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「それで、一体何が言いたいんだ?」

「あなた、まっすぐ過ぎだね……」

 気になってしょうがないので、学園でロニーを捕まえて尋ねることにしたのだ。ロニーは呆れたように額に手を当て、息を吐く。


「さっさとしゃべってしまった方が楽だろう⁉」

「言いたくても言えないかもとか考えないんだ」

 今度は心底うんざりしたように、目をすがめる。

「そんなに言いたくないことなのか?」

「そうでもないよ」

 ロニーは再び息をふうと吐いた。目が合った時には、目つきが落ち着いたものに変わっていた。何か腹を据えたのだとわかる。


「学園に出回っている君の噂を知っている」

 そこからロニーは語り出した。


「今から20年近く前の話だ。この学園にいた男女が起こした騒動。その騒動の主役があなたのご両親と当時の王太子、今の陛下だ」

「ああ、それかー」

 なんだ、と思い気の抜けた声で返せば、ロニーが俯きがちだった顔をぐわっと上げた。


「それかって! あなた、知ってるんじゃないか!」

「そりゃ知ってるよ。自分の親のしたことくらいー」

「だったら、あなたがこの学園でこうなってるのかもわかるようなものだろ!」

 そう言われても、どういうことだ? と首をひねる。ロニーがいらだったように声を大きくした。人に聞かれるとまずいかもと思い、人気のない教室を選んた意味が薄れてしまう。


「あなたの母君は当時の王太子の婚約者だった。そこをあなたの父君が決闘を王太子に申し込んで勝ってしまい、母君と結ばれてしまった! つまり、あなたのご両親は王家に恥をかかせたのだ!」

「ああ、うん」

 ロニーによる自分の両親の馴れ初めの解説が始まった。


「だから、あなたは存在ごと王家に疎まれているのだ。没落を願われているんだ。ご令嬢があなたに近づかないのは、あなたの家が政略による婚姻で栄えることを警戒されているためだ」

「ふーん」

「……なんですか、その気のない返事は」

「私が結婚できないとかそういうのはどうでもいい」

「貴族にとっては重要なことではないですか」

「我が家系にとっては一大事だが、真に大事なのはそこではない」

「ええ」

 私の言葉に、ロニーは釈然としないと眉間にしわを寄せつつ首をかしげている。


「我が家系が潰えても、オスニエル領は存在する。領地の安寧こそが私の望み。オスニエル家が領地召し上げになった後も領民の生活は続く。領民の生活を守り、あの美しい景色を失わない、それこそが一番大事なことだ。我がオスニエル家の後に領主になる者には、是非ともこの方針を継いでほしいのだが」

 領地の安寧のため。そのためにこそ、領地の良さを人に知らしめたいのだ。

 だが、私が願ったところで、そんな理想が叶えられるかどうかはわからない。ならば、あの地の平穏を長引かせるにはオスニエル家の滅亡を緩やかにしていくしかない。

 それには、私は結婚して子を作るべきだが、無理ならば養子をもらうなど方法は他にある。私の妻の有無は必須ではない。


「……セアラ嬢のことはどう思ってるんです」

 私の言葉を聞いて考え込んでいたロニーが尋ねてくる。妻に望んでいるのかと言いたいのだろう。すっとぼけようかとも思ったが、正直に答えることにした。

「とても好ましい女性だと思っている。良き友人でありたい」

「友人でいいんですね」

「彼女は普通にしていれば良縁に恵まれるだろう。わざわざ貧乏くじを引くこともない」

「そうですか」

 ロニーとの話はそれで終わった。

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