第三話「シェリル・ジーニアス」


 Side 楠木 達也


 ジルバーンの戦闘力は圧倒的だった。

 自分達の出番は全くなかった。


 驚いたのはスケジュールを強行してそのまま模擬戦をやるつもりらしい。

 

 基地を任されている黒川司令と言う人物が言うには――


「ジルバーンの戦闘能力は見てもらった通りです。さらにはこの基地にはあのジェノサイザーを倒した実績を誇るゴーサイバーの方々もいますし安全は確保されているも当然でしょう」


 などと言ってのけた。

 バックスクリーンには自分達の戦闘映像とジルバーンの戦闘映像が比較するように流されていた。

 人々を安心させるためのパフォーマンスだろう。


 黒川司令の事はよくわからないが相当やり手のようだ。


「ふん。白々しい真似を・・・・・・」


(うわ~中條さんってやっぱりロボットヒーロー反対派なんだ)


 中條さんは不機嫌そうだった。

 彼女は戦場に子供は不要、大人で十分なタイプの思想だ。

 だがロボットヒーローの導入については反対らしいと言うのは聞いたことがある。


「あんたちょっといい?」


「はい?」


 ふと現れたのは金髪のツインテールの少女だった。

 白衣を身につけている。

 


 シェリル・ジーニアス。

 それが接触してきた女の子の名だ。

 何故かジルバーンの格納庫にまで案内してこう尋ねた。


「あなたの事は全部データーで暗記しているわ。いわゆるダメダメヒーローだったけどなんとか生き抜き、そしてジェノサイザーを倒すなどの功績を挙げてみせてその後も強敵との戦いで勝利を収めている」


「そうして聞くとどうしてそうなったんだろう・・・・・・偶然って奴かな?」


「自己評価は低いのね。私は正直どうしてアナタ達がジェノサイザーに勝てたのかは分からなかった。何度シュミレートしても可能性は限りなく低かった。にも関わらずアナタ達は勝利して見せた」


「何を聞きたいのか分からないけど自分でも分からないんだよ、ほんと」


 言ってはなんだが普段はダメダメ。

 今でも訓練は劣等生的な扱いである。 

 

 にも関わらずなんかここ一番の時に勝ってしまう。 

 達也は自分でも不思議に思っていた。


「まあいいわ――これは宣戦布告よ。例え世間からどう言われよれと、私のジルバーンは新たな人類の剣となる。アナタ達を踏み台にしてね」


「はあ・・・・・・」


 なんか今一実感みたいな物が湧かない。

 その態度が気にくわないのかシェリルは「あなたプライドがないの?」と言われた。


「プライドは中学時代に色々あって・・・・・・ね・・・・・・」


「ああ、確かいじめられてたんだっけ・・・・・・未だに引き摺ってるのそれ?」


「以前よりかは大分改善したと思う」


「そ、そう。まあ私のジルバーンがアンタの何百倍も働くから安心して引退しなさい」


「って言われても、負けたら負けたで中條さんに叱られそうだな・・・・・・」


 などと鬼教官こと中條 霞の顔を思い浮かべる達也であった。


「そんなんでよく戦ってこれたわね」


「自分でも不思議に思ってます」


「ふん。まあ精々恥を掻かないように頑張ることね。ほら、そろそろ模擬戦の時間よ」


「あ、どうもありがとうございます」


 お礼を言うとまたシェリルに呆れられてしまい達也は首を傾げる。


「あんた自分の立場分かってるの?」


「? いちおうゴーサイバーの隊い「違う。同じ防衛隊だけどこれは代理戦争よ」代理戦争?」


「そう、人間と機械の戦いなのよ」


 そう言われても達也はピンと来なかった。


「難しい事はよく分からないけど手を取り合って戦うって事はできないのかな?」


 それが一番だと思っている。


 だがシェリルは「アンタふざけてんの?」と馬鹿にしたような口調で返す。


「いい? 人間ってのはね? 皆で仲良くしましょうとか平和に生きましょうとか言っておきながら裏では相手を見下すために、相手を蹴落とすための努力とかをする奴が支配者として君臨するようになってるの。支配されないためには例え魂を悪魔に売ってでも相手を蹴落とし、より狡猾に、ずる賢くならなきゃいけないのよ」


 そして付け加えるように


「実際アンタの中学時代はそうだったんでしょう?」


「それは・・・・・・」


 確かに強ち否定はできないとも思った。

 だが達也は心の奥底では"間違ってる"と思った。

 同時にこうも思った。


「シェリルさんはそれでいいの?」


「はあ?」


「いや、その、シェリルさんはそれで幸せなのかなって思って」


「幸せとかどうとか関係ないわよ。新年戦争の悲劇をまた繰り返さないためには強くなるしかないのよ。例えどんな手を使ってでも」


 そう言ってシェリルは足早に、不機嫌そうに立ち去っていった。



 Side シェリル・ジーニアス


 シェリルは苛ついていた。


(なんなのよアイツは――)


 楠木 達也。

 今考えてもイライラした。

 あんなのがジェノサイザーを倒したと言うのか。


 プライドもなく、何処にでもいそうな普通の少年が。 


 だが何故だろう。


 ――シェリルさんはそれでいいの?


 ――いや、その、シェリルさんはそれで幸せなのかなって思って


 その言葉が離れられない。


 ジルバーンは自分の全てで最高傑作だ。


 世の中を平和にするための最強の戦士を産み出す第一歩だ。


 それが例え多くの人間を敵に回す結果になろうともだ。


 そう考えているのになんなのだろうかアイツは。


(アイツは絶対に叩き潰す!!)


 そう思うに至った。





 Side 楠木 達也


 控え室に戻り、ルール確認や作戦会議を行う。

  

 ルールは五対五のチーム戦。


 メンバーは中條 霞と空鳴 葵の新規参入組を覗いたメンバーだった。


「この五人なんて久しぶりね」


 芳香の言う通りこの五人で戦うのは本当に久しぶりだ。

 訓練以外でならゴーサイバーとして初出撃したあの日以来だろうか。

 少々不安があるが――


「大丈夫、私達も強くなってるから」


 薫が優しい笑みで語りかけ


「そうよ。達也はドーンと構えてなさい」


 芳香も明るく元気にそう言う。


「精々油断せんようにな。正直敵のロボットヒーロー、ジルバーンの戦闘力は想像以上だ」 


 その薫と芳香を戒めるように中條が言った。


「そうね。確かにジルバーンの戦闘能力は圧倒的だったわ」


「油断はできない」


 白墨 マリア、佐々木 麗子の二人は慎重かつ冷静にジルバーンの戦闘能力を理解していた。


(暗黒組織のデーターとかも入ってるんだよな・・・・・・あれ・・・・・・)


 楠木 達也は内心ではその事を不安に思っていた。 

 同時にジルバーンの開発者であるシェリルの事を考える。


 なんだかとても悲しそうに見えた。

 ジルバーンは恐らく――様々な試行錯誤の末の妥協点なのだろう。   

 だが彼女も全てが全て間違ってはいない。


(どうすればいいんだろう、僕は――)


 達也に迷いのようなものが産まれた。

 

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