第2話
五月十三日生まれの牡牛座A型
身長164cm、体重不明(とても華奢)
スリーサイズ、上から90・58・85
(めんぞー・サーチアイ調べ)
生まれつきのお嬢様。その姿は品格・徳行・奥ゆかしさを備え、しとやか且つ艶やかで美しい。
家族構成は不動産白百合グループの総裁の父、ビオラ奏者の母、年離れた社長の兄、そして花蓮ちゃんがおねだりして最近飼い始めたというペットのジョセフィーヌ。
趣味はお菓子作り、クラシック鑑賞。
ジョセフィーヌとのお散歩。
ジョセフィーヌのアクセサリー・洋服作り……。
「……はあ、たった三時間で花蓮ちゃんの事をここまで調べ上げた俺、素晴らしい!!」
新品の現国ノートにまとめた『花蓮ちゃんプロフィール』の出来にウットリする俺。
クラスまで一緒の上、席まで隣の亜美が「ストーカーじゃん」と呟くのは無視。
「旭く〜ん、授業中だよ~」と声掛ける担任の
「しっかし、ジョセフィーヌってなんだ? 花蓮ちゃんのペットとか、どんだけ前世で徳を積んだら、ペットになれるんだ?」
「お散歩するなら血統書付きの犬とかじゃないの?」と亜美。
「ああっ! 犬うらやましー! 犬ぅ!!」
「
「あ、そっか!!」
俺は立ち上がる。
「学校じゃなくてお家の前で待ち伏せして、ジョセフィーヌのお散歩に出て来た花蓮ちゃんと偶然を装って出会えばよくね?!」
「旭く〜ん、授業中に、下心を口に出しちゃあ、ダメだよ~?」
「先生! 俺、まだ古傷が癒えてなかったので、早退します!!」
俺は花蓮ちゃんノートを抱きしめ、即座に鞄を持つと教室を飛び出した。
しかし、教室を出た所で
「!」
「……めんぞー君。君は一体、どこへ行く気だね?」
「お、お前ら、授業は?」
「そんな下賤の所業、とっくのとうに卒業したわ!」
「じゃあ、高校来るなよ……」
「
芳雄がわざわざ白手袋を外し、パチンと指を鳴らすと廊下がズゥンズゥンと地響きで揺れた。
立っていられなくて、俺は思わずその場にへたり込む。芳雄以外の取り巻きも。
すると突如、大男が俺の前に現れたのだ。
「ウリィぃイイイイイイ~~!!」
学ランはボロボロ。
(入学してまだ二ヶ月なのに)
上着のボタンは全部ぶっとんでいる。
その上着からポロリしている胸筋は、最近自我を持ち始めたらしく、生き生きと揺れ動いていた。
人間は一周目っぽいけれど、人外の人生は十五週目では? と思える様な野生的な顔つき、髭と体毛の境界線を失った大男。
そんな獣の様な男が、ブシュ~! と鼻息荒く、俺を睨みつける。
……さ、三メートルはあるんじゃない?
これで15歳だなんて、どうかしているな……。
「おや? 岩石の登場にビビっているのかい? おい、ちょっと力を見せてやれ」
「ウリィイイ~〜!!」
岩石は拳に力を込めると「ホベラァ!!」と教室との間の壁を殴った。
すると壁にヒビが入り、壁は一気に粉砕。
亜美達が居る教室の中が丸見えになった。
奇跡的にクラスメイトは全員無傷である。
「お、お~い。壁に、穴開けちゃ、ダメだよ~」と葉金井先生。
「どうだ、岩石の怪力ぶりは。大人しく教室に戻れば、今なら許して……」
「くっくっく……。くーっくっく! あーっはっはっはっは! ハッハッツ、フグっつ、グフっ……ゲフンゲフン!」
こいつら、俺の事を分かっちゃいないぜ。
笑い続ける俺に、ビビッて何度も何度も眼鏡のブリッジを上げまくる芳雄。
眼鏡フレーム、顔に合ってないんじゃないか?
「な、なぜ、笑うのだ?」
「フフ、俺は無類の女好き。そこらへんの女好きと一緒にするなよ。障害があればあるほど、俺は強く、
口上を述べ終えた瞬間、周囲から見れば俺は消えた様に見えたと思う。
俺は『花蓮ちゃんノート』の白紙ページを一枚破り(この間の所要時間0.2秒)、
人差し指と中指の間に挟む(0.1秒)、
そこから岩石との間合いを詰め(0.1秒)、
そして削った(0.5秒)。
そして岩石が瞬きした瞬間、彼の髭と体毛が全部剃られて、床にハラハラと落ちた。
「な、なに!!」
「ファ〜~ッツ!?」
つるつるになった岩石のボディは、艶やかに光り輝く。
「な、なんて、速さだ!」
「紙で髭を剃りやがった!」
「めんぞー秘技、
「お、お~い。髭は、トイレで、剃りなさ~い」
わなわなと唇を震わせて悔しがる芳雄に、大事な髭を剃られて怒り心頭の岩石。
俺はそんな二人にニヤリと微笑み挑発するように手招きをすれば、我を忘れた岩石は再び襲いかかって来るのだった。
★
――それからもバトルは続いた。
だが
お昼休みも終盤に差し掛かる頃には『花蓮ちゃんを見守り隊』を
その頃には俺たちの騒ぎにたくさんの野次馬も訪れて…………。
……途中で気が付いたのだが。
その野次馬の中に、なんと花蓮ちゃんが居たのだ!
俺は見逃さなかった。
戦う俺を花蓮ちゃんは祈るように手を組み、恍惚とした目で見つめていたのだ。
その頬は赤く、俺に惚れているのは一目瞭然だった。
最後の最後まで善戦をした岩石が「ユーアー……クレイジー……!」とグラリと倒れ灰になるのを見届けると、俺は花蓮ちゃんの前に立った。
俺を見上げ、顔を赤らめる花蓮ちゃん。
……可愛いな。
俺は言った。
「好きです」
「…………はっ! わ、私も、好きです!」
周囲がざわりとする。
「付き合ってください! 恋人として!」
「……はい!!」
周囲は阿鼻叫喚の嵐。
周りは花蓮ちゃんの返事にとても驚いていたが、俺にとっては息を吐くぐらい当然の結果であって。
自然の摂理と同じくらい当たり前の事なのだ。
――かくして俺・旭免蔵は、高校生活初日に学校一の美少女お嬢様とお付き合いする事になったのだった。
亜美「……え、嘘でしょ……?」
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