出血大サービス

陸海空と字見花は学校を後にすると、特に意味も無く近くの公園を何周もした。やがて日が暮れてきたので、二人はようやく家路につく事にした。

二人で静まり返った住宅街を歩いている間、陸海はずっと先程の薄井の話が頭から離れずにいた。

クソ…せっかくのデートだってのに100%楽しめねーぜ…。

「さっきから考え事?陸海君」

憂いが顔に出ていたのか、字見がそう聞いてきた。陸海は少々渋ったあと、思い切って言った。

「花さぁ…今まで俺以外と付き合った事ある?」

字見は一瞬、真顔になると、すぐにまた頬を緩ませた。

「ううん、陸海君が初めての彼氏だよ♡」

「そっ…かぁ~~~」

ホラ!初めてだって言ってるぜ!サッちゃんの奴、変な話しやがってェ~…!花の初めて(意味深)の男はこの俺だァ~!

「そう言えば、さっき薄井さんと何話してたの?」

「フュッ!?」

陸海の肩に頭を寄せながら、字見が上目遣いで見つめてきた。この目で見つめられると、いつも心を見透かされたような気分になってくる。陸海は思わず目を逸らした。

「た、大した話じゃねーよ…」

「ホントかなあ…。ねぇ、もうあの人と話すのやめなよ」

彼女の言葉に陸海は面喰らった。

「え?何でよ」

「だってあの人暗いし、それに目つき悪くて何か怖いでしょ?」

う~ん、仰る通り。ぐうの音も出んわ。

「あんな人と話してもいいことないよ?もう無視しちゃいなよ」

「それは…」

陸海は先程の、去って行く彼女の後姿を、ふと思い出した。

「…ワリいが、それは出来ねえ約束だな。アイツさ…」

「じゃ、死んで♡」

「はい?グッ…!」

突然、陸海は腹部に鋭い痛みを覚えた。血反吐を吐きながら目線を下へやると、字見の細長い5本の指が、彼の腹に深々と突き刺さっていた。

「お前…」

字見は眉一つ動かさず、指を引き抜いた。血で真っ赤に染まったそれは、まるで針や棘のように鋭利な形状になっていた。

陸海は抵抗する間もなく、腹をメッタ刺しにされた。

「痛アアア!痛デデデデ!痛ッデエエエエ!?」

陸海は地面に背中からバタリと倒れた。彼を見下ろしながら、字見は無機質な表情で言った。

「ハァ…ガッカリ、私ったらなんて可哀想な女の子なの。貴方もアイツらと一緒で私を裏切るのね?ならもういらないや」

マ…マジだったァ~~!やっぱアイツが正しかったんだ…!そうだ、俺は何を期待していたんだろう?こんな上手い話し、ある訳無いじゃねーか…。

クソ、こっぴどくヤラれたせいで変身できねぇ。この傷が治癒するまで、もうしばらくかかりそうだ、どうする?

字見が人差し指を顔の前に立てると、それがまるでフェンシングの剣の如く伸長した。陸海の顔がサッと青ざめた。

「バイバイ、陸海君。これからは私の思い出の片隅にいさせてあげる」

その時、何かを察知したのか、字見は背後に振り返った。すると、目の前に西洋のものを思わせる剣が、彼女目がけて突っ込んで来ていた。

字見はそれを難なく指で弾いた。弾かれた剣は、空中で弧を描くと、見事に陸海の胸に突き刺さった。

「ごへぇ」

字見は剣が向かって来た先の方へ目を凝らした。闇の中から、ある人物のシルエットが次第に浮かび上がって来た。

字見はニヤリと笑うと、そいつに言った。

「やっぱり貴女だと思ったわ。尾行してきたの?」

「…いや、偶然通りかかっただけさ」

ボブカットの鋭い眼差しの少女、薄井幸は答えた。彼女の登場に、陸海は掠れた声で呟いた。

「か…勝手にしろなんて言っておいて、あのあまのじゃくめ…!それはそれとして、痛ェ~…!」

言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな様子だった。




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