第42話
レベッカはロボット技師としての腕で生計を立てている様で、兄と同じ様にショップを二階から三階建ての住居が並ぶ通りに開いている。
俺達は市場から比較的広い通りを歩いて目的地を目指しており、目的地を目視出来る範囲まで近づけていない。
「今日は厄日だな。戦場でも無いのに行く先々で撃ち合いが起こるとはな。ミック、先に行って状況を確認してくれ。もし、対象者に危機が迫っていたら躊躇するなよ。」
「ボス、了解しました。先行して偵察を行います。」
センサーモジュールが捉えた情報によると、レベッカが勤めるロボットの改造や修理を引き受けるワークショップ周辺から複数のブラスターによる発砲を検知している。
その数は片手の指で足りない程で、かなりの鉄火場と成っている事が予想出来たので、現場に突入する前にミックへ偵察を命じた。
覚えたてのスキルを試せる場が出来て嬉しいのか、軽快な動きで走り出して行った彼を見送る。
発砲は未だに続いており、参戦している勢力が目的を達成していない事が察せられる。
「ミックから目的地の周辺の状況が送られて来ました。傭兵集団が目的の店舗を取り囲み発砲しています。侵入を試みたのか、店周辺に幾人かの死体があります。どうやら、店内からの反撃によって状態が維持されている様ですね。」
「状況までそっくりとはな。違うのは輩の人数が結構多いのと、撃ち返してるのが俺達じゃ無い事の二つかな?このまま当初のルートで進んでも問題無いか?」
レベッカの職場は金で荒事を請け負う連中に多方向から攻められているが、反撃によって不届き者を何人か倒しているようだ。
ミックもスキルが役立ったのか情報を得れるポジションの確保が出来ているらしい。
「いいえ、ルートは変更した方が良いと判断します。このままでは暫定敵勢力に見付かり、頭上や横から攻撃を受ける可能性が有ります。」
「なら、ミックが進んだルートを辿るか、彼にちょっかいを掛けさせて気を逸らせるか、別ルートを見つけるかだな。俺が気を引いてミックに急襲をさせても良いか。」
ミックの報告から敵が建物を囲んでいると聞いて、ガスにルートの安全性を聞いた所、予想通り変更した方が良いらしい。だが、俺に奴等の攻撃が向けば中に居る人間から注意を逸らす事が出来るとも言える。
「ボス、敵対勢力の狙撃手を排除しました。武器の奪取にも成功したので、他の敵を狙撃するのに最適な地点へと移動を開始します。」
「店側の勢力に余裕は有りそうか?無さそうなら狙撃を諦めて陽動を行ってくれ。」
俺が身の振り方に悩んでいると、ミックから朗報と提案がもたらされた。
「襲った相手が良い高出力センサーモジュールを搭載したマスライフルを持っていました。店舗の内部を確認した所、応戦しているのはボットです。シェルターらしき部屋が有り、内部のスキャンが妨害されています。恐らく其処に彼女が居るかと。」
「猶予は有りそうだな。提案してくれた通り、移動を始めてくれ。こっちはこっちで仕事を始めるよ。」
ミックからセンサーモジュールで店舗内をスキャンしたデータと、それを分析した内容が送られて来た。
確かに彼が言う様に店舗内の地下にスキャンが妨害され、内部を把握出来ない空間が有る。その広さからシャルターや金庫と考えて良いだろう。
ミックからの報告に有った傭兵達の姿は、ダイナーを襲った
中でもアーマーを着込んだ奴等を相手にするには、今の武装は頼りない。
そこでミックへ指示を出した俺は、ブラスターピストルの側面に有る装置を弄って出力と射程の設定を変更する。
射程距離を短くして更に消費するエネルギー量も増したので、そこそこの威力が出る様に成った。貫通は無理でも嫌がらせ位には成るだろう。
敵の位置情報に因るとそれらの中でも真っ先に出会いそうなのは、最も数が多く最も弱そうなチンピラの集団だ。
どうやら、数に任せて人の行き来の妨害や邪魔者の排除を任されているらしい。周囲の民家や個人商店には非武装の生体反応が一切無い。
スキャン結果によると、チンピラ共はサブマシンガンタイプやピストルタイプ等のブラスター、鉄とそう変わりが無い汎用メタル製の棒やただのナイフ等と言った安価な武器で武装しており、どれもホランド製のギダル合金アーマーの前には無力だ。
道を挟む住居にそれぞれ三人ずつ詰めており、中で酒盛りをしているのか武器の代わりに俺がホランドに買って行った様な容器を持つ物が多い。
大層ご油断召されて居る彼等には、戦場からの速やかな退場を願いたいので、一切の容赦や住居の持ち主に対する配慮を忘れて行動を開始する。
先ずは向かって右手側の住居に居るチンピラを片付ける為、そちらへ歩いて行くと一応の警戒はしていたのか、それぞれの得物を持ってわざわざ出て来てくれた。
「アンタ、ヒック。あのハリボテ鎧集団の仲間か?随分遅れて来るじゃねぇか。えぇ?偉そうな態度の割にズボラだな。立派なのはアーマーだけか、この野郎。」
「絡むんじゃねぇよ。カス。クセェ息を掛けんな。」
顔色の分からないゴツゴツとした褐色の肌を持つエイリアンが、酔って絡んで来る。どうやら、重武装の板金鎧集団の仲間だと思われたらしい。
他の二人も似た様な具合で、薬物もやっているのか足取りが覚束なく、ブラスターを握る腕も振るえている。
俺は、ガンを付けてくる相手に喧嘩を買う様に見せかける様に近付いて行くと、相手もその積りなのか此方にズンズンと歩いて来る。
今にも額がかち合いそうな距離まで相手が近付いたので、手に持ったブラスターピストルを相手の衣服にしか覆われていない土手っ腹へ向け、その引金を一度だけ引いた。
一切の力みも無く、自然に起こされた動作にチンピラ達は誰も反応出来ず、唯々立ち尽くすのみだった。
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