ヒーローの目覚め

Side 楠木 達也  


『我達リユニオンに刃向かうヒーロー達に告ぐ。降伏せよ。でなければこの駐屯地の様に日本中を無差別に廃墟へ変えて行く』


「司令これは一体――」


 皆の気持ちを代表するようにサイバーホワイト、白墨 マリアが尋ねる。

 司令室には達也を含めたゴーサイバーの主立った面々が並び、モニターにはリユニオンからのメッセージと一緒に廃墟と化した駐屯地が映し出されていた。


「今迄のリユニオンからは考えられん程の大胆さだ。それにこの駐屯地の僅かの間で殲滅できる程の火力が――もしかすると敵の新兵器かも知れん」


 工藤が告げてマリアは「新兵器ですか?」と返す。


「そうだ。奇跡的に生き延びた隊員によれば「銀色の悪魔を見た」――と言う情報しか手に入らなかったが、恐らく強力な力を持った怪人である事は間違いない」


 司令の言葉を聞いてゴーサイバーの少女達はざわめく。


「銀色の悪魔・・・・・・」


「それが敵の新兵器なの?」


「たぶんそう」


 薫、芳香、麗子の順に口を開く。

 大小あれど皆脅えの感情が見て取れた。


 そして達也も―― 


(こんな化け物とやり合わなければならないのか?) 


 未だ戦線復帰になれずともそう思わずにはいられなかった。



 場所は変わり、学校の屋上。

 今は昼休みで少女達は出動していないが、彼女達の帰りを待つ内にここで過ごすのが最早日課となってしまった。


「そうか――そんな奴と戦わないといけないのか」


「うん・・・・・・もしかすると僕も戦わないといけないかも知れないんだよ。サイバーレッドだし」


 ニット帽の少年、結城 浩に心中を打ち明ける達也。

 学校に通い始める内にこの少年と過ごす時間も段々と長くなっていた。

 話題は専ら駐屯地の壊滅の事である。事態が事態であるため隠し通す事も出来ずニュースはその事をずっと報道している。

 

――銀色の悪魔を見た


 唯一救助された隊員の言葉が達也の脳内で反芻する。


 幾らスーツが無いと言っても防衛隊の駐屯地は練度や装備を考えると総合的にサイバックパークを上回る筈だ。なのにあの短時間で壊滅する事など並大抵の怪人では無理だ。

 しかもあそこまで徹底的に破壊し尽くすなど――銀色の悪魔と言う例えも馬鹿には出来ない。


「アンタら最近ここを溜まり場にしてるって本当だったのね」


 と、やぶから棒に勝ち気そうな女の声が割って入ってくる。

 視線を移すとそこにはツーテルのセミロングヘアーの男勝りそうな少女に背の高い綺麗な麗人、ボブカットにハートのブローチがついたヘアピンを付けた可愛らしい女の子が入ってくる。


 サイバーブルー、神宮寺 芳香にサイバーグリーン佐々木 麗子、そしてサイバーピンク桃井薫の三人。

 少女達全員がゴーサイバーのメンバーだ。

 

 今現在学校にいるゴーサイバーのメンバー総出演に一部の生徒はおおっとなる。

 ゴーサイバーのメンバー全員同じクラスなので達也が通うようになってからはそう珍しくもない光景なのだが他のクラスからするとアイドルユニットが勢揃いしたかのような驚きのようだ。


「よお銀色の悪魔に勝てそうかい?」


「銀色の悪魔って・・・・・・達也? 話したの?」


「駄目だった?」


「――まぁこんぐらいの騒ぎになれば機密って訳でも無さそうだけど、あんまりベラベラと喋るようなもんでも無いと思うわよ」

 

 ハァと芳香はため息をつく。


「芳香の言う通り。口が軽い」


 麗子も注意するように達也に言った。


 こう言われては達也も「ご、ごめん二人とも」と謝るしかなかった。

 浩も「ありゃ~何かごめんな・・・・・・」と達也に頭を下げた。


 確かに二人の言う通り司令の口止めが無かったとはいえ、ベラベラと喋ってもいい内容ではなかっただろう。

 自分の口の軽さに反省する。ただ自分の不安を誰かに打ち明けたくて喋ったに過ぎないのだが言い訳にはならないだろう。


「まぁそれはともかくそろそろ復帰になるけど大丈夫なの?」


 此方が本題のようだ。

 芳香が心配そうに達也へ尋ねる。


「復帰……って達也も戦うのか?」

 

 浩は意外そうに達也を見た。

 とうの本人は「ははは」と苦笑している。


「訓練も大分こなせる様になって来たし……それにただでさえ戦力不足らしいからね」


「芳香。貴方も人の事言えないよ」


「ご、ごめん……」

 

 芳香と麗子はそんな感じのやり取りをした。 

 基地の内情を知った浩はトレードマークのニット帽を掻きながら口を開く。


「そういやセイバーVも俺達と対して変わらない年齢で戦ってるって聞いたな」


「私もそう聞いたわ。まるで桃井さん達見たいよね」


「まぁ男一人に美女一人いるし、似ているって訳でも無いと思うけど」


「顔を合わせた事はないのか?」


 クラスメイト達が口々に言う。


「それは――」


 と、達也が返事をするのを遮るように少女達の腕に巻かれたデバイスからアラームが鳴る。

 ソレは以前サイバーホワイト、白墨 マリアがサイバックパークで出会った時に付けていた物と同じ代物だ。


 その音が何を意味するか、達也には痛い程理解出来た。

 つまりまた戦いに行かなければならないのだ。

 

(だが何故なんだ? 嫌な予感がする――)


 まるでもう二度と会えないような、そんな気がしてならなかった。

 今迄もそんな感覚はあったがここまで明確に確信を持てた事はない。先程まであの銀色の悪魔の話をしていたせいであろうか?

 だが達也は強く引き留めようとはしなかった。


 そうこうしている内にサイバージェットが学園内に降り立ち、少女達三人は出動する。

 

 出動を見送った達也と浩達はその余韻に少しばかり浸りながらも片付けを始める。自分達は学生であり、その本分は学業をこなす事になる。幾ら友人の為とは言え、その学業を疎かにして学園生活を破綻させるのは度が過ぎた善意と言う物だ。

 その片付けに達也も手伝う。

 

 異変が起きたのはこのスグ後だった。


「なあ? 正門の方が騒がしくないか?」


「そう言えば……」

 

 浩の一言で達也は正門の方へ注視する。

 するとそこには――


「戦闘員!?」


 あの時、サイバックパークを襲撃してきた戦闘員の集団がいた。見間違える筈が無い。

 そして遠目で誰かが戦っている姿も。青い仮面の戦士だ。ゴーサイバーとは外観が違い過ぎる。稲妻のアンテナに黄色いマフラー、アメフトのようなプロテクターの上にはDと言う文字が刻まれている。


「って達也……何処に行くんだ?」


 走り去ろうとする呼び止める。

 

「……もう僕は逃げない」


 ピタッと止まり、彼は振り向く。


「え?」


「僕はね、人って奴に絶望していた。だけどこの学園にいる皆が教えてくれた。人の優しさと信じる心を。僕はそれを守りたい――」


「達也……」


「楠木君……」 

 

「楠木さん……」


 達也はとても爽やかな笑みを浮かべてそう言った。


「だから戦うよ――サイバーレッドとして――皆のために」


 そう言い残して再び走り去った。


『み、皆さん落ち着いて避難してください! 体育館に慌てず落ち着いて――』


 入れ替わりのように教師の批難誘導が始まる。

 とても緊張しているような声色だった。

 怪人の襲撃を味わったのはあの時サイバックパークにいた一年とそれに関係する教員だけだ。その当事者である教員と一年生以外はアテにならないだろう。


 すると爆発音が響き渡った。

 とても近くだ。

 

「この爆発は!?」


「たぶん達也も戦い始めたんだろう!!」


「浩さんどうします!? 俺達も避難しますか!?」


「俺の教室に確か武器になりそうなモンがあった筈だ――それを使う」


「ぶ、武器ですか!?」


「念のためにって奴だ! スタンガンからビニールパイプ、ゴムハンマーまで役に立ちそうなもんは揃えてある。幸い近くだからそれを取ったら体育館まで走るぞ!!」


「は、はい!!」



☆  



「変身」


 体育館へと続く廊下。そこでサイバーレッドに変身を終えた達也は――恐らく他の場所から潜入して来たであろう敵達を専用武装であるアーム、レッグプロテクターは使わず、エレクトロガンを使って次々と戦闘員を倒していく。

 殆どの敵は蹴り飛ばしていき、近距離だろうと遠距離だろうと直ぐさまエレクトロガンで狙い撃つ。

 だが敵はあの時と同じく四方八方から次々と湧いてくる。


(キリが無い!!)


 その状況に焦りを感じた。

 まるであのサイバックパークの時と同じだ。


「オラッ!! どけどけ!!」


 と、ニット帽を被った少年がバイクに跨がり戦闘員を轢き飛ばす勢いで次々と鉄パイプで殴り飛ばしていく。

 結城 浩だ。

 他にも大勢何かしらの武器で武装した仲間がいる。

 

『浩君――どうして!?』

 

「いや~浩さんがどうしてもって言うから……」


「体育館に避難しようとは思ったんだけどね」


「それにこの状況だともう非戦闘員だとかどうとか言ってられないですよね」


 と、苦笑しながらハンマーで叩きつける。

 中にはスタンガンで気絶させる生徒や大音量の防犯ブザーで威嚇したり催涙スプレーを撒き散らしている生徒までいた。全員があの屋上で見知った顔の生徒達だ。それが共に戦ってくれている。

 普通の戦隊物では絶対ありえない光景がそこにあった。

 

 一般人が、ヒーローでは無い人が、何の力も無いと誰が決めた?

 そんなのはただヒーローの強さと怪人の恐ろしさを引き立てるための演出だ。

 決して彼達は無力ではない。

 

 その事実に達也はありし日の自分の気持ちを思い出す。


――変身出来なくたって自分もヒーローと一緒に戦いたい。


 そんな気持ちを持っていたあの頃の想いが蘇っていた。


『みんな……絶対無理はしないで!! 無理だと思ったら下がって!!』


「おう!」


「分かってます!」


 知らず知らずの内に達也の敵を倒す勢いが加速していく。言葉で説明出来ない何か強大な力が自分を後押ししているこの感覚。以前感じた、シュタールを倒した時とは違うが、沸き上がってくる。この熱い力は比べ物にならないぐらいに凄まじく、そしてとても暖かい。まるで自分を優しく包み込んでくれているようだった。

 その気持ちに応えてくれるように自分が握ったエレクトロガンは次々と戦闘員を打ち倒し、視界に写った風景がスローに感じられ、周囲に気を配る余裕が生まれている程だ。


『聞こえるか達也君!?』


『司令!』


『そちらで対処出来そうか!?』


『やって見せます!』


『そ、そうか――』


 司令の通信にそう言い切ってみせる。

 それ程までに確かな自信があった。


『はぁあああああああああああああああああああ!!』


 一度大きく跳躍し、回転。エレクトロガンを次々と迫り来る戦闘員に向けて発砲しながら落下。

 とどめに右脚だけプロテクターを装着、視界に写った最後の戦闘員に蹴りをかます。

 このVFX映画のようなアクロバティックな動きに一堂茫然とする。これがあの達也なのかと?


「スゲェ……」


「か、カッコイイ……」


「幾ら何でも強すぎない?」


 口々に感想を述べながら達也に駆け寄る。


「クククク、調子が良さそうで何よりだな」


『ッ!? お前は!!」


 ここで怪人が現れる。しかも見た事がある。

 忘れようもない。何せ自分を散々痛めつけて、そして自分が初めてこの手で倒した怪人なのだから。

 刃物の頭部と右腕、以前とは違い左腕までもが巨大な刃になっている。

 怪人の名はキラーエッジ。

 確かに死んだ筈の怪人だ。が、こうして姿を現わしている以上幽霊の類いでは無いのは確かだ。


「お前を殺すために俺は地獄から蘇って来た!! あの時は油断したが今回はそうは行かんぞ!!」


『!! 下がって皆!!』


 殆ど直感での行動だったがそれが結果的に功を奏した。

 キラーエッジの両腕の刃から光が放たれる。

 後ろにいる友人達を守るため、プロテクターを装着して両腕を最大限に伸ばす。

 そしてスーツに次々と火花が巻き起こった。


『皆……大丈夫……?』 

 

「た、達也君――」


『僕は平気だから――』


 逃げる暇すら与えぬように立て続けに攻撃が加えられた。だが達也は怯まない。

 敵は近付きながら攻撃を加える。それでも折れない。友人達は必至に身を屈めながら自らの非力さを呪う。

 そしてとうとう敵の巨大な刃物が届く位置に近付き――


「達也ぁああああああああああああああああああああああああああ!!」


「何!?」


 と、ここで浩がバイクを全速力でぶつける。 

 不意の一撃にキラーエッジは吹き飛ばされ、浩までもがその衝撃で放り出される。


「あいててて……」


『ひ、浩君……どうしてこんな無茶を!?』

  

「へへへ……これで少しは借りは返せたかな……」


『借りって……もしかしてまだ気にしてたんだ……』


「それよりも今のうちに――」


「貴様ぁああああああああああ!! 纏めて斬り刻んでくれるわ!!」


「まっず!!」


大したダメージは無かったのかキラーエッジは既に起き上がり、今まさに両手のブレードで切り裂かんと迫り来る。

 

「達也!?」


『早く――逃げて――』


「けど――」


『早く――うっ!!』


 がっ、達也は浩を庇う事でその凶器を諸に背中で受ける。

 何度も何度も繰り返し切り裂かれ、そのつど激痛と共に爆発がおきた。

 

「ハッハハハハハハハハ!! そんな雑魚を庇うからそうなるんだ!! 俺の顔に泥を塗った事を後悔しながら死にやがれ!!」


 凶器の笑い声を上げながら次々と攻撃を続ける。

 一度や二度で止まらない。既に十数回は斬撃を決めていた。

 切られるたびにスーツは傷付き、火花が飛び、そしてマスクの中では口から血が流れ始めていた。

 反撃する暇さえも与えない相手の攻撃――絶体絶命のピンチだった。


 だが――これを救ったのは思わぬ場所からの攻撃だった。


「グォオオオオオオオオオオオオオ!?」


 突然電流が走る。

 見ると背後からスタンガンを押し当てた女子生徒がいた。とても恐かったのだろう、身体をブルブルと震わせていた。


「貴様――」


 ボカッ。


 頭に何かが直撃する。それを確認する暇もなく次々と投げつけられてきた。

 野球ボールにバレーボール、バスケットボール――ありとあらゆる物がキラーエッジにぶつけられる。

 ダメージは無いが心理的な効果は抜群なようで、思わず怯んでしまう。

 

「そ、それ以上は今度は俺達が相手になるぞ!!」


「この学校をおまえ達の好きにさせてたまるか!!」


「内の生徒に手を出してただで済むと思うなよ!!」


 それは生徒と教師達であった。

 達也と浩達の戦いを見ていた彼達――そしてあのサイバックパークでの事件に巻き込まれた彼達が立ち上がったのである。

 

「貴様達ぁああああああああああ!! 全員纏めて死にたいらしいな!!」


 それに呼応するように新たな戦闘員達が現れる。それも一人や二人ではない。数十人と言う数が現れた。手にはナイフや銃火器を持っている奴だっている。

 だがそれでも駆け付けた人々は怯まなかった。

 

『――ホント、どうしてこんなにも……』


 そして少年もまた傷付いた身体で敢然と立ち上がる。

 体内で熱い想いが渦を巻き、その激しい気持ちが体内の隅々まで駆け巡り、ボロボロとなった身体を震い立たせた。

 それが何なのかは達也には分からないがともかくありがたかった。

 

 対してキラーエッジはより狂気のオーラー色濃く吹き出し始めている。

 本来ならば一方的な殺戮ショーし、それを思う存分楽しむと言う算段が彼にはあった。

 

 だが現実はどうだ?

 

 殺され、泣き喚き、逃げる事しか出来ない筈の雑魚どもが立ち塞がり、そしてあれだけ痛めつけた筈のあのガキが今尚戦いを挑もうとしている。

 正直気が狂いそうなぐらい、想像の範疇に無かった事実が眼前に映し出されていた。


 もう見ているだけで反吐が出る。ならば――それを力尽くで破壊すればいい。キラーエッジは両腕の刃を達也達に向けた。


 ドッガァアアアアアアアアアア!!


 漫画のような擬音が鳴り響く。

 キラーエッジは最初は何なのか解らなかった。

 戦闘員が身体にぶつかって、運動場の砂利の地面に擦られながら景色が遠退いて行く。

 自分が初めて戦ったあの時の様に「殴り飛ばされた」と判断したのは吹き飛ばされて著しくの時間が経った後だった。

 遠くではプロテクターを身に付けた達也が足から煙を出して――余程凄い踏み込みだった事を連想させる一撃をキラーエッジーの顔面にお見舞いしたのであろう事を連想させる力を持って――


 それが第二ラウンドのゴングとなった。

 次々と達也の手で戦闘員が殴り飛ばされていく。


 それだけではない、単なる一般人にも戦闘員は倒されていった。

 体育会系の武道派の部活の人間だろうかは戦闘員を殴り倒し、武器を持った生徒達は果敢に挑み、浩は倒れたバイクに再び跨がって暴れ回る。従来の特撮物では見られない壮絶な光景だった。本来静止しなければならない教師までもが戦いに加わる程のケンカ祭り――たぶん異常な状況下でアドレナリンが沸騰し過ぎて正常な判断力が奪われているのだろうと信じたい。保護者達や文部科学省、PTAが見たら卒倒しそうなこの光景。

  

 次々と現れる戦闘員達が可哀想なぐらいに返り討ちに合っていく。

 特に悲惨なのは達也にぶちのめされた戦闘員だ。まるで少年漫画のように宙を舞い空を飛んで行った。

 

「乗れ達也!!」


『ッ!? 分かった!!』


 思いっきり激突したせいで少しボディが痛んだ浩のバイク、後ろ側に乗り込む達也。

 プロテクターを解除し、エレクトロガンを構える。

 

『激突しなくてもいいからあのナイフ怪人に突っ込んで!』


「お安い御用で!!」


 ギュォオオオオオオオオオオオン!!

 二人のテンションを示すようにバイクが唸りを上げる。

 タイヤが砂利を巻き上げながら高速で回転。そのまま突っ込む。

 ……後々になって考えたが別にバイクに乗る必要なんて無かったんじゃ? と二人は思うのだがそれはまた別の話である。最早細かい理屈など不用。


 ただ今はこの戦いに決着を付けるのみだった。


「ガキが!! 調子に乗りやが――」


 エレクトロガンが顔面に直撃し、怯んでしまう。

 

『「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」』


 二人は気持ちが一つになったような感覚を味わった。

 浩はアクセルを全開にし、達也はエレクトロガンを打ちまくる。

 だがキラーエッジもここで根性を見せてデタラメに両腕からビームを連射。二人の周辺で、流れ弾で校舎に爆発が発生する。

 だが不思議と当たる気がしなかった。だから恐怖も何も感じない。

 

『はぁ!!』


 一定の距離まで近付くと達也は空高く飛び上がり、そして浩は言われても無いのに再び本日二度目のバイク特攻。今度は振り落とされず、見事に轢き飛ばす。


『サイバァアアアアアアアアアアアアア!! キイイイイイィィィィィク!!』


 これは暇を持て余した達也が考え出したオリジナル技である。

 

 天高く跳び上がった達也は再度プロテクターを身に付け、両脚をくっつけるようにピンと揃えてその爪先をキラーエッジに向けた。

 達也は両脚に仕込まれた電子クラフトを稼働させ、さながら二本のレールを大気中に敷き、そして自分自身を爆発的に加速させる。

 これにより自分の身体が一つの砲弾となり、キラーエッジへと襲い掛った。


「そんな馬鹿なぁあああああああああああああああああああああああ!?」


 怨嗟の断末魔と共にキラーエッジは真っ二つになった。

 達也は運動場を抉り込むように滑りながらストップ。

 その場に膝をついたところで背後から大爆発の熱い熱風をスーツ越しに浴びる。


「おっしゃああああああああ!!」

 

「やったぁああああああああああああああ!!」


「私達勝ったの!?」


「流石サイバーレッドだ!!」


「カッコ良かったぜ!!」


 大声援が耳に入る。

 あの様子だと戦闘員との大乱闘も終わりを迎えたようだ。


『どうやら僕の出番は無かったようだね』


 と、聞き覚えのある優しい声が耳に入った。


『貴方は――正門で戦っていた――』


「いや、見た事はあるぞ……」


「俺も……てかメチャクチャ有名なヒーローじゃ?」


「てかあの戦争を生き抜いてたのか!?」


「知っている。確か鉄十字軍を全滅させたヒーロー……」


 そうだ。

 確か正門で先に戦っていてくれていた謎のヒーローがいた筈だ。


『僕の名前はデンジダー。君の場合は黄山 茂って言った方が早いかな?』


『え?』


『やっぱり覚えてないんだね。中学の時僕が助けた事も、僕を思いっきりブン殴った事とかも』


 困ったな~と言うニュアンスで仮面をポリポリと掻きながら彼はその事実を告げる。


『え、えええええええええええええええええええええええええええ!?』


 突然の事で思考がパニックになった。

 自分の家庭教師が命の恩人で自分は恩を仇で返した犬畜生でメチャクチャ有名なヒーローだった?

 周りも有名なヒーローの登場に驚愕している。


 デンジダーの活躍は有名だ。

 特にNEW YEAR WAR以前に激しく活動していた鉄十字軍を壊滅させたヒーローとして。

 しかしあの戦争――九割もの戦士が亡くなったあの戦い以降音沙汰は無く、てっきり死んだものかと思われていたがまさか生きていたとは――


『あら、二人して私は除け者?』


『ってその声はナオミさん!? てかその悪の女幹部みたいな姿は一体……』


 ここで唐突にナオミ・ブレーデルが現れる。

 変身状態の姿だがまるで刺々しい、ボンテージの様なアーマーを着せた悪の女幹部みたいな外観に変貌していた。彼女の趣味か、改造した本人の趣味かは分からないが、何だかとてもナオミに似合っているように思えた。


『それよりも基地に帰った方が良いわよ』


『え?』


 そう言えば少し連絡が来ただけで静かだったと思った。

 

『まさか――基地にも奴達が!?』


『僕のマシンで送って行くよ』


『えーと皆は?』


「何だか知らないけど、俺達の事は俺達で任せろ」


「気を付けてね達也君」


『何かあったら連絡して。スグに駆けつけるから』


「それよりも自分の身体を心配しろ。ボロボロだぞ……」


『あっ……』


 浩に言われた通り無惨な姿だった。

 どちらにしろ一度本部に修理に戻った方が良いだろう。

 それに――何だか身体がクラクラして来た。久しぶりの実戦で無茶した反動が来たのだろう。


『私も付き合うわ。ちょっと私達も混乱してるしね』


 こうして三人はサイバックパークへと向う事になった。

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