ぶしょーレストロン

好葉

第1話出会い1

僕のレストランは毎日が騒がしい。


「信長様さん、秀吉さん、家康さん、タピオカ届きましたよ~。あっ、ありがとう蘭丸君。」 


「謙信さん、信玄さん、オセロに没頭しすぎてオープンの準備忘れないでくださいね。」


「っちょと!利休さん、床でお茶を立てないで下さい!フロイスさんも政宗さんも床に座らない!」


「あれ?光秀さんどこに行った?もう~、光秀さん~。」


僕のレストランはいつも騒がしい。

でも多くの人達が人生を変えられた。

そして僕もその一人。



このレストランを始めるきっかけは祖父が亡くなってから。

祖父の遺書には「レストランは一(はじめ)に譲る。」とだけ書いてあり、祖父の小さなレストランは僕のものになった。


こうして祖父の思いを継いでレストランをやってみる事にした。

友人にレストランを経営してる人がいたので彼に教えて貰いながら開店準備を始めた。


ー当日ー

身だしなみを整えスタッフを待つが、午後三時になっても誰も来る様子はない。


「お…おかしいな…。よしっ、もう一回電話してみよう。」


不安になり働く予定のスタッフに電話を掛けるが出ない。

それからどれくらい時間が経ったのだろう、窓から夕陽が差し込む。

椅子に座り、テーブルに突っ伏す。


「はぁ…、なんだよこれ…当日に全員ドタキャンは無いでしょ…。どうすればいいんだよ~。逃げようかな。何処か…遠くに。」


ここまで頑張ってみたけどもう辞めてしまおうか。

やっぱり僕には無理だったんだ。


「おい、お主ここはどういった場所だ。」


そこに立っていたのは甲冑の上に派手なポンチョを羽織った男だった。

あぁ、織田信長のコスプレか。

店の入り口は鍵をかけたままのず。

この人どこから入って来たんだ?


「えっと…レストランです。」


 男性は髭を人撫でし、思い出したように話す。


「あぁ、飯屋の事か。ならば早く飯を出せ。」


そう言うと男は空いている席に座った。

そんな事言っても料理を作るシェフがいない。


「いや、無理です。僕…料理人じゃないし…、そもそもまだオープンしてないですし…。というか今日は休みになるかも…。それと予約してませんよね?」


「お前の都合など知らん。さっさっと出せ。でなければ切るぞっ!」


腰に差してある刀に手を当てたかと思うと、さっと刀を抜き僕の首元で刃先を止めた。

微かに当たる刃先は冷たい。

偽物だとわかっていても怖い物は怖い。


「っっっわっ、わっわかりました!出しますから!」


今日のまかないぐらいオーナーである僕が作ろうと思い作っておいたものだ。

人生で初めて作ったカレーをコスプレ男に出した。

コスプレ男は食前酒を楽しそうに味わっていた。


「どうぞ………。まかない…カレーです…。」


市販のルーだから不味いとかは無いと思うけど…。


「ほう…。これがかの有名なカレーか。初めて嗅ぐ匂いだ。」


有名なカレー?初めて嗅ぐ?

きっと役になりきってそんな事言ってるのか…。

コスプレ男はルーが入っている皿を持って飲み始めた。


「ゴク、ゴク、モグモグ。」


まさかのカレーを一気飲み…。

具は飲みながら食べているようだ。

僕は驚きながらも食べ終わるのを待った。


「おい、小僧。中々美味かった。この酒にはちと合わんがな。礼だ。」


そりゃそうだ…僕のカレーが高級ワインに勝てる訳がない。

礼だと言ってテーブルに黄金色の物を置いた。

小判型の玩具だ。


「いや…普通のお金でお願いします。今回はお酒の代金だけでいいので…。」


役になりきりたいのだろうがちゃんとお金を払ってもらわないと困る。


「あの猿め。騙しよったな。ほら、小僧これでよいだろう。」


次に机に置いたのは穴が開いた石数十枚だった。

これは…新手の無銭飲食か?

コスプレ男が立ち去ろうとしているのを止める。


「こっ、困ります。普通のお金をお願いしますよ。けっ警察呼びますよ!」


「何…?金なら先程渡しただろう。」


話が通じないなぁ。

あっ、もしかして外国人かもしれないっ。

外国の人にはみえないけど…。


「ちょっと待ってて下さい。今この国のお金見せますから。」


僕は急いで自分のお金を取りに行った。

戻って来ると男は先程座っていた椅子に腰を下ろしている。


「いいですか。これがこの国の今のお金です。持ってませんか?」


「ふむ…。」


男は深く考え込み、僕をじっと見た。

力強過ぎる目つきに唾を飲んだ。


「あいにく持ち合わせていない。」


「そんな…。今日は散々だ…。今日働く予定のスタッフは来ないし、変な客は来るし。もういいです。帰って下さい。」


僕は床に突っ伏して床を呆然と見つめた。

もう何もやる気が起きない。

この男が僕に止めを刺したんだ。


「また来る。」


コスプレ男はそう言って去ってしまった。

僕はというと自分が惨めになり体育座りで泣いていた。

そんな時だった。


そのコスプレ男はやって来た。

新たなコスプレ仲間を引き連れて。


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