初出動


 Side 桃井 薫



 輸送機は避難民数十人以上を一気に輸送出来た実績があるだけあって意外と広い。

 元々サイバータンクや各種ゴーサイバー専用マシンの輸送も視野に入れて設計したらしく適度なスポーツが出来そうなぐらいの広さが確保されていた。それでいて以外と揺れがなく静かだった。

 最初はまるでエレベーターに乗っているような感覚で地上を離れ、今はもう「本当に飛んでいるのか?」と思えるぐらいの安定性を感じていた。


(遂にこの日が来たんだ・・・・・・)


 そんな中、一人薫は考える。


(私はもう誰も見捨てない・・・・・・絶体逃げない・・・・・・)


 中学時代の光景が次々と思い浮かぶ。

 強い正義感が祟りイジメの標的にされ、身も心もボロボロになって変わり果てた達也のこと。


(私は見ているだけしか出来なかった)


 ああなるのが恐くてただ傍観に徹していた。

 そんな自分がずっとずっと今でも許せなかった。


 この事を芳香や麗子に話した事がある。

 

 返答は「それが普通だって」、「貴方は悪くない」――だった。


 確かにそうなのだろう。

 もし傍観しているだけで罪に問われるのなら少年院は今頃加害者で溢れ返っている。

 しかし幾ら心の中で議論してもその罪の意識から逃れる事は出来なかった。

 ずっと、ずっと、ずっと――


 だからせめて達也の心の支えになろうと、そして輝いて見えたあの頃に戻そうと必死になった。

 

 中々思うように成果は上げられず、邪険に扱われる事もあったがそれで良かった。

 気色悪く思われるだろうが酷く扱われると何故だか妙に心が晴れ晴れとする感覚が得られたからだ。まるで弱かった自分に罰を与えてくれているみたいで・・・・・・


 だけど今は違う。

 

 傍には達也がいて、自分は力になれる。


 この手で助けられる。


『もうそろそろ現場に到着よ。準備は良い?』


『は、はい!』


 変身したマリアが尋ねてくる。

 一番の年長者であり、スーツに一番精通している彼女がリーダーとして収まるのは妥当な判断だった。

 それに命の恩もある。薫は特に不満はなかった。


『やっぱり緊張するわね』

 

『大丈夫芳香? それに達也も無理しないで』


『僕は・・・・・・分からない。正直自信が無い・・・・・・』


『そう・・・・・・無理だと思ったら避難誘導とか頑張って。とにかく無理しないで』  


『分かった』

 

 弱々しく達也は返事した。


『そうね。ここまで連れて来ておいてこう言うのも何だけど達也君の身体能力じゃ実戦は厳しいよね・・・・・・』


 芳香は達也に同情するように言った。


『だ、だけど――わ、私が守るから!! その、達也君は――』


『噛み噛みになってるわよ薫』


 薫は元気づけようとするが麗子にその点を指摘される。

 マリアは微笑ましくなって『達也の事が本当に好きなのね』と述べ、『僕としては早く引退して余生を過ごしたいです』などと達也は本音を漏らす。


『はぁ、ピクニックに行くんじゃないのよ』


 マリアは呆れたように言った。


 とてもだが戦いに趣く途中とは思えない雰囲気だ。

 マリアはどう感じているかは知らないが緊張しぱなっしの薫にとってはありがたかった。

 

『白墨隊長の言う通りですよ皆さん』


『あ、貴方は――』


 薫のバイザーにとある男が映し出された。

 軍人と言うよりまるで青年実業家のような雰囲気を身に纏っている男性だ。

 何時も仏超面で何を考えているのか分からない――正直薫は近寄り難く感じている。 

 確か名前は「寺門 幸緒」、防衛隊上層部から戦術アドバイサーとして派遣されてきたらしい男だ。


『それよりも楠木君。大丈夫ですか?』


 感情が感じられない機械的な声で達也に語りかけた。


『…………』


 無言で頭を横に振る。


『そうですか――本来ならば実戦に送り込む事さえ躊躇らわれるんですが生憎防衛隊は人手不足な物で猫の手も借りたいと言うのが現状なのです』


『先日の事件の影響ですか?』


 会話に割って入るように麗子が尋ねる。


『はい――事が上手く運んでいればセイバーVの負担どころかリユニオン壊滅にすら打ってでる事すら可能でした。ですがあの一件のせいで我々はこうして防戦を強いられているのが現状です。こう言う日が暫く何度も続くのは覚悟しておいてください』


 そう。

 この男の言う通りこれが自分達の日常となるのだ。

 だから早く馴れなければならない。

 理想の自分になるために、そしてもう二度とあの頃の自分に戻らないためにも――



 現場の数百メートル手前で下ろされたゴーサイバー達は電子クラフトを使用して現場に急行。

 そこで目にしたのは無秩序に暴れ回る戦闘員達と怪人――あの日の光景がそこに再現されていた。

 ゴーサイバーの登場に察知したのか怪人と戦闘員達が一斉に視線を向ける。 


 と、両者を分断するように派手なローター音が響いた。


『あのヘリは?』


 芳香の一言で釣られるように上空へ目を向ける。

 見るとそこにはヘリが空中を舞っていた。側面のドアが開かれ、女性の姿と大きなカメラを抱えている男の姿が見える。

 そして機体側面にはテレビ局の所属らしい文字が刻まれていた。


『マスコミのヘリです。避難勧告はしてるんですが無視されてまして――』


『寺門君の言う通りだ。すまんが無視して戦って欲しい』


『司令の言う通りにお願いします。此方でも引き続き立ち退くように掛け合って見ますんで――』 

 

 戦闘を促すように工藤司令と戦術アドバイザーの寺門が言うが芳香は『何か嫌な予感がするんだけど』と不安を隠さずに口にする。


『芳香の言う通り……』


 麗子も同じ気持ちだったようで達也もこの流れに乗るかのように『僕も。こう言う時にマスコミが関わると大概碌な事にならないんだ』と口をする。


 薫はどう思っているが分からないが『み、皆――』とだけキョロキョロするだけであった。


『今はそれよりも敵を倒すのに集中して』


 お喋りばかりする生徒の気を引き締めるようにマリアが言う。


『そ、そうよね――電子着装!』


『確かに白墨さんの言うとおり――電子着装!』


 二人のベルトに備え付けられた電子機器から粒子が吐き出され、サイバーブルー芳香の手には槍。サイバーグリーン麗子の両手にトンファーが現れた。前回の戦いではお見えする事は無かったがアレが二人の固有武器らしい。


『私も――電子着装!』


『電子着装!』


『で、電子着装!』


 薫が剣、マリアがボウガンを出し、そして最後に達也が両腕、両脚を覆うプロテクターを呼び出し、全員が固有武装を装着した形となる。近接武器が四人、遠距離武器が一人と格闘重視の編成だがそこはソードモードに切り替え可能なビームガン、正式名称:エレクトロガンを駆使して戦うのだ。(*訓練過程で教えてもらった)


 達也の場合はプロテクターのせいで上手くトリガーを引けないのでソードモードしか使えないが、自分の場合は殴ったり蹴ったりした方がてっ取り早いのでエレクトロガンは使用しなくてもいい。

 

『来るわ!!』


 そうこうしている内に次々と戦闘員が突っ込んでくる。

 マリアがサイバーボウガン、薫と芳香がエレクトロガンの片手打ちで次々と撃退していくがまるでゾンビのように仲間の死などお構いなしの如く突っ込んで来てスグに接近戦での乱戦になった。


 手筈通りマリアは距離を取り、達也を含めた近接格闘の固有装備を持つ四人が担当する事になった。

 薫のサイバセイバーが斬り倒し、芳香のサイバーランサーが纏めて薙ぎ払い、麗子のサイバートンファーが達也同様に次々と殴り倒す。

 そして撃ち漏らした敵をマリアがサイバーボウガンで一気に仕留めてゆく。

 

 特に自分を除いた四人の連携は完璧だった。自分がリハビリ染みた訓練に甘んじている間に彼女達はシッカリと訓練を積み重ねた成果だろう。特にこれと言った苦戦もなく、概ね理想的な流れで戦闘員達を倒していった。

 

「セイバーVが来るかと思ったが来たのはゴーサイバーか!!」

   

 今回の怪人は――まるで軍用の戦闘ヘリに人の四肢をつけたような怪人だった。

 コクピット部分にはサメのようなメが光り、本来ならば座席があるだろうガラスとコクピット部の隙間からは鋭い肉食獣のような歯が伸びている。どうやらそこが顔らしい。両肩から伸びるバインダー……いや翼? にはロケットポッドやミサイルらしき武装まである。

 基地襲撃の時といい本当にメタルな敵に恵まれているように感じた。


「俺の名はエアーファイアー!! 俺の火力で吹き飛ばしてやる!!」

 

 様式美に拘るタイプなのか態々自分の名前を名乗ってから空中に飛び上がる。


『だ、大丈夫?』


『…………』


 薫は達也を見る。

 ヘルメットで顔は見えないが明らかに達也は苦しそうになっていた。

 数分にも満たない戦闘で既に吐き気と頭痛、そして倦怠感が体を急速に蝕んでいたのだ。

 誰が見ても戦える状態ではない。


『アンタは下がってなさい』


 芳香は槍を構えて達也に下がるように促す。


『ここは私達に任せて』


 麗子もトンファーを構えてそう告げた。


『その方が良さそうね……桃井さん、傍に付いてあげて』


 隊長であるマリアも二人と同じ決定を下した。


『だけど……』


 達也は何か言いたそうにしていたが芳香は『大丈夫だって。あの時とは違うから』と明るく返す。

 

 麗子も『芳香の言う通り。今度はああならないから』と言った。


 達也はどう言う心中なのか『う、うん……』とだけ返した。


『来るわよ!!』


 マリアの返事と共に空中にいる敵怪人から猛攻が降り注ぐ。

 達也は薫に引っ張られるように手を繋がれ、その場から戦線離脱する。

 


 Side 白墨 マリア



『今思ったけど私達の専用武装って、どうして格闘武器ばっかなの?』


『私も今思った……』


 電子着装を一度解除し、エレクトロガンを空中に向けて発射する二人。

 一方マリアはサイバーボウガンでエアーファイアーに狙いを定めてトリガーを引いていた。

 しかし中々攻撃は当たらない。

 それもこれも敵の爆撃のような激しい攻撃で逃げ回らなければならず、その上相手の軽快な空中旋回機動で中々狙いが定まらないせいだ。

 既に道路はもう火の海になっているがその御陰で邪魔な戦闘員は全滅してくれたのが幸いだったが――


『きゃぁあああああああああ!?』


『ああああ!?』


 芳香、麗子がそれぞれ悲鳴をあげる。


『くっ!! 二人とも大丈夫?』


 マリアも敵攻撃の猛攻に晒されながら二人の安否を確かめる。


『う、うん。少しロケット弾食らったけど大丈夫よ』と芳香が言い、『私も……基地での戦いに比べたらこれぐらい擦り傷』と麗子がクールな態度で返す。


 スーツに焦げ目やダメージによるメカの内部露出部を作りがらも二人は割に元気な態度で応える。

 敵の激しい猛攻はまだまだ新参戦士であるゴーサイバー達には捌ききれる物ではなかった。


『だ、だけどどうする?』


『このままだとジリ貧だね――』


 芳香の返事に麗子が「ジリ貧」と称した。

 実際その通りで『そうね・・・・・・』とマリアが思った時だった。


『此方サイバージェット。これより援護する――』


『サイバージェット!?』


『上空で待機させていました』


 と、冷静な戦術アドバイザーの声が耳に入る。


『町への被害を抑えるために傾斜をつけて突入し、攻撃を終えた後急上昇します。これで倒せるのならそれでよし、無理ならその隙をついて攻撃してください』


『分かりました。皆聞いた!?』


 マリアは他の二人に気合いを入れるように呼びかける。


『ええ!! やってやるわ!!』と芳香が元気よく返し、麗子も『やってみる』と返事した。

  

 そした大型戦闘機のカテゴリーにしてはとても静穏なエンジン音が耳に届く。

 

「何だアレは?」


 エアーファイアーは地上への攻撃を一度中断し、上空へ見やる。

 上空から何かが迫ってくると思った時だった。


『ぐぉ!?』

 

 左半身を抉り取るように閃光が炸裂。サイバージェットの攻撃が直撃したのだ。

 続いて背中を押されるように爆発。地面に直撃したサイバージェットの攻撃による爆風による物である。

 これでエアーファイアーはクルクルと錐揉み回転しながら炎の海になっている地上へ墜落。アスファルトに火花を起こしながら滑り、煙を巻き上げながら着地した。


『今よ二人とも!!』


 この一瞬が勝負の別れ目だった。


『『電子着装!!』』


 再び芳香は槍、麗子はトンファーを呼び出し、電子クラフトを使って地面を高速で滑る。

 そして横へ通り抜けながら斬撃、打撃を浴びせて火花を起こす。


『これでラストよ!!』


 最後にマリアのサイバーボウガンが放たれ、胴体(顔面?)にシュート。

 周囲の火災を消し飛ばすような大爆発が巻き起こる。これがエアーファイヤーの最後だった。


 訓練過程で何度も連携訓練を行い、そして今その成果が実った瞬間だった。本来ならば薫もこの連携攻撃に加わり、そして将来的には達也が加わって成功させてこそ自分達の連携攻撃は完璧となるが――二回目の戦いだと考えれば中々上手く行ったとマリアは思った。


 特に際だった被害もなく――あるとすれば戦場となった市街地の一区画が紛争の跡地みたいになってしまったぐらいだろうが最低限の被害で済んだとも言える。

 

 Side 楠木 達也


「大丈夫?」


「…………」


 サイバーベースの医療棟に運ばれた達也は力なく首を振る。

 フカフカの真っ白いベッドの上で背を預けているが全く体の倦怠感や気色悪さが抜けない。

 本音を言えば善意で見舞いに来ている薫を煩わしく感じていたが人としてそんな事言える筈もなく薫を適当にあしらうように接していた。

 達也は薫の事は嫌いではないが好きでもない。

 反抗期はどう言った物か達也は分からないが今の自分のような気持ちなのかも知れないと心の中で考えていた。

 

 ここでコンコンと規則正しくドアを叩く音が聞こえる。

 誰だろうと思いながらも達也は「どうぞ」と応じた。


「調子は……良く無さそうね」


 マリアだった。 

 長い黒髪に乱れもなく、表情にも疲れの色が見えない。本当に元研究者畑の人間なのだろうかと思ってしまう。

 そして後ろから芳香、麗子も入って来た。これから祝勝会でもするのかと思っていたが表情は暗い。

 勝ったと言うのに何か不味い事でもあったのだろうか? と心配してしまう。


「……今回の戦いである決定が決まったわ」

  

「決定ですか?」


「実戦出動は無期限停止……だそうよ」


「そうですか……」


 何だそんな事かと達也は思った。

 

「驚かないのね?」


「ええ。普通に考えれば当たり前でしょうから」


「だ、だけど達也君は「薫。庇わなくてもいい……」


 俺は薫の善意を遮った。

 

(これで良かったんだよな……)


 正直言うと肩の荷が降りた気分だった。

 

 だが――

 

 本当にこれで良かったのだろうかと言う疑問も渦巻く。


 釈然としない気持ちを持ちながらも達也は窓に映る夜空をじっと眺めた。

     

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