最後の戦い・後編

 Side 楠木 達也


『アレはジェノサイザー!? 倒したんじゃ無かったの!?』


『だけど体が……』


『信じられない……』


『そんな――』


 芳香も、麗子も、マリアも、薫も、


『わぉ……信じられないぐらいタフね』


『これは流石に計算外ですね……』

 

 それはマリアも寺門も


『参ったね……本当に別物だったとは……』


 ジェノサイザーをよく知る茂も


『信じられん……あの攻撃でまだ生きていたのか……』


『嘘だろおい……』


 そして工藤司令も、浩も目を疑った。

 

『まだ戦うの?』


 当然達也も。

 眼前には全身黒焦げになりながらも五体満足で立っているジェノサイザーがいた。

 背中からはデモニック・ブーストによる赤い翼を輝かせ、紅に輝く瞳で此方を見据えている。

  

(マズい!?)


 そう思った時には遅かった。

 上空高く跳躍し、奴は腹部から小型反応弾を発射した。

それが地面に着弾し、大規模爆発を引き起こす。

 更に二度、三度、四度、五度と同規模の破壊の嵐が吹き荒れた。

 視界が真っ白に染まり、激しく何度も灼熱の突風と共に体を強く打ち付ける。


 これは死んだかと思った……


 が、ボンヤリとだが意識がハッキリしてくる。

 気が付くと側にはエンジェリック・ブーストを発動した状態で寝そべっている桃井薫の姿があった。全身の彼方此方が黒焦げでバイザーにもヒビが入っていた。

 それを見て条件反射的にガバッと起き上がる。身体の節々が痛いがそれでも薫が心配だった。

 

『だ、大丈夫?』


『薫こそ平気なの!?』


『私は大丈夫……それよりも……』


 それでハッとなる。

 周囲を見渡すクレーターだらけ。

 彼方此方に芳香や麗子、マリアや茂、ナオミに寺門の姿が確認できる。

 皆かろうじて生きていると言った様子だ――正に奇跡だろう。

 達也が比較的早く立ち直れたのは薫がエンジェリック・ブーストを使ってまで庇ってくれたからだ。


『――まだ戦い続けるつもりか』


『…………』


 そして奴がいた。

 空中を浮遊し、此方を見据えている敵――ジェノサイザーだ。

 先程は突然の事で詳しく観察する暇は無かったが分からなかったが爆発で吹き飛ばされたせいか随分遠くにいるが銀色の装甲は黒焦げになったり喪失して内部のパーツが露出していたり、彼方此方から火花が散っていてとても万全な状態には見えなかった。

 

(ウイングアーマーは使用不可能。プロテクターは両脚が使用不能。エレクトロガンも喪失、使えるのはサイバーライフルとサイバーセイバーⅡか……)


 自分の状態を確認する。

 敵も自分も満身創痍。

 正真正銘これが最後の戦いになるだろう。


『待って――私も戦う』


『私も……ここまで来て寝てられないわ』


『同感――』


 薫、芳香、麗子の三人が立ち上がる。

 皆ボロボロなのにまだ戦うつもりでいるらしい。


『全く元気が有り余ってるわね……』


『我々も負けてられませんわね』


 それはマリアも、寺門も同じだった。


『ヤレヤレ皆タフだね』


『全くだわ――後で埋め合わせして貰うわよ、ボウヤ』


 そして茂もナオミも――よろめきながらも立ち上がって見せた。

 

 Side 結城 浩


 スクリーンには絶望が映し出されている。

 まるでこの世の破滅を現わしたかのような光景だった。

 だが達也も、そして皆もあの激しい攻撃を受け手なお立ち上がろうとしている。

 

「嘘だろ……」


 何時の間にか浩は瞼から涙を流していた。


「どうして立てるんだよ……おかしいだろ」


 アレだけの攻撃を受けてボロボロになったにも関わらず彼はまだ戦う意志を捨ててはいない。

 

 その光景は少年の心を激しく揺さぶった。


「頑張って」


 誰かが言った。


「頑張れ!!」


 その願いは波紋してゆく。


「負けるな!!」


「皆応援してるから!!」


「もう少しだ!! もう少しで勝てる!!」


 そして広い部屋の外まで響き渡程の大合唱となった。

 

「頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!! 頑張れ!!」



 Side 藤 順作


 その大歓声は司令室にまで届いていた。


「凄い大歓声だな――よし、この音声を全員に送信しろ」


「おお、最後は精神論かね?」


 と、古賀博士がチャチャを入れるように尋ねた。


「精神論は嫌いではない……」


「そうか……」


「もうここまで来たら私の出る幕など無いだろう」


 そう言ってモニターを見上げた。

 そこには最後の戦いへと挑まんとする戦士達の姿が映し出されている。

 彼達の司令官となって本当によかった。

 胸を張ってそう言える姿がそこにあった。

 傷付きながらも手を取り合い、尚も強大な敵に立ち向かうその姿――自分はもう見届ける事しか出来ない。

 ならばせめてその姿を刻みつけよう。司令はじっとスクリーンを見詰め続ける……



 Side 楠木 達也


 大声援が聞こえる。

 それが傷付いた体から決して計算できないパワーが引き出されていくのを感じ取った。

 

(終わらせるんだ――ここで!!)


 ジェノサイザーを倒す。

 そのために最後の力をここで出し抜く。


『サイバーボウガン!!』


『エレクトロガン!!』


 マリアと寺門の武器が唸る。

 プロトサイバーのサイバーバズーカは先程の攻撃でギガサイバーバズーカ同様喪失したのかエレクトロガンを代わりに使った。

 ジェノサイザーの胴体に火花が起きる。吹き飛ぶ程では無いが着実にダメージは与えている筈だ。


『さっきの仕返しよ! サイバーウィップ!!』


 続いてマリアの鞭が生き物のように叩き続ける。


『合わせるぞ達也君!!』


『はい、黄山さん!!』


 二人一緒に飛び上がる。空中で一回転し、飛び蹴りの構えを取った。

 茂は足に電光が迸り、達也は両脚を揃えてつま先をジェノサイザーへと向ける。


『デンジダー!!』


『サイバーぁあああああああああああ!!』


『『キイィィイック!!』』


 二人の蹴りが胴体へ激突した。達也は技の性質上、少々茂に合わせるため、遅れて出す必要があったが見事にほぼ同時に蹴りを決める。即興の連携技にしては見事過ぎるぐらいに決まった。

 鞭の束縛から解放されながらジェノサイザーは吹き飛ぶ――がそれでも後退りするだけだった。

 しかし先程よりも火花が出る量が増大している。効いているのだ。


『サイバートンファー!!』


 続けて麗子が飛び込んだ。

 両腕に持ったトンファーを器用に操りながら切り裂くように殴る、殴る、殴る。その度に激しい火花が起きる。この連撃に流石のジェノサイザーも数歩後退する。

 最後に両腕を交差させ、水平でトンファーを交差させ、締めはその逆再生、上半身でVの字を描くように強烈な一撃を叩き込んだ。


『次は私!!』


 サイバーランサーを持った芳香が入れ替わりようにして攻撃を加える。

 それは速度を重視した突きの連打だった。胴体中央のみを狙い、足の電子クラフトとスーツのパワーアシストを併用して強引に押し込んでいく。繊細さに欠けるがまるで暴風のように繰り出される槍の連撃で更にダメージが蓄積されていく。

 トドメはXを描くような二連撃――再度よろめき、反撃する気配すら見せない。


『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 そして薫だった。

 サイバーセイバーとエレクトロガンのソードモードを掲げ、背中からエンジェリック・ブーストを使用している。サイバートレーラーによる治療や修復があるとは言え、既に限界を超えた使用を行っているがそんなの構うもんかと言わんばかりに次々と強引な剣撃を繰り出していく。技術も何も無い手数を重視した完全な力業だ。だがブーストにより破壊力を増大した双剣の威力はこれまでの連撃により疲弊したジェノサイザーを押し込んでいく――


『これでどうだ!!』


 そこへ達也がサイバーセイバーⅡを手に剣撃を加える。

 薫の攻撃に隙が出来たところを突くようにジェノサイザーへ攻撃を与えて行く。

 そして二人同時に強烈な斬撃を与え、吹き飛ばす。

 何度も転がり回り、そして――

 

『破壊………破壊……』  


 火花が噴水のように出しながらそれでも与えられた命令をこなすため、立ち上がる。

 まるで不死身のような頑丈さだ。

 だが達也達も負けられない。こいつと心中するために戦い抜いてきたんではない。

  

『ここまで来たんだ!! 負けてたまるかぁあああああああああああああああああああ!!』


 達也は気付いていたか、いなかったのかは定かではない。

 まるで薫のエンジェリック・ブーストのように達也の、長い戦いでボロボロになったウイングアーマの翼が綺麗な炎の衣を纏い、剣もまるでファンタジーに出て来るような烈火の剣になっていた。

 

『ハ……カイ……』  

 

 最後の最後になってジェノサイザーは反応弾を撃とうとする。

 それに構わず達也と薫は飛び込んだ。


『『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』』


 二つの剣閃がジェノサイザーの胴体へ水平に食い込む。

 意志の力を乗せた剣は頑丈な装甲を切り裂いていき、刃は遂に背後まで到達して――完全に両断して見せた。そのまま二人は振り返らず、勢いそのまま飛び去っていく。 

 遅れて斬り倒されたジェノサイザーは大量のスパークと共に地へ伏せ――盛大な大爆発を引き起こした。


『……終わったのか?』


 静寂がその場を支配する。

 やがてジェノサイザー、シュタール両名の撃破がこの作戦に参加した全ての人々に伝えられると――ドッと大歓声が沸き起こった。

 それに釣られるように皆も――達也達も喜んだ。

 通信越しからも浩達の歓声が聞こえた。


 達也は長い長い戦いが遂に終わったように感じられた。

 

 戦った時間は薫達より圧倒的に少ないがそれでもとても長く戦っていたように思える。

 

 そして思った――このサイバックパークから起きた一連の出来事がやっと終わりを告げたような――こじつけがましいのは分かっているのだがそんな気がしたのだ。


 終わった。


 やっと終わった。


 世界に平和が訪れた訳ではないが確かにこの戦いは終わったのだ。


『帰ろう……皆……』



 そして時は流れる――


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