる奴は! もはやオークではない!」


 言ってることが支離滅裂だー!


「じゃあ、そいつを喜ばせればいいんですかい!?」


「それもダメだ! 何故ならば! 妻を喜ばすのは夫である俺の役目だからだ! よって! 今から妻と町に出かけてくる!」


「何しに行くんですか王!」


「ちゅまを喜ばせるために! ドレスや指輪を買いに行く!」


 着々と結婚話が進んでいっているー!


 そして、王様! ちゅきと妻が混ざってませんかー!?

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