3つ星ピエロ 第3章

悠山 優

第24幕 生まれた場所

夜行バスで移動すること6時間。

ウィルソンの生まれ故郷である"キルト"に到着した。

ウィルソンとアリシアは手を繋いでバスを降りた。

「ありがとうマイクお兄ちゃん!」

バスの運転手のマイクに手を振る。

「おぉ。理由は聞かないけど、まぁ頑張れよアリシア」

マイクもアリシアに手を振った。

プシューという音と共にバスの扉が締まる。

ファアーンとクラクションを鳴らし、バスは走り出す。

降り立ったバス停の看板には"キルト市街地前"とある。

「ここが…僕の生まれ故郷…」

ウィルソンは初めてみる故郷に息を飲む。

雪の残る山々に囲まれ、緩いU字の斜面に等間隔に集落がある。緑と自然に恵まれた穏やかな街だ。

アリシアが両手を広げ深呼吸する。

「空気が美味しいねウィル」

「そうだね、すごく気持ちが良い」

街の中心部にある時計塔の時刻は4時40分を指す。

「さすがにこんな早朝じゃお店も開いてないだろうなぁ…」

ウィルソンはつぶやく。

「ホテルなら開いてそうじゃない?」

アリシアが答えた。

「ぁ…、そうだね。ホテルを探そう」

「うん」

2人は目の前に見える時計塔を目指し歩く。

時計塔に向かう途中、街並みの民家とは雰囲気の違う真新しい円柱形の4階建ての建物が目に止まった。

「ビジネスホテル…みたいだね」

"ホテルグランスイート"と正面上部に看板があった。

ウィルソンは入り口の自動ドアのボタンを押した。

ピロリロ~とチャイムと共にドアが開く。

ロビーの天井のシャンデリアが店内を照らす。

フロントに人の姿はない。

「お留守?」

「いや…入り口は開いてるから営業はしてるだろうけど…」

ウィルソンは受け付け台の呼び出しベルをチーンと鳴らす。

反応が無い…。

フロントの照明も点いているのに。

「すいませーん。誰か居ませんか!」

「はいぃ!」ゴトっという音と一緒にバックヤードから声が聞こえた。

フロント奥のドアが開き、人が出てきた。

「すいません、大変お待たせしまし…、ウィルソン!?」

「え!カリーナ!?」

白紫の髪と聞き覚えのある声の主はかつてのサーカス団の仲間、カリーナだった。


「久しぶりだねウィルソン、元気そうね」

「カリーナも元気でやってるみたいだね…、ここで働いてるの?」

「そうなの。いま夜勤の時間帯なんだけどさ…裏で寝ちゃってた…。まさかウィルソンに起こされるなんてね」

えへへ…と恥ずかしそうに舌を出すカリーナ。

話し方から雰囲気から昔とさほど変わらない。

左手の薬指にリングが見えた。

「あ、結婚…したんだね」

「え?あぁ、そうなの。去年のクリスマスにプロポーズされちった。相手はこのホテルのオーナーさんよ」

「そうなんだね。…おめでとう」

ホテルのオーナーさんと結婚したならフロントで仕事をしていても不思議じゃないもんな…。

「ウィルソンに"おめでとう"って言われるのあんまり嬉しくな~い」

ぷくーっと頬っぺを膨らませるカリーナ。

「え~、そんなこと言われても…」

「ふふっ、う~そ。ありがと!今とっても幸せだよっ!」

カリーナはニコッと笑った。

「私も、ウィルと一緒に幸せになるからね!」

アリシアが拳を握りしめ宣言する。

•••••••••••••。

「…おいてめこら、こんな小さい女の子にプロポーズでもしたんか?あ?」

カリーナがウィルソンを睨む。

「そんなことしてないよ!この子はアリシアちゃん。リズワルドの新しい仲間だよ」

慌ててアリシアについて説明をするウィルソン。

「アリシア•クラーベル8歳です!」

「あら、そうなの?よろしくね、私はカリーナ。元リズワルドの歌姫よ」

自分で歌姫って言うのかよ…。

「ウィルソンは大変よ~、トロいし鈍感だし」

「それは分かります」

え~…わかるの?

「でもウィルは凄く優しくてお菓子作りが上手なの」

「わかるわ~、ウィルソンのお菓子は美味しくて私も大好きだったぁ」

何やら意気投合し始めたぞ。

「私もウィルソンに負けてらんないと思って、料理のお勉強したくてね。イシュメルの"ティンカーベル"って喫茶店で3年前まで仕事していたわ」

「お姉さん"ティンカーベル"に居たの!?」

「そうよ、ティンカーベル知ってるの?」

「アリシアちゃんはイシュメル出身なんだよ」

ウィルソンが口を挟む。

「今女の子同士で話してるんだから、入ってくんなし」

ギロっと睨まれた。

「…ぁ、はぃ…」

「私ティンカーベルのアップルパイ大好きでお母さんと一緒に食べに行ってたなぁ」

「そうそう、アップルパイ美味しいよね~」

「でもウィルの作るアップルパイの方が私は好きかなぁ」

それは嬉しいな…。

「へぇ~、もう胃袋は掴んでんだね?やるなウィルソン。あとはアリシアちゃんが誘惑したら両思いね」

「…ゆう…わく?」

-アリシアの脳内では。

15歳に成長し、身体つきも雰囲気も大人びたアリシアが貝殻のビキニ、人魚の尾びれをくねらせ、ウィルソンを上目遣いで誘惑する。

「ねぇウィルソン~こっちへいらっしゃ~い♡」

「君は僕のものだよアリシア」   …-


「!…ぐはぁ」

アリシアは顔を真っ赤にして床にへたり込む。

意外とムッツリスケベなんだなぁ。

「カリーナもう良いから、これ以上アリシアちゃん困らせないでよ」

ウィルソンはアリシアを起き上がらせる。


「あぁそうそう。まだ5時前で役場も開いて無いから8時ぐらいまで休憩出来ない?」

「えーと、待ってね…。203号室なら空いてるわ、2階上がってすぐね」

カリーナはウィルソンに部屋の鍵を渡した。

「ありがとう。行くよアリシアちゃん」

「はい~」

ウィルソンはアリシアの手を引き階段を上がる。



(…なんでこのタイミングで再会するのよ…)

「…遅いよ……ばか」







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